様々な勇者
「片方は孤高の勇者、なんて言われ方をしている勇者……名はロラン=アズウェル」
お茶を飲んだ後、キイラは改めてユークへと語り始めた。
「異名の通り、シャンナやルヴェルとは対極に位置する、完全に一人で魔物を狩る勇者だね」
「一人なのは何か理由が?」
「会話をする分には至って普通の人間だよ。アタシも何度か一緒に酒を飲んだことあるけど、物静かな性格くらいでとりたてておかしいところはない」
そうは言ったが、キイラの顔には笑みが浮かんでいた。
「その異常性が見られるのは戦った時だ」
「異常性……」
「魔物に勝つためなら手段を選ばない……といっても、別にヤバい魔法とかを使っているわけじゃない。武器、道具、ありとあらゆる物を使って必ず勝つ……戦術とか技術とか、そういうのを超越した戦い続けるだけに特化した勇者。それがロランだ」
そこまで言うとキイラは肩をすくめた。
「一人なのは、そんな戦いぶりに誰もついてこられないから、というのが理由だね。死にに行くような無茶な仕事だってする。けれど絶対に生きて帰ってくる……技量、という点ならシャンナの方が間違いなく上だし、戦いの勢いという観点ならルヴェルの方が上回っている。完全に自分が生き残るために特化した勇者。それがロランという人間であり、勇者だ」
「……かなり無茶をしていると」
「戦いぶりを見ればわかるさ。正直、なんで今まで生きているのか不思議だと感じるだろうさ……ま、そういう生き残る本能みたいなものが特化したということなのかもしれないね」
そう語ったキイラに対しユークは沈黙。一方でアンジェは、
「勇者にも……様々なタイプがいますね」
「同業者を見ていると、本当に千差万別で普通の人が考える典型的な勇者、なんていないというのがわかるよ。アタシ達は全員、国から何かしら教育を受けて勇者になった。全員勇者の証を持っているし、相応の力はある。でも、生き方とか考え方とか、あるいは価値観とかで、まったく別物に変わる」
キイラはここでユークとアンジェ、交互に視線を送った。
「二人はどんな勇者か……ま、片や史上最強とまで言われ、国にもっとも大事にされてきた勇者。片や貴族の家系とくれば、現在活動している他の勇者とも違うだろうね」
「……あんまり良い言い回しじゃないですね」
「アンジェ、そう思うかい? いやいや、別に嫌みを言っているわけじゃないさ……勇者の中には強さにこだわる連中もいるだろうけど、大半は他の勇者のことなんてあまり興味がない……いや、この言い方は妥当じゃないね。他の勇者を気にするようなことはない、ってところかね」
「……先ほど、キイラさんは同業者の方と話をしていました。勇者のご友人、ということで良いのですよね?」
「まあ、そうだね。友と言われると微妙だけど、顔なじみではあるよ」
「一緒に仕事をされたことだってあるはずですけど……そういう人に対しても、気にするようなことはない、ですか?」
「大抵の勇者は、強さで上下を決めているわけじゃない、ってことさ。勇者に見るのはその本質……普通の冒険者や戦士とアタシ達が決定的に違うのは、ここだろうね」
「本質……」
「人間性、と言い換えてもいいかもしれない」
キイラはそこまで語ると、一瞬遠い目をした。
「……勇者オルトの一件だって、彼を知っていた人間からは残念に思っているさ。でもその一方で、やっぱりなと考える人間だっていたよ」
「やっぱり……というのは……」
「国に反旗を翻すつもりだろう、なんて推測していたわけではないさ。ただ常日頃、国に敵対感情があってそれを口にしていた……普通の人なら柔和な笑みで騙されたかもしれないけど、アタシ達は人の感情も機敏に察するからね……シャンナとか、そのレベルになったら目が合っただけで心を読まれる、なんてこともある……あんたは」
と、キイラはユークへ目を向けた。
「その一人、だろう?」
「……何をしているかわからずとも、なんとなく推察はつくのか」
「アタシの場合は、多数の勇者と交流したことによる経験によるものだね。ま、この領域になるまでずいぶんと頑張ったもんさ。あんたの場合は最初から備わっている……幼い頃から行ってきた鍛錬の賜物、といったところかな?」
「……かもね」
ユークは答えながら彼女へ目を向け続ける。
邪気のない笑み――キイラが見せているのはまさにそれだ。
(一飯の恩はとても大きい、ってところか)
彼女の評価尺度では、奢ってもらったら相応の礼をすべき、という考え方のようだ。
(彼女は勇者としては非常に接しやすい手合いだと考えていいだろう。他の勇者……特に話題に出た勇者はどうなのか)
「最後の一人について説明をしてもいいかい?」
キイラから問い掛けてくる。ユークが無言で頷くと、彼女は改めて説明を続けた。




