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史上最強勇者、家出する  作者: 陽山純樹
第二章

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女剣士

 ユーク達が助けに入るより前に赤髪の女剣士が魔物を抑え込み、まずは剣でその体躯を押し返した。男勝りな風貌の女性は魔物に一切怯むことなく、剣を構え直し立ち向かう。


「全員、魔物から離れな!」


 そして中性的な声音と共に人々へ指示を出すと魔物へ仕掛けた。口調とは裏腹にその剣術は流れるようであり、同時に騎士が使う剣術とは一線を画するもの。


(たぶん、達人級の剣士から指導を受けたんだろう)


 そうユークが推測する間に、とうとう彼女の刃が魔物の体へ当たった。途端に魔物は吠え、矛先を女剣士へと変えて攻撃する。

 だが魔物の反撃を女剣士は容易くかわすと、再び流麗な動きで斬撃を見舞った。それはどうやら魔物にとって致命的だったようで――大きな体躯が地面に倒れ伏した。


 そして消滅を始める――ユーク達が現場へ到着した段階で、決着はついた。


「……悪いね、そこの二人」


 すると女剣士が声を上げる。それはユーク達に向けられたものだ。


「すごい速度で街道を駆けてくるから驚いたよ……その様子だと、勇者かな?」


 問い掛けにユークは頷くと、


「そうです。あなたは?」

「私も同じ勇者だよ……しかしずいぶんと若いね」


 ユーク達をまじまじと見つめる女剣士。


「その見た目から活動しているとなったら……相当腕に覚えがありそうだ」

「どう、でしょうね。個人的にはまだまだ修行が足らないと思っていますが」


 謙遜するようなユークの物言いに対し女剣士は「そうかい」と相づちを打ち、


「まずは自己紹介……よりも先に、こいつをどうにかしないといけないね」


 彼女は横倒しとなった馬車へ目を向ける。馬は無事な様子であり、荷台をどうにか起こせればなんとかなりそうだった。


「二人も手伝ってくれ」

「はい」


 ユークが代表して返事をすると、女剣士と共に馬車へ近寄っていく。そして魔物によって腰を抜かしていた周辺の人々もまた近寄り、馬車を起こすべく作業を始めたのだった。






 人数を掛けて馬車を起こした後、車輪と馬が無事だったので乗っていた人達は再び馬車に乗って町へ向かうことに。

 残されたのはユーク達と、赤髪の女剣士。ガラガラと車輪の回る音が遠ざかっていく中、やがて女性が声を上げる。


「さて、改めて自己紹介だね……二人もラナベールへ向かうのかい?」

「はい、そうです」

「なら同じ仕事を請け負ったということになるね……アタシの名はキイラ=ネイベルだ」


 女剣士キイラの言葉を受け、ユーク達もまた名を告げる――と、


「ん……? なんか聞いたことのある名前だね」

「俺の名前ですか?」

「ああ、丁寧な言葉遣いはいらないよ……そうだ、噂になっていたんだ。勇者オルトを捕まえた人物で――何より、史上最強だと」

「別に最強じゃないと思うんだけどね……」

「ははは、称号が重たいってわけかい。ま、言われている内が華だよ、頑張りな」


 笑いながら話すキイラの言葉にユークは肩をすくめる。


「あの、もしかして俺って名前が結構知られていたりする?」

「んー? どうなんだろうね。アタシは知り合いに勇者オルトと縁のある人間がいたから耳にしたわけだが……ただまあ史上最強、なんて称号がある以上は強さに自信のある人間からすれば興味の対象になるかもねえ」


(……勇者と交流する上では史上最強、なんて評価を利用するのも手ではあるけど、血の気の多い人しか集まらなさそうだな……)


 一応交流する手法の一つとして、ユークは候補に入れることにする。


「ここで会ったが何かの縁だ。ラナベールまであと少しだが、よければ一緒に行かないかい?」

「構わないけど……」


 ユークが応じた瞬間、ぐぅと誰かのお腹が鳴った。それがキイラのものであるとユークが理解した時、彼女は苦笑しつつ、


「ああ、悪いね。金欠で昨日から何も食べてないんだよ」

「……もしよかったら、携帯食料とか食べる?」

「いやあ、さすがに何もしてないのに申し訳ないさ」


 あはは、と笑いつつも再度お腹が鳴る彼女。と、ここでアンジェが、


「あの、キイラさん。提案いいですか?」

「ん、なんだい?」

「町に関する情報などを教えてもらえると嬉しいです。その情報料として、町で食事代を工面するとかでどうでしょう?」


(ああ、そういう手もあるか)


 言われてみれば良い手だ、と思った矢先キイラは申し訳なさそうに、


「いいのかい? アタシの方は願ったり叶ったりだけど」

「私達、あまり同業者と交流した経験もないので、教えて欲しいことが多いんです」

「そうかそうか。もしよかったら、いくらか人も紹介してあげるよ。それじゃあ、町まで行くとしようか」


 奢ってもらえるということで上機嫌になったのかキイラは笑みを浮かべながら歩き出す。ユークはこれも交流の一つか、などと思いつつアンジェと共に彼女に追随することとなった。


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