調査結果
お昼を過ぎたくらいの時間帯でユーク達は一度屋敷へ戻った。そしてシアラのやっていることが異空間の調査なのかと問い掛けたところ、
「あら、何も言っていなかったのにわかるのね」
「索敵魔法でも見つからないなら、そういう想定だろうと俺は考えただけだよ」
「そう……なら、一ヶ所ではなく複数ヶ所あるかもしれないという可能性は考えた?」
「……そんな可能性もあるのか?」
「大森林に存在する魔力なら、大きな異空間を作成し入口を複数にする、なんて方法も可能だと思うわ」
「なるほどな……大規模な空間であるなら、その内側で魔物の生成も可能か」
「そうね」
応じたシアラはユークへ視線を向けつつ、
「ならあなたは……使い魔を探していたのよね?」
「予想はついていたか」
「森の中に潜伏しているのなら、情報取りは当然使い魔でしょうからね」
「それで、現段階での結果は?」
ユークが尋ねるとシアラは首を左右に振りながら、
「残念ながら成果はなし。というか、現在は過去の情報と照らし合わせて怪しい場所を調べる段階だから」
「そうか……こちらも怪しいものは特に見当たらなかったとだけ言っておく。ただ町の周辺しか調べていないから、もしかしたら町中に使い魔が入り込んでいる可能性もある」
「その精査はこれからね」
「ああ……ただ、こちらがそういうものを調べていることは敵に露見したら面倒なことになる。よって、露見しないようにやるから時間は掛かるぞ」
「相手に気取られないように。ね……わかったわ、こちらも気取られないように動く」
「……また魔物が現れた場合はどうする?」
「状況に合わせて動くわ。さすがに配下に戦わせるといったことはしない。私が動くか、あなた達に頼むかの二択になるけど」
「シアラは動かない方がいいと思うぞ……狙われている可能性もあるわけだし」
「懸念はあるけれど、あなた達に任せっきりというわけにはいかないわ」
強い言葉だった。ユークは彼女の戦意を見て、
「わかった、ならどうするかはシアラの判断に任せる」
「ええ」
「……もし、使い魔や異空間と思しき場所が見つかったらどうする?」
「調査は継続し、情報取得に専念しましょう。使い魔一体よりも二体、怪しい場所が一ヶ所よりも二ヶ所あった方が、調査隊が来た際に話がしやすくなる」
「……敵はまだ潜んでいて、こちらの動向を窺っていますよとアピールできるわけか」
「そういうこと」
「なら、作業を進めるよ……アンジェ、休憩が終わり次第今度は町中を調べてみよう――」
――そうして、ユーク達は調査を続け、やがて王都から騎士と魔術師による調査隊がやってきた。時刻は明け方で、シアラは少し慌てた様子で彼らを出迎えた。
それを率いているのは将軍であるノイド。騎士団長のルークはいなかったが、将軍が率いてきたということでログエン王国がどれだけ調査に重きを置いているのかが明瞭であった。
「本来は別の者に託すつもりだったが」
屋敷の会議室で将軍と顔を合わせた際、先んじて彼が口を開いた。
「敵がいるかもしれない、という点で戦力を投じることとなった。総勢二十名ほどだが、精鋭を連れてきた。それで、現在の状況は?」
ユークとシアラは互いに顔を見合わせる。独自に調査を開始して、進展はあった。
よってシアラが代表して口を開く。
「結論から言いますと、敵はまだ大森林内にいます」
「潜伏していると?」
「はい……異空間を作成し、なおかつ使い魔により町まで情報収集に来ています」
――ユークは町中で使い魔を発見し、なおかつシアラは合計三ヶ所、魔力溜まりとは異なる魔力の集積点を発見した。
「私は大森林内の魔力……魔物が発生するであろう魔力溜まりの観測をしてきました。そうした中、明らかに異質な場所に魔力が滞留している場所が」
「それこそ異空間の入口か」
「はい。ただこれだけなら新たに魔力溜まりが発生しただけと解釈することもできますが、勇者ユークが見つけた使い魔がその魔力溜まりへ向かっていくのを確かめました」
「空間に入っていく姿は目撃したか?」
「使い魔のサイズへネズミくらいで、さすがに直接肉眼で確認してはいませんが……」
「そこについては一応確認したまでだ。新たな魔力溜まりと使い魔……調査を行うには十分過ぎる理由だな」
ノイド将軍は幾度となく頷き、
「では早速現地へ向かうとしようか」
「……今からですか?」
「今日からやるつもりだからこそ、こうして朝到着したのだ」
(相当やる気だな)
ユークは内心呟く。
「魔力溜まりの場所まで案内してもらえるか? 我々が来たことを敵も観測している可能性は高いが……今こちらが動けばさすがに逃げる余裕はなく、引きこもることを決断するだろう」
そうノイド将軍は述べた後、力強い言葉でユーク達へ宣言した。
「今日で事件を解決する……勇者シアラ、勇者ユーク、勇者アンジェ……どうか手を貸してくれ――」




