動機の推測
「純白の魔物が出現した後、紅と緑が現れた……それを踏まえると、組織が大森林を重要な場所と位置づけている可能性は高いでしょう」
シアラはノイド将軍へと語っていく。
「ただ、現在は魔物を討伐して沈静化しています。今後も同様の魔物が現れれば、どこかに潜伏している可能性はありますが……」
「少しばかり調査が必要だな……勇者シアラ、大森林内はどの程度把握している? 潜伏できる場所などはあるか?」
「長期間人の目に触れない、隠れることのできる場所というのはないかと」
「例えば洞窟などもない?」
「はい」
「だとすれば、潜伏しているとしても野宿になるが……さすがに、これはすぐにバレるな」
将軍の言葉にシアラは頷く。
「ただ、魔物が出現していることから決して遠くにいるわけではないでしょう」
「わかった。ならば大森林内を捜索すべく、調査隊を派遣する」
将軍の判断は素早かった。ユークはそれに同意するように頷きつつ、
「ただ、ディリウス王国領内については? さすがに組織に関する調査とはいえ、いきなり国境を越えるのは……」
「君達で連絡してもらいたい。外交ルートを通じてでは、おそらく調査隊がここへ来るまでに間に合わない」
「……アンジェ、報告書を」
「わかりました」
ユークの指示にアンジェが頷くと、ノイド将軍は満足そうな表情を見せ、
「ある程度の展望は見えたな……大森林内に騒動の首謀者がいれば、それで一応事件については解決する。肝心の組織については……勇者ユーク、捕まえた人物を尋問して情報は得られないだろうか?」
「勇者オルトから何も情報が出てこないので、おそらく同じでしょうね」
「組織は相当厄介な存在だな……とはいえ、ひとまず目先のことを解決してからだな……と、一つ疑問がある。騒動を引き起こした人間、その動機は何だ?」
「そこはこちらも疑問です」
ユークは将軍へ視線を送りつつ、語る。
「組織は密かに魔物の生成実験を行っていた。目的はわかりませんが、魔物の特性から考えれば下手すると国に喧嘩を売る、という方針であってもおかしくありません」
「うむ、今はその準備段階だな」
「そうした中、ログエン王国では魔物による事件が起きた……組織が何かしらログエン王国の王族に恨みを持っていて、魔物を用いたという可能性も否定できませんが……生成実験そのものは密かに行われ、まだ目的の遂行には遠いだろうと予想される以上、わざわざ実験段階の魔物を使う理由がない」
「例えばの話、普通の魔物に偽装して襲撃すれば、単純に王族に恨みがある誰かの仕業、くらいで留まっていたかもしれないな」
「はい」
ユークの言葉にもっともだとノイド将軍は頷きつつ、
「ただ、そうだな……君の話を聞いて、怨恨という可能性もあるかもしれんと私は考える」
「何故ですか?」
「魔物が王族を狙っていた時共通していたのは、是が非でも仕留めようという強い意思だったらしい。執拗に狙い続けるその姿から、魔物に感情が宿っているように見えたそうだ」
「……組織内でログエン王国に恨みを持つ人間がいて、組織の命令ではなく独断で生成した魔物を使った、とか?」
「そういう可能性もあり得る、かもな」
だとするなら――組織としても予期していなかった事態。
「ただし、現時点において大森林内で魔物が生じている理由については不明のままだ。王族を狙い続けるのではなく、わざわざここへ魔物を生み出している……場合によっては森の中にいる」
――結局、どのように考えても疑問は出る。ただ、ユークとしては少しずつ事件の全貌が見え始めたのも事実。
「まずは何より、森の中について調査だ」
そしてノイド将軍は話をまとめる。
「勇者シアラ、多少なりとも戦力を投入する。それが来るまで警戒を続けてくれ」
「はい、わかりました……もし調査の過程で敵が出た場合は?」
「無論、国を脅かした存在である以上は、対処する。調査に入る間は、決戦になることも心構えしておいてくれ」
――将軍の言及にシアラは頷いた。
大森林に事件を引き起こした首謀者がいるのかはわからないが、組織が関与していることはおおよそ間違いなく、ログエン王国としては他に手がかりもないため、まずは調査に注力するようであった。
そうした中でユークは考える。組織はディリウス王国の上層部の状況も把握している。となれば当然、ログエン王国にもそうした人物がいる。
(王族を襲撃すること自体、情報を持っていなければ無理だからな……)
であればこの動きに対し組織はどう動くのか――ユークとしては何かが起きるとしたら調査隊が来るまでの時点で――という可能性を考慮する。
(情報をつかんだら逃げるかもしれない? 森の中については常に確認しておかないといけないか?)
「速やかに私達は準備を進める」
そして将軍はユーク達へ言った。
「国としては今回の事態、非常に重く受け止めている。私もルークも、解決のために尽力する。今後もここへ来ることがあるだろう。その際は、よろしく頼む――」




