混沌の力
「肉眼で確認してはいないけど、小屋の建材から魔力を吸い取った魔物は、ログエン王国で騒動になった紅の魔物である可能性が高いな」
ユークはそうアンジェへ話を続ける。
「構造物……つまり人が暮らす家とか城壁とか、そういう物から魔力を吸い取るというのは、町にいればいくらでも魔力を得ることができる」
「町を攻撃するのに強い、というわけですか」
「そうだ。町などを強襲する際に使われる魔物……といったところかな。ついでに言えば、魔力を吸い取って劣化させるのであれば、例えば城壁などに行使して一部分だけをボロボロにするとか、そういう使い方だってできる。本来町の城壁は魔法によって強固にすることが多い。特に王都のような重要な町なら。そういう場所にある城壁を、魔法を維持するための魔力ごと吸収すれば、いくらでも城壁を破壊できる」
「恐ろしい能力ですね……」
「攻城戦の必要性がなくなるからな……こんな特性の魔物まで準備しているとなると、いよいよ国攻めなんてものが現実を帯びてきたか」
ユークはこれまで遭遇した魔物のことを思い返す。漆黒――驚異的な身体能力を持つ個体としての強さを持つ魔物。次に純白。魔法を扱うことが可能であり、その能力から遠距離戦を得意とする。
そして青の魔物は魔物を生みだすことが可能であり、今回の紅――全て恐ろしい能力だが、この中でとりわけ危険なのが青の魔物。
ただ、とユークは内心で考える。
(あの魔物、大気中の魔力を利用しているから一見すると無尽蔵に魔物を作成できるようにも見えるけど……おそらく、一体の魔物で作成できる個体数には限度がある)
そう考える理由としては、交戦した際の魔力。ユーク達は洞窟奥に潜む青の魔物が多数の魔物を生成したため、まずは、そうした魔物を迎撃したのだが、
(青の魔物が生み出した魔物には多少なりとも青の魔物と同一の魔力が存在していた。命令などを与えるためには、青の魔物自身が持っている魔力を魔物に分け与える必要がある。それによって使役している)
――自然発生した魔物と異なり、何者かが生み出した魔物というのは作成者が消えれば魔物も消滅する。これは青の魔物でも同じはずであり、
(魔物を生成するのに必要な魔力は、たぶん大気中の魔力を取り込んでも回復しない……回復できるのであれば、一体の魔物で無限に魔物を生成が可能ということになる。それができるであれば、組織はとっくに国へ攻撃を仕掛けているはず)
「……アンジェ」
「はい」
「青の魔物だが、以前交戦した際に使役していた魔物にも青の魔力が存在していた」
「その魔力を基にして、生成や命令を行っていたというわけですね」
「そうだ。それは大気中の魔力を取り込んでも回復はしないと思われる」
「魔力を使い切ると魔物は生成できなくなると」
「ああ。厄介な能力だが魔物の能力には限界がある……だからといって放置というわけにもいかないけど」
「組織が魔物を作り実験を繰り返しているのはそうした能力を向上させるため、でしょうか?」
「たぶんそうだな。どういう技術が由来となっているのかは……以前国から届いた手紙に書いてあったな」
「はい、『混沌の主』の力だと……ユーク様は、どうお考えですか?」
問い掛けにユークは少し間を置いて、
「組織が『混沌の主』の力を利用して何を考えているか、だな? 正直、復活させようなんて考えてはいないだろう……勇者オルトのように、現行の勇者制度に否定的な人間を勧誘して反旗を翻すにしろ、そんなものの力を利用してまで、とは賛同者も集まりにくい」
「幹部は有効利用しようと考え、構成員に対して秘密にしているとかは?」
「さすがにそれも無理だな。魔物の研究をしているということは、当然どういう由来なのかを調べないといけない……組織に多数の勇者がいて、さらに国側に内通者がいるとなったら、どれだけ頑張ってもこの事実を隠し通すのは無理だろう」
「ならば利用するだけで『混沌の主』を復活させようとは考えていない?」
「たぶんな」
ユークは応じつつ索敵魔法を行使。魔物の居所を探る。
「話はここまでにしよう。まずは一番近い魔物を倒す。どういう能力を保有しているかはわからないから、最大限警戒をしてくれ」
「はい……森には複数体魔物はいるようですが、各個撃破ですか?」
「ああ、それがいいだろう……魔物と交戦し、他の魔物がどう動くかによって立ち回りは変わるだろうけど」
「もし私達の所へ一斉に来たら、どう応じるべきか考えなければいけませんね」
「ああ、そうだ……俺が魔物を仕留める。アンジェは周囲に注意を払ってくれ」
「わかりました」
頷いたアンジェを見てユークは魔物のいる方角へと進む。茂みの中を進み、鬱蒼と茂る森の中で――やがて肉眼でその姿を捉える。
視界が緑色で多くを占める中、目立つ紅――あれがログエン王国の王族を襲った魔物で間違いない、とユークが確信した時、魔物が顔を向けてきた。




