新たな魔物
ユーク達は速やかに町を出て大森林へと向かう。拠点としている町、シラムスから森――シュバーレイド大森林は見えており、ユーク達の移動能力であればあっさりと手前まで到着した。
「さて……」
ユークは森を見据えながら索敵魔法を展開。それによりわかったことは二つ。
「魔物は複数体いるな。で、雰囲気的には俺達が遭遇したどの魔物とも違う」
「新たな魔物ですか」
「あるいは、ログエン王国王族襲撃事件にあった、紅の魔物か」
「……もしそうであれば、襲撃事件の主犯者がいる?」
「だとするなら、余計に理解できない行動だな」
ユークはアンジェに応じつつ、肩をすくめた。
「ログエン王国は魔物を生み出した存在を血眼になって探しているはずだ。にも関わらず、こんなところで行動している……ただ」
「ただ?」
聞き返すアンジェ。それにユークは一時沈黙する。
(……シアラのご両親)
頭に浮かんだのは、昨日シアラによって話された事実。
(ディリウス王国の貴族が隣国の領主を毒殺する……知人とかであれば恨み辛みという可能性もあるけど、仮にそうならシアラだって犯人が明瞭にわかるはずだ。ディリウス王国の貴族が犯人――なら、両親と交流があったあの人物か、という具合に)
ユークはそこまで呟くと、一度大きく息を吐く。
(でもシアラは傀儡だろうと断じ、それ以外はわからない様子だった……今回も傀儡の仕業だとすれば、強引ではあるけど説明がつく。魔物の質を考えれば組織の構成員であることは間違いない。そして自分達の喉元には来ないと考え、操り人形とでも言うべき人間を使って俺達に攻撃を仕掛けてきた……これなら事件を引き起こした犯人の動機なんて考察するだけ無駄だな)
「ユーク様?」
沈黙するアンジェが問い掛ける。それにユークは、
「ごめん、少し考え事をしていた。動機などは不明ではあるけど、それは犯人を捕まえて調べればいいだけの話だ」
「そうですね……放たれた魔物を倒し、さらに犯人を捕まえることができれば一気に事態が進展するかもしれませんね」
「勇者オルトが契約系の魔法で喋るのを封じられていたことを考えると、厳しいかもしれないけど……ともあれ、手がかりなのは間違いない」
ユークは呼吸を整え、アンジェへ告げる。
「まずは魔物の特性をつかむことにする」
「はい」
――森へと入る。ガサガサと茂みをかき分けながら大森林の中を進んでいく。
複数体いる魔物のうち、一体はそれほど遠くない位置にいるため、ユーク達はまずそこを目標にする。
「少しずつ動いてはいるみたいだけど……」
「何か特徴とかはつかめませんか?」
「魔力の質からは、漆黒や純白と似ているくらいだな……それ以外の情報はない。ただ、魔力量については漆黒と比べれば低い……かな?」
「大地などにある力を利用しているわけではないと」
「そうみたいだな……と、待て」
ユークはそこで立ち止まった。何事かとアンジェが足を止めた時、
「……魔物がいた周辺の魔力が揺らいだ」
「何か行動したと」
「そして魔物は移動している……まずは魔力が揺らいだ場所を調べる」
ユークは魔物を避けるように移動し、やがて辿り着いたのは――森の中に佇む、小さな小屋だ。
「これは……猟師小屋ですか?」
「ああ。森の中で狩りをする際に使われる物……だが、ここに魔物の特性に関するヒントがあるみたいだな」
「え?」
ユークは小屋に近づく、木製のそれはずいぶんと年季が入っているように見受けられる。
「建てられて相当時間が経過しているのは間違いないけど……」
ユークは建物の扉に触れる。直後、その扉が突然倒れた。
ズウン、と一つ音を立てて扉が横倒しになる。室内を見ると、綺麗に清掃された室内が見えた。
「これは……老朽化が進んでいるようですね」
「いや、単純な老朽化じゃない」
「え? どういうことですか?」
「室内が綺麗すぎるだろ」
アンジェは部屋の中を注視。それによって、
「……確かに、扉が壊れてしまうほど老朽化しているのに、中が綺麗ですね」
「埃もほとんど落ちていない……最近使われたんだろう。アンジェの言うとおり扉が壊れるほど老朽化しているのであれば、使うなんて選択肢はないはずだ。それに」
と、ユークは小屋を見回す。そこで、気付く。
「扉の周辺だけ、色がずいぶんと違うな」
「あ、本当ですね。扉周辺がずいぶんとくすんでいる……まるでそこだけ時間が早く経過したように」
――と、ここでアンジェは気付いた。
「これが魔物の仕業だとしたら……」
「今回森の中を歩む魔物は、構造物から魔力を吸収するタイプなのかもしれない」
「つまり小屋の扉……その周辺から魔力を吸い取った?」
「たぶんそういうことなんだろうな。大地や大気中から魔力を吸い取るよりはずいぶんとマシだし、この特性なら森の中では思うように力を得ることは難しいかもしれないが……新たな特性の魔物、ということは間違いなさそうだ――」




