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史上最強勇者、家出する  作者: 陽山純樹
第二章

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推測と密談

「シアラは魔物が来てもいいように対策していると語っていたが……これのことだろうな。アンジェ、地面を見てくれ」


 ユークに言われ、アンジェは地面に目を落とす。そして少々時間が経過し、


「……そういうことですか」

「仕込みの詳細についてはシアラに確認をしないとわからないけど、ちゃんと彼女はこの町が防衛に適さないこと、そして戦力的にも魔物が襲来すれば太刀打ちできないことは理解している。だからこその、準備だな」


 地面を眺めながらユークは語るが――少しして、


「ただこうした仕込み自体、漆黒や純白の魔物くらい強い個体との戦闘を想定できているかは不明だ。元々防衛に向かない町のために策を保有していて、それを緊急で利用するという状況だろう」

「なるほど……戦闘が起きて欲しくはありませんが、私達がここにいる以上リスクは生じてしまいますね」

「まあな。ただ、こういう考え方もできる」


 ユークは語りながら屋敷の方角を見る。


「むしろ、俺達がいることで少なくともこの町周辺に騒動は起きない」

「……何故、ですか?」

「組織の人間からすれば、俺達は非常に面倒な相手だ。勇者オルトを捕まえたし、魔物を倒して回っている。危険因子として始末するのも手だが、ディリウス王国を離れてしまった。ここで俺達が凶刃に倒れた場合、国際問題になりより国の動きが活発になる。それは組織にとって不都合だろう」

「それに乗じて相手が動く可能性はありますが……」

「アンジェの主張はもっともだ。ただ、相手としては俺達に構うよりも目的のため実験継続を優先すると思う。となれば……」

「面倒な私達がいる周辺ではなく、遠くで実験をする、と?」

「そういうこと……アンジェ、ここに来たという報告書は作成した?」

「いえ、まだです」

「次に作成する際、ディリウス王国の状況についても可能な限り克明に教えてもらうようお願いしてくれ」

「わかりました……もしかして、ここにいると見せかけてディリウス王国内に再び入って魔物を討伐、とか考えていますか?」

「手段の一つとして検討はしているけど、基本的には戦士院に任せたいところだな。俺達は独自で調べたい……が、まずはシアラの言うとおり仕事をこなしつつ環境に慣れることを優先かな」


 そう語るユークにアンジェは視線を向ける。何か考えていることがあるのでは――そんな推察をしている様子である。

 実際、ユークの心の内ではある考えが巡っていた。とはいえそれを話さないのは、確証があるわけではなかったため。


「とりあえず、町中を歩いて色々と確認しようか」


 ユークの提言にアンジェは「わかりました」と応じ、何か訊きたそうにしつつも、歩き始めた。






 一通り町中を巡った後、ユーク達は屋敷へと戻る。そしてあてがわれた部屋に入った時、そこを訪ねてくる者が。シアラの従者であるランネだった。


「シアラ様がお呼びです」

「わかった……アンジェは?」

「できればユーク様とだけ話がしたいと」


 来たか、とユークは内心で思いながら頷き部屋を出る。廊下を歩き、訪れたのはシアラの私室。そこに椅子に座りお茶を飲む彼女がいた。


「ようこそ」


 そしてテーブルを挟んで対面の席を手で示す。ユークのお茶も用意してあり、湯気が立っている。


「口に合わなければ茶葉は変えるけど」

「いや、このままでいいよ」


 ユークは応じつつ着席。お茶を一口飲んだ後、先んじて口を開く。


「俺だけ呼んだ、ということは悪巧みでもするのか?」

「人聞きが悪いわね……ま、アンジェさんはディリウス王国における貴族だし、そういう人には話しにくいかなー、と思ったりもしたけど」

「……言っておくけど、君がディリウス王国に対し悪感情を抱いていたとしても、俺はディリウス王国の人間であるため、国の不利益になるようなことはしないよ」

「別に何かするわけじゃないわ……ただ一つ、聞いてもらいたいことがあるの」


 含みを持たせた視線を投げるシアラ――騒動を解決して功績を得る、というだけではない。間違いなく、ユーク達を招いた他の理由がある様子。


「……確認だが」

「どうぞ」

「敵組織は魔物を倒して回る俺達に報復する可能性もゼロじゃない……それを迎え撃つ対策は立てているみたいだけど、町の人々に被害をもたらす危険は完全に拭えない」

「そうね」

「シアラ自身はそうしたリスクを考慮した上で、俺に話をもちかける……これこそ、ここに招いた本命の理由、というわけか?」


 沈黙が生じた。ユークはカップを置いて相手を見据えると、黙ったまま見返すシアラの姿があった。

 ユークも視線を逸らすことなくじっと瞳を合わせる。まるで先に逸らした方が負けとでも言うかのように――時間にして一分にも満たないもの。けれど両者にとっては長いと感じるだけの静寂を抜け、口を開いたのはシアラだった。


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