Episode10
しばらくお店を休みにすることにした。顧客には悲しまれたが……仕方ない。
あの警察が見張っているんだ。
点数稼ぎしか気にしない警官だったら麻取に連絡なんて絶対しないからいいんだけど、正義感で動いている場合は厄介だ。
麻取と警察は仲が悪い。麻取は大物を捕まえるために雑魚をあえて泳がせたり、市民のスパイを使ったりするが、警察が横からその雑魚やスパイを捕まえていざこざが起きたりもする。
警察が市民を捕まえて点数稼ぎをするのに突出しているなら、麻取は大物の卸売り業者や芸能人を捕まえるのに秀でている。
「かなた、久しぶり」
「お久しぶりです」
そんな、きょうは近所の小さな公園で旧友と待ち合わせをしていた。
待ち合わせ場所に着くなり友人に声をかけられた。
目の前には美人でスタイルの良いモデルをやっている友達ーー如月愛結ちゃん。私の唯一といってもいい友人。
「あんた、まだ馬鹿げた商売してるの?」
「愛結ちゃん、そんな言い方酷いですわ。高尚な商売と言ってください」
「はいはい。とんだ高尚な商売があったものね」愛結ちゃんは公園の椅子に座ると、隣に座れと椅子を叩いた。「あんた胸はないけどかわいいし、スレンダーといえるくらい痩せてるんだから、私の上司に口利きしてモデルにしてあげてもいいわよ?」
「まあ、考えておきますわ」
「あんたそう言って……」
と、離れた椅子に座る青年たちから煙が見える。
よく見ると、真ん中に座っている男性が手にアルミホイルとパケを持っている。私の視力は2.0を越えているから間違いない。
人通りは少ないが、こんな朝から私たちがいるのに覚醒剤ですか……。
しかし、吸い方がよくわかっていないのかネタを無駄にしてしまっている。
うずうず……。
「あ、ちょっとかなた?」
私は立ち上がると青年三人組に歩み寄った。
男性は慌ててシャブとアルミホイルを隠す。
「な、なんですか?」
「なんだテメー?」
緊張からか、みんな顔が険しくなる。
だったら、こんなおおっぴらなところでやるなと言いたい。
私は自分の衣服をまさぐり、ガラスパイプを見つけたため手渡した。
私が普段使っている物だけど、まあ、この子たちは間接キスとか気にしないでしょう。私も気にしません。
「な、なに?」
「初心者にアルミホイルはおすすめしませんわ。ガラスパイプに入れて、下からライターで炙り、煙が出てきたら吸い込むだけでいいのです。ライターの火がガラスパイプに当たらないくらいの位置にして……」
「は、はあ……わ、わかりました」
青年は覚醒剤の結晶をパケから取り出し慎重にガラスパイプに入れた。
それを炙り始める。
「ところで、何gをいくらで購入したのですか?」
「あ、購入したのはそいつで」
「しらねーよ。このパケで3万したよ」
うむむ……どこからどう見ても0.3gしか入っていない小さなパケだ。
これで3万とは……ボッタクリはいけません。
私は指を舐め、パケに指を入れて粉末を指に付着させ、その指を歯茎に塗った。
薄い。品質も悪い。混ぜ物されている。おそらく結晶以外の粉部分に不純物を混ぜている。
「テメーは誰なんだよ?」
「私はこの近所で雑貨屋を営んでいるかなたと申します。失礼ですが、もしも私の店舗から購入していただければ、もっと安く良い品質のネタを用意させていただきますよ?」
「ひ、品質とかあるんですか?」
「あ、そうやって煙が出てきたら一旦炙るのをやめて吸ってください」
青年は言われたとおり吸い込む。
「はい。品質もあります。うちは愛のある我が家産なので品質も良いですし、値段もこのパケの3倍で3万でお売りしますよ」
「なんだと!? あのクソ売人ボッタクリやがって!」
この子は荒いなぁ。
「どうです? 住所は」住所を口伝えした。「です。なくなってまだほしいなら私の店で購入してください」
「ちょっとかなた! あんたなにしてんのよ!?」
愛結ちゃんに頭を叩かれ、引き摺られて青年たちから離された。
『雑貨屋かなたです~!ぜひご来店くださーい!』と宣伝を伝えながら、私は愛結ちゃんに引き摺られたがら公園を後にした。
「酷いです愛結ちゃん」
「酷いのはどっちなんだか、せっかくの遊びなんだから仕事のことは忘れなさい」
「わたしにとってはあれも遊びといえるような行為なのです」
「はあ~」愛結ちゃんはため息を溢して、心底ガッカリしているのか、私を見ながら呆れた目を向けてくる。
「で、どこに遊びにいく?」
「そういはえば気にしていませんでしたよね?」
「まあ、そうなんだけどさ……」
愛結ちゃんは思考を巡らせているのか、視線を上空に向けて考え事をはじめる。
これまた愛結ちゃん名物ーーなにかしら考えるときは空を見上げて返事を考えているのだ。
「かなたはどこに行きたい?」
「愛結ちゃんのお家デートなんてどう?」
「いや、構わないけどさーーーーいや、やっぱ無理! 散らかってるし!」
散らかってるから見せたくないなんて、なんて乙女チックなのでしょうか?
なんだかキラキラしちゃいます。
「あ、じゃあ……私の自宅兼雑貨屋でデートをしましょう。現在休業しておりますので、二人きりで談話で花を咲かすのも一興かと」
「べつにいいけどさ……」
事前準備を互いにしてこなかったせいか、ノープラン行き当たりばったりで私と愛結ちゃんは、現在営業休止中の雑貨屋かなたに向かうことにした。
「こじんまりとした店だね……」
グサッと心に刃が突き刺さる。
「店頭に並んでいる雑貨品はオマケです。稀に買いに来る奇特なひとなんてチラホラいる程度ですわ。雑貨を購入しに来てくれたひとは無論大切に致しますよ?」
「雑貨屋がおまけ扱い……本職は麻薬の売人だもんね、かなた?」
雑談を続けていると、雑貨屋かなたの店前まで辿り着いた。
標識には『close』と書かれており、店内は薄暗い。
「少しお待ちくださいませ」
closeーー閉店と書かれてある看板。本日営業終了とさえ書かれている。が、私には関係ない。それらを気にせずに、看板はそのままに施錠していた扉を開いた。
中に入ると、私は電灯を付けるためにスイッチを押した。
室内が一気に明るくなった。
「お家デートって、いったいここでなにが楽しめるって言うの?」
うぐぅ……愛結ちゃんが痛い図星を突いてきた。
「へ~」棚にある新古品のぬいぐるみや、ピアス、ブレスレット、シャーペンやノートを見つめながら、「買う気にはならないかな……」
まあ、雑貨を購入していくお客さんは極極稀ですから……。
「で、売り捌いている薬物はなに?」
「あ、気になりますか?」
「きにならないわけないじゃない!」
仕方なくカウンター奥にある部屋につれていくことにした。
室内に入ったばかりだと言うのに、雑貨の状況や薬物が無造作に放置されているのを見た愛結ちゃんは結構衝撃を受けた様子。
「覚醒剤のみならず、コカインや大麻、LSD、抗不安薬、向精神薬を扱っております」
「はぁ~……あんたがよくわからないわ。捕まるかもしれない趣味ってなによ?」
「なるべく対策していますので捕まることはほとんどありません」
二人でしばらく映画鑑賞し、昼食を食べて有意義な1日を友達の愛結ちゃんと共に過ごした。
もう夜も更け、きょうは御開きにすることにした。
「じゃあ、また。また遊びに行こうではありませんか」
「気が向いたらね~」
こうして、数少ない友達と再び会う約束を取り付けたのであった。




