61.古代の遺物
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宮殿警備のお手伝い中、突然の聖女ルナリアとその取り巻き達の襲撃があったが大した混乱もなくすぐに落ち着いた。
首謀者も簡単に捕縛出来たし、あっけなく今回の騒動の幕は降りたと誰もが思っていた。
瘴気の伝播で病んだ聖女の取り巻き達の治療指針は、二百年前の賢者であり転移者である倉田医師が遺した医学書の解説をしながら治癒師さん達に説明しておいた。
オレの世界と似ているようで微妙に違うものだったが、大体考え方と発展具合は一緒なので補足などしながら説明しておく。
これだけ詳しく病態と治療指針を残してくれた倉田先生はもっと評価されるべき!
そして、そこから先はオレが手伝える事はあまりないので、完成した新風邪薬のレシピを衛生課に売り込みに行くと喜ばれた。
思っていたより良い値段で買ってもらえたぞ!
やっぱり魔素と瘴気の噴出が通常通りになったせいで今年は風邪が流行しそうなのだそうだ。
ただ、お祈りブームもとい健康体操ブームのお陰でそれ程多くはなさそうだが、僻地はまだ祈りが浸透していない場所もあるそうなので、新神殿と新たな神官が拡散中との事だ。
因みに、神殿は新たに国家機関となり、神官達は全て行政官となった。国試難易度は宰相府に匹敵する上、受験資格として変な思想を持っていないかを確認するために頭の中を覗かれると言う恐ろしいものになっていた。
日々真面目に神々に祈りを捧げて来た神官達には余裕の試験らしいけど・・・
そしてオレは今・・・絶賛混乱中。
『エンケリュス・・・すまん、もう一度いいか?全然理解できない。』
帝都にはリューシャの伯父さんズの一人、ガレスさんが太陽神ソレーユの眷属様の護衛として転生者仲間のヴィーさんと一緒に来ていたのだが・・・勿論、ガレスさんと契約しているオレの親友エンケリュスも一緒だった。
こいつはあちこちに分体が居る精霊なのだが、分体同士で情報のやり取りがリアルタイムで出来るというチートな精霊でもある。
『だから、ロザリーとかいう性悪女が実はしおらしいお淑やか女だったって話だぞ?なんでわかんねえんだよ、簡単じゃないか。』
『いやいやいやいや!分かるかそんなもん!!』
しかも、瘴気の魔物化の副作用で先祖返りの魔獣レッドシープ化。
今はモコモコふわふわで、人言も話せず魔獣同士の念話くらいしか出来ないらしい。
贖罪をする為に今後死ぬまでセーヴェルの森で魔物を狩ると言い、捕縛後ルシエル先輩やリューシャと邂逅した際は、届かない声で延々と謝罪し続けていたらしい。
誰それ!?
それ本当にロザリー嬢なの!?
『まだルシエル坊ちゃんと散歩するくらいしか出来ないみたいだけどな〜。小さくて丸っこくてなかなか遊び甲斐がありそうな毛玉だったよう。』
水と油みたいなあの二人が散歩・・・全く想像ができないのだが。
まあ、それはさておき。
リューシャとルシエル先輩が再び森でオヤツ集め冒険が出来ていると聞いてなんだか安心した。
それにブランシェさんがロザリー嬢を転がして遊んでいると言うのはちょっと見てみたい。
猫科の毛玉遊びなんて絶対可愛いに決まってる。癒されちゃうに決まってるからな!
「アンリ、大分話し込んでいたな。」
ふと顔を上げるとガレスさんが近衛騎士達やカルデア遊撃隊の仲間との稽古を終えて戻ってきた所だった。
「ありがとうございます、ガレス卿。それにエンケリュスと話せて楽しかったです。」
オレがお礼を言うと頭を撫でられて、何時でも話すといいと言ってくれた。
なんか伯父さんズはみんな頭撫でるけどオレも甥っ子扱いになっているのだろうか?
手合わせも沢山してくれるし、魔術を教えてくれたりしてくれる。
しかも仲間達の稽古つけてくれるしな!
こうやって契約精霊とも話させてくれるし。身内になったからなのだろうか?
とても可愛がってもらえている事が分かるので、それがとても嬉しかった。
***
いよいよ次代への継承に向けて、宮殿界隈が騒がしい。
そんな中、皆に祝われながら退職する一人の女性がいた。
そう、遂にエルフリーデさんが寿退職しますよ!めでたいよ!
「皆様、これまで本当にありがとうございました。」
そんな彼女の言葉に皆が祝いの言葉を掛けていく。
彼女のこれまでの人生を知る同僚達は、本当に心から彼女の幸せを願っているのだろう。
祈りの色が溢れた光景にオレも涙が滲む。
「これからは部下ではなく親戚ね。」
そう言う筆頭魔導師のイザベラ叔母上も嬉しそうだった。
エルフリーデさんはオレの義妹になる訳なのだが、セシリアちゃんはまだ魔導師だ。
領地も持たないし、この先どうするのだろう?と思ったら、成人するまではイリアさんのお家で生活するそうだ。
家族が増えるってなんか嬉しいよな!しかも家事即戦力だ。
きっとエマヌエルさんも喜ぶだろう。
セシリアちゃんは魔女を目指しては居ないが、血筋的に魔女に至る事が避けられないだろうと言われていた。
なので、準備だけは怠らない様にしておくというしっかりした娘でもある。
オレも見習いたいよね。準備をしっかりしておきたいよね!
お金とかね・・・。
取り敢えずオレは帝都に滞在する間、お祖父様に紹介してもらった商人さんに会って国内ルートの食材を確保。
ガリアの海産物流通に強い飛行船保有の商会で結構大きい所だ。
一応、チョコレートの利益の一部が不労所得で入って来ているのでなんとかなると思いたい。
後は実際どの程度になるかは実践してみないと分からん・・・!
「休暇を取って遊びに行くわね。」
「はい、是非お待ちしております!」
エルフリーデさんに祝いの品や花束を渡して門出を祝う。宮廷魔導師の皆さんも本当に皆良い人ばかりだ。
「アンリ、この後ちょっといいかしら?」
皆と一緒に祝っていると叔母上が声を掛けてくれたのだが、少しお茶しながらお話をしたいと言われた。
まぁ、内容は大体察しがつくけどな。
***
「折角の所、悪いわね。」
「いえ、構いません。」
叔母上がそう言って差し出して来たのは神殿が秘匿していた魔物化呪術式で、ユヴァーリ攻めの為にロザリー嬢の使ったと言う術式の原型だと言う。
「・・・随分と物騒な術式ですね。」
魔法陣があまり得意でないオレですら、ぱっと見でヤバさが分かる代物だった。
「まさか還元式がこんな形で使われているとは・・・。」
「本当に碌でもない代物だけど、どうして私があなたにこれを見せたのか分かる?」
その言葉にオレは頷くと、魔法陣に手を当ててほんの少し起動する。
「魔素瘴気の逆変換式ですからね。人間には無理でもオレ達なら起動しても問題ない。」
そう言って瘴気変換した傍から再び魔素に戻し魔力変換する。
こうしてみるとオレも大分人間離れし始めたよな・・・
「ええ、そうでしょうね。・・・ただ、この魔術理論が書かれた書物とその保全術式すら古くてね。建国初期よりもっと更に古く、魔女や精霊が生まれる以前の物なのよ。」
叔母上はそう言うと、魔女と精霊の誕生前で尚且つルールブックもとい聖書の発行以前にこれがあった事に対してのある疑念を募らせている様だった。
「今とは変換率が違うけれど、恐らくはマズナーガ式と同程度の正確さだもの。建国前の暗黒期以前に何があったのか想像がついてしまうのよ。」
イザベラ叔母上は言う。
これは世界の半分が、かつて瘴気の灰に蝕まれていた頃の物では無いのかと。
ならば世界を覆っていた瘴気の灰は、古代人達の手による人為的な物だったのではないかと。
「これは、古代の魔術兵器用魔術式であったと・・・そう言う事ですかね。」
「ええ、愚かしいにも程があるけど・・・きっと、そうなのでしょう。神殿でもその記録の継承は絶えていたみたいだけれど。」
効果で言うと、オレの世界で言うところの核兵器やBC兵器より酷いんじゃないかな。減って行く物じゃなく、留まる物でもなく。延々と増え続ける物だからねコレ・・・
と言う事は、やはりこの世界でも大戦があったんだろうか?
あーもう、やっぱりオレ達人間ってこれだから嫌なんだよ。いつもいつもこう言うアホな事仕出かすんだから。
しかも人間が愚かなせいで、世界と共に神が死んでしまう一歩手前まで来てたと言う事だったし。
それでも女神様がこの世界の延命の為にその身を溶かした。
慈悲が過ぎる気がするなぁ・・・
そんな世界捨てて仕舞えばいいのに。女神が失われるよりずっといいだろう。
「暗黒期以前、世界の中心はもっと南だったと言う話だから、南方遺跡群の探査に力を入れる必要があると思っているの。」
「昔は遺跡群と聞いてワクワクしたんですけど、これを見た後じゃ・・・。」
一度頷き、叔母上はため息を吐くと話し始めた。
「熱帯にある南方諸国から更に南の大陸でね、大きな戦が起こってるみたいなのよ。」
「え・・・?」
突然の言葉に驚いていると、クラーディス帝国がどんどん周囲の国家を侵略して領土を拡大しているといい、その勢いは熱帯の国々にも迫る勢いだという。
南半球に大きな国が幾つかあるのは知っていたけど、あっちはあまり魔素がない。
ただし・・・南の大陸には魔石鉱山が幾つもあるから、熱帯の南方諸国と違ってある程度魔術と言うか魔道具開発が進んでいたと王子時代に習った。
レムリア王国とは国交が無かったから、あんまり頭に入ってないけど・・・!
「えーと、あっちの大陸では魔導装甲騎士団という魔道具持ちの騎士や兵士がたま〜にわちゃわちゃ小競り合い的な感じの戦争してるとは聞いてました。なので小国群地方の戦みたいな物かとばかりおもっていましたよ。」
叔母上もうんうん頷き、自分もそんな程度だと思っていたのだと言う。
「所がね、国外情勢調査官達が向こうで大戦めいた事になっているって報告して来たのよ。」
「うわぁ・・・ただでさえ大渓谷の噴出が通常に戻ったのに、それじゃ・・・」
「そうねぇ、この先戦果が拡大していけば変換基準式にも影響が出てしまうでしょうね。魔女と精霊不在の土地では魔素変換なんて微々たる物でしょうし。」
ですよねー・・・
大まかな瘴気と魔素の総量から割り出す式だから、大戦が起これば瘴気の量が増えるんだが。
なんちゅう迷惑な・・・瘴気浄化で魔素作れないとなると魔物じゃなくて、細かく結晶化した猛毒の瘴気の灰が降り出したりするんじゃないだろうか。
かつてのように。
「私達人族って・・・愚かよねぇ。」
「はい、オレ達人間ってどこまで行っても愚かな生き物みたいです。」
あれから四千年。
こんな長い間小競り合いで済んでいたのが不思議なくらい、なのかもしれない。
「所でアンリ、あなた最近食材確保に勤しんでいるようだけど・・・南大陸には珍しい海産物や果物が沢山あるそうよ?」
叔母上はオレの目を見つめながらにっこり笑った。
その笑顔は何処か胡散臭くて、企みが漏れ出しているようでいて、尚且つそれを隠そうともしていなかった。




