42.到着
「エルフリーデ、妹君に関わるのはもう辞めた方が良いのではないか?いくら君が諌めても、もう無理だと思うぞ。」
大渓谷の魔力観測を行う魔導師隊の護衛に就いていた騎士が、エルフリーデを心配するように声を掛けた。
「先程の騒ぎの件、もう聞き及んでいたのですね。ご心配をお掛けして申し訳ない。」
妹が関わると謝罪一辺倒になってしまうのはいつもの事だが、今日の彼女は何処か上の空といった感じに見えた。
それはユヴァーリの魔導師セシリアから言われた言葉が原因だった。
“貴女の魔力は、とても好ましい味わいです。“
魔導師や魔術師の女性なら誰もが一度は言われて見たい言葉だった。
勿論味わいの意味は分からないが、魔女や魔女の血筋の魔導師が自身の妻になって欲しいと願う時に言う言葉だ。
自分がそんな事を言われるとは思っても見なかったエルフリーデは喜びよりも困惑の方が大きかった。
妹どころか両親さえ諌めることの出来ない不出来な自分。
姉妹であっても容姿は妹に劣るし、魔眼が無ければ魔導師にもなれなかっただろう。
そして、この魔眼のせいで妹はああなってしまったのだと彼女は思っていた。
まともな者達から見れば、何でもかんでも姉の物を欲しがる強欲な妹でしかなく、魔眼まで欲しがった挙句それを抉り取ったのだ。
本来なら擁護などするべきではないし、許すべきではない所業だった。
だが両親は事を公にはしなかったし、奪われたその片眼をロザリーに移植しようと試みた。
だがいくら移植しようとも、魔眼は持ち主本人にだけ宿る物であった為、その力を発現することは無かった。
選別の魔眼。
その希少な魔眼が原因なのだとエルフリーデは思っていたようだが、それは違った。
小さい頃の一生懸命でとても可愛らしい妹との思い出。いつかきっと元の妹に戻ってくれるという期待。
それすら美化された思い出に過ぎず、姉なのだから我慢をしなさいという言葉の呪縛に取り憑かれたままだった。
だが、じわじわとセシリアの言葉が心に染み入る。
ユヴァーリの魔女や魔導師は世辞など言わない。
忖度や同情などもしない。
その人物が自分に必要かどうか。それ以外の理由で妻や夫を選んだりしないのだ。
夫には課題があるが、妻だけは魔女の直感で決められるものだ。その言葉を言われた、と言うことは妻にと求められた事に他ならない。
振り返ると、欲しいものはいつも諦めて来た。
そして、何かを手に入れても全て妹に奪われて来た。
もし、本当に自分があの少女に相応しいと言うなら、応えても良いのでは無いかとエルフリーデが思い始めるまでにそう時間はかからなかった。
--魔眼はさておき、伯爵令嬢だというのに彼女は家事が得意だった。
10代半ば辺りから、自らで炊事洗濯掃除をしなければ生きていけないような、そんな放置具合だったのだから。
***
オレは知らなかった。
ある程度の高い魔力がないとティグリスの言葉が聞こえないのだと・・・!
周りが魔導師やら賢者やら魔女だらけでそんな事知らなかった!
セストでの買い物の時とか、帝都観光の時とか完全に独り言じゃないか!
あ・・・流石にルーさんは大丈夫だよね・・・?
因みに何でわかったのかと言うと、セシリアちゃんが教えてくれたのだ。
一番多いと言われている下位から中位の魔術師には聞こえないだろうから、あんまり大声で話したらダメですよ。と・・・
上位魔術師しかいないカルデアで良かったと一瞬思ったが、行政官や騎士は違うんだよなぁ・・・。
いや、大丈夫だよね?ティグリスいっぱいいるし。独り言を言ってる理由は知ってるよね?
パルティア城は大丈夫だよね!?
オレが一人でひんやり汗をかいていると、どうやらもう直ぐ大渓谷手前の街、ヴィーグリーズの発着場に到着するようで空からでもその姿が一望できた。
ここがダンジョンのある街!結構栄えてて楽しそうだ。
アーサー頑張ってるかな?
それにエカテリーヌとクラリスもといリーナとクララ。そろそろこの街に着いたかな?
「ダンジョンに興味があるのか?」
「そりゃありますよ!」
「次回の閉鎖はリューシャの担当であろう?」
「え!?そうなんですか?!」
まさかの当番制だった。
でも閉鎖じゃ冒険できない・・・
「アンリ義兄さん、あからさまに落ち込まないでください。」
「いや、ダンジョンで冒険したかったなと思って。」
オレの言葉に、ルシエル先輩とセシリアちゃんが不思議そうに首を傾げた。
「セーヴェルの森にもたまにダンジョンが出来るぞ?」
まさかのユヴァーリのダンジョン。
冒険者ギルドが開設されてないから領軍で討伐業務のついでに攻略してしまうそうだ。
「遊びに行ってもいい?」
「是非来ると良い!なかなか楽しめるダンジョンだぞ!」
オレ達がダンジョン冒険の約束をすると、どうやら着陸する様で、艦内に案内の音声が流れてきた。
「じゃぁ、まずは大渓谷だな。」
「ああ。では参ろうか友たちよ!」
オレ達は浮かれながら艦を降り、セシリアちゃんはささっとエルフリーデさんの所に向かって行った。
結構積極的だよね、セシリアちゃん。
***
大渓谷に近付くと、ルシエル先輩が耳打ちして来た。
「・・・差違については決して言うな。」
「は、はい?」
最初は意味がわからなかったが、黒の大渓谷に到着して直ぐに分かった。
瘴気と怨嗟の量が魔女領の森とは明らかに違う。
確かに魔素は多いし瘴気もあるが、澱み方が違う。
何だよ。結局一番厄介な所は魔女達に押し付けてるんじゃないか・・・
「アンリ、なにも言うな。貴様は顔に出やすいからな。」
「いや、ルシエル先輩にそれ言われたくないです・・・」
そして、合流地点に到着した。
物資の集積所が幾つかあり、この先の草原を越えた森に黒の大渓谷の前線がある。
「アンリ!ようやく着いたな!」
先に着いていたらしいベルナルドやマルク。
そしてガリア伯爵領騎士達がこちらに手を振ってくれていた。
「ルシエル様もはじめましてだな!」
「ああ、ベルナルド殿。お初にお目にかかる。」
初めて会ったと言うのに、なんか馴染んでるなこの二人。
暑苦しい同士で気が合ったかな?
「流石はガリア。準備の良い事だ。」
「そちらは第二輸送ですか?」
「いや。此度は強力な備えがあるのでな。」
ん?備え?
「なるほど。流石ユヴァーリですね!所でアンリ、カルデアは?」
「うちは第二輸送で来るよ。」
何となく難しそうな会話をしているベルナルドとルシエル先輩に尊敬の念を抱いてしまう。
オレと違って二人はしっかり領主一族として働いてるんだなぁ。
そういえばセシリアちゃんどこ行ったんだろう。
そう思い辺りを見渡すと、遠いがしっかりその姿を見つけられた。
エルフリーデさんの側にしっかりとついている。
頑張れセシリアちゃん!その意気だ!
『アンリさま、そろそろ大きくなってもいい?』
カルコス君がワクワクしつつ楽しそうに言うので、成獣モードの許可を出す。
周囲は驚いていたが、ベルナルドがめっちゃカッケー!と楽しそうにカルコス君を撫でていた。
声、聞こえてるよね?
大丈夫だよね?
その後、第五陣第一輸送分の人員が大渓谷に到着すると、現地の指揮官達からの号令が掛かった。
まず先に魔導師隊の編成が組まれ、先陣として森に入る。
そして、決められた位置から一度遠距離で魔術攻撃を行い、前線の援護を行うそうだ。
観測士である魔術師や魔導師の指示に従い、皆が忙しなく配置に付いていく。
前線に緩みがあるとヴィルヘルミナさんは言っていたが、今の所規律もしっかりしているし前線も大丈夫そうに見えた。
よし。
遠距離なら、まずは軽く雷撃から行こう。
魔素も多いし指定箇所まで十分届きそうだ!
こちらはpixivにも投稿しております。




