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追放王子と星降の魔女  作者: ぷも山
カルデア大公領と魔女の課題
42/64

40.今年度の第五陣



 アクィラ宮殿真横にある行政府。

 その中にある軍務省の一角に、黒の大渓谷従軍希望者受付窓口はあった。


 オレは元々申請を出していたので、手続きはとても簡単に終わったのだが、今年度の第五陣として明後日には出発するそうだ。


 予定より早くない?と思ったのだが、入れ替えが始まる最初の部隊として、いつもより人員を多く、そして魔導師多めで送り出すのだそうだ。



 そして、此処で懐かしい人物に再開した。


「アンリ!元気そうで良かったー!」


 ロムレスの剣技訓練校での学友で、首席だったベルナルドがそこに居た。

 因みにオレは次席です。


「ベルナルド!どうしたんだよこんな所で!」

「いやぁ、故郷はクレモナの沿岸部って事にしてたけど、俺の実家ガリア伯爵家なんだ。今まで言えなくてすまんかった!」

「おお!じゃあ皇子仲間だったか!」


 再会を祝い、美味いもんでも食いに行こうぜと言う事になるが、丁度そこに現れた同じく学友のマルク。


「おや?アンリではありませんか。貴方も第五陣ですか?」

「マルクも久しぶりだな!オレは明後日の便だよ!」


 因みにマルクはベルナルドの護衛兼従者だったそうだ。

 良いなぁ。オレのアルフレート君はスパイだったよ・・・



 食事処へ向かう途中もわいわいと思い出話で盛り上がりつつも、肩乗りカルコス君を撫でていた。

 二人ともティグリスは初めて見るらしい。


 そしてやっぱり髪は短い方が似合っていると言われた。二人も言い辛かったのかな・・・

 学生時代は気を使わせてすまぬ!


 そして互いのプチーツァに個体固有の魔力を覚えさせ、メッセージの遣り取りができる様になった。

 音声メールみたいで便利!


 あ・・・、夜会の挨拶時にパストーリの御令嬢が言っていた、プチーツァで文通しましょうって、これか・・・

 意味が全く分からなくて、プチーツァ持ってませんのでと軽く受け流して挨拶を済ませたのを思い出す。


 お友達になって上げても良いよと言う意味だったのかもしれない。取り巻きが不快に思うのもしょうがないよなぁ・・・。



 店に着くと、早速ワインで乾杯した。

 それは皆でよく飲んだ、ほぼブドウジュース的なワインだった。


「国を追放されたって聞いて心配してたんだからな〜!」

「追放は事実だぞ。実家帰ったら勢力図ひっくり返ってたんだ。」

「でも、次にアンリの名を聞いた時には星降の魔女様の夫になったと言うので、たまげましたよ。」


 此処にアーサーがいれば仲良し四人組が揃うと言うのになぁ。少し寂しい。


「アーサーにも会いたいな。」

「あいつなら今、第三ダンジョンに潜ってると思うぞ。」


 アーサーも帝国に来ている事に驚いていると、今は駆け出しだが冒険者になっていると言う。

 彼は正真正銘、ロムレス公国人だからな。家にも遊びに行ったし。まぁ、貴族ではあるけれど。

 あれ?あいつ長男じゃなかったっけ?


「エスティエちゃん寂しがってるんじゃないか?」

「いや、大丈夫だぞ。趣味もあるしオレと違って頭も良いし立場も安定してるからな。」


 その後話題が討伐戦役に移行する。


「第五陣は貴族や皇子多いからな。」

「ん?もしかして一番災害起こりやすい時期か?」


 ベルナルドは逆だと忌々しげに言う。


「秋の始まりの大渓谷は割と安定してるんだ。それで貴族の跡取りや皇子が多いんだよ。」


 そして、一番過酷な冬の第六陣、もしくは第一陣で従軍したかったと言っていた。


「もしかして跡取りなの?」

「もしかしなくても跡取りですよ。」

 マルクが応えると、ベルナルドはプイっと顔を背けた。


「折角剣術も魔術も磨いたってのに。」

 大分がっかりしているようだ。


「オレは皇子称号返上したくて従軍早めただけだけど、大渓谷に安定期なんてあるのか。知らなかった。」


 ついこないだも瘴気の噴出があった筈だ。安定とは程遠く感じる。

 そんなオレに、ベルナルドは魔素と瘴気の噴出周期の統計表を見せてくれた。


「う〜ん、逆に危なそうに見えるのオレだけか?」


 ここ2年、多少の噴出はあるが、大規模災害が起こる程の大噴出は起こっていない。


「時空震の数は緩くだけど増えてるな。」

 オレは横にマズナーガ式を書き加え、そこに追加で怨嗟と瘴気の増加数と変換後の量を計算していく。



「このままの上昇率なら、来月には魔素量こんくらいになるんじゃない?」


 ここ最近の緩い上昇で計算した物だが、一度大規模噴出が有れば一気に魔素量が増えて魔物が大氾濫する。

 魔女領分を計算から除外しても、流入分を入れて計算すればもっとやばそう!どうしよこれ!


「この時期に珍しく、結構魔素量多くなるな。」

「ですね・・・」


 二人も数字を見てヤバそうと言う実感が湧いたようだ。


「多分、宮廷魔導師達と軍務省ではこんな感じの結果出てるんじゃ無いかな。」


 予定では来週だった筈の出発は明後日になってしまった事を思い出し、皆一斉に溜息をついた。

 それにベルナルドは少しだけ気分を取り戻せたようだが大っぴらには喜べないのだろう。


「じゃ、今のうちに美味いもん食っとこうぜ!」

「やっぱ不味いのか軍用食・・・」

「私の叔父が、魔物との戦闘ではなく食事が喉に詰まって死に掛けたと言う逸話を持っておりますよ。」


 何それ怖い。


 支給品では干し肉が唯一の楽しみなのだそうだ。

 そして、それがカルデア製の干し肉と聞いてちょっと誇らしかった。


 その後、ここでもオレたちの先輩マティウス・ベルトランドの物語や他の新作エピソード集の話をしつつ、新しく手に入れたカードの見せ合いになった。


 ベルナルド達も帝国に戻る途中セストでカードや本を大量買いしたそうだ。

 考える事は皆一緒だな。



 



 

***


 別邸に戻り、明後日出発になってしまったと伝えると皆知っていたようだ。

 ですよねー・・・。


「イザベラ叔母様が言ってたわよ。大規模噴出の兆候があるから急ぐよう軍務省に掛け合うって。」

 と、ヴィルヘルミナさんが言う。


 やっぱりか。


 でも、この2年が特別だっただけで、前はしょっちゅうドバドバ大噴出していたと言う。

 ここ二年少なかったのは、多分リューシャのお陰だろうと言っていた。


「前線は緩んでるらしいから、しっかり頑張ってね。」

「気をつけます。」

「カルデア領軍からも第二輸送の時に人員を送るから、なんとか踏ん張っといて。」

 

 そしてその後、チョコレート専門店の準備が整ったのだと教えてくれた。

 いくらなんでも早すぎませんか。


「従軍前で悪いのだけれど、追加分のテオブロマの発酵と乾燥お願いできる?」

「了解です。オレは魔力が多い事だけが取り柄です。ささっとやっちゃいましょう!」


 オレとしても本職の手によって更に美味しくなるのが楽しみなのだ。協力は惜しまんぞ!


 今日の残りと明日丸一日使って、従軍準備と家のお手伝いは十分出来る。

 さて、早速準備しよう!


 因みに、ヴィルヘルミナさんは帝国で一番人気の香水ブランドを手掛けている調香師でもある。

 学院の治癒薬師課程で学んだが、取り扱った薬草や素材の匂いに耐えかねて、良い香りの精油を集めては癒される内にそっちの道に行ってしまったそうだ。

 ただ、商売も上手かったようでアルブレヒトさんやルーさんに資金面でも協力するようになったそうだ。


 と言うか、上位皇子を上手く広告塔に利用しているとも言える・・・

 今では化粧品部門も人気だそうだ。

 しかもヒルデガルドさんの服飾事業と相まって、帝国中の女子に多大な影響力を持っている。


 お!化粧品と言えば、カカオバターも口唇保湿に良さそうだ。

 食いしん坊向けリップクリームになりそうだが。

 まぁ、リューシャはいつでも潤艶だから必要ないか。

 

 オレはコンテナ2つ分の発酵と乾燥を終わらせた後、傷薬を作るついでにリップクリームを作る。

 添加物色素はヴィルヘルミナさんの魔術工房から少し分けてもらう。

 その時に、バナナとパイナップルの香りが欲しいと言われ、置換魔術で無香オイルや高純度のアルコールに添加してあげると、とても喜んでいた。

 そして、南方果実の香りは来るぞぉ!と雄叫びを上げていた。


 そこにヒントを得て、工房の空いている机をお借りしてリップクリームの香りの種類を増やして行く。

 自分用にはあの懐かしきカサカサピリピリの救世主、無色メンズ用メンソールクリーム!

 今はまだ若いから良いが30超えると湿度が低い場所では急激にカサついてくるんだ。


「その筒って何かしら?」

 ヴィルヘルミナさんが、クラルハイトを加工して作ったリップクリーム容器を不思議そうに見ていたので、使い方を説明すると、技術を買い取りたいと言い出した。


「金属でも行けるわね。」

「はい、その方が高級感ある見た目になりそうです。」


 クラルハイト製はコストがヤバいしスライムが絶滅してしまう。容器は是非金属で作って下さい。

 可愛い台所ペットだと言うのに、居なくなったら大変だからね。


「あら?イチゴの香りも良いわね。」

「試作品なので良かったらどうぞ。」

「じゃ、私はお礼にアンリ専用の香水を作ってあげるわ。」


 出来上がった物の香りを嗅いでみると、さっぱりとしたグレープフルーツやパイナップルの爽やかな香りがした。

 遅れてふんわりと甘い香りがするが、この香りなんだっけ。前世でも嗅いだことがある。


「ありがとうございます。これは癒されますね。」

 そして御礼はいいからと言い、腹黒そうな笑みを浮かべていた・・・

 ああ、今のオレは魔女の夫(仮)でいい宣伝になるのか・・・


「味気ない香りのクリームもあるわね。」

「それはオレ用です!乾燥対策です。」


「ほお、男も潤う唇か。これは行けるな。絶対イケる!」


 ヴィルヘルミナさんはフハハと豪快に笑ってそのまま自分の執務室に戻っていった・・・


 そんなわけでようやく傷薬作りを始めるが、概ねそれっぽい作用になりそうな塗布剤になる予定だ。

 いくら前世知識があっても材料も機材も無いしね。


 イチローさんの日本語魔導書で読んだ発酵管理魔術の応用品で、魔法陣にその場所で増えないでねという命令式と、術効範囲指定を組み込むのが難しかったが、今の所上手く作動してくれている。


 そして今回はグアイアズレンのまま基材と一緒にねりねりして抗菌と抗炎症効果のある傷薬の完成だ。

 ちゃんと合剤として機能しますように!


 失敗した時のためにと、酸化亜鉛と基材を混ぜて亜鉛華軟膏も作っておいた。


 フェリクスさんに教わったウィローと言うカルデアでよく使われる生薬を使った痛み止めクリームも完成した。

 教わった時に聞いたのだが、帝国では薬草と天馬の海綿骨に水属性魔力を付与した物の方が一般的だと言う。


 出来上がった薬をフェリクスさんからお土産としていただいた薬箱にしまう。

 これで準備は完了だ。


 だが、まだ重要な物資を用意できていない。

 遠征にはおやつが必要だろう。


 何を持って行こう?

 

 


こちらはpixivにも投稿しております

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