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御覧のスポンサーの提供で☆お送り致しました。


「──姉弟喧嘩で、そこまでやるか!? フツー!?」



 ついに重力という網に絡め取られてしまった私は、ぐんぐんと無様に落下していった。

 まずいまずい。舐め過ぎた。自分の弟を。

 自分の攻撃が効かないから、物理や自然の法則を使って攻撃してくるなんて、私はラスボスかよ! ……とかいうボケをかましてる場合じゃない。


 最上階の社長室が33階にあるとして、屋上はその上。大体35階相当という事になる。1階あたりの高さは大体4メートルくらいだから、35階といえばおよそ140メートルくらい。という事は……という事は……あと何秒で……わからん! 全然わからん! 私、理系じゃないし!

 ていうか、こんなの今考えてる場合でもないし。

 とにかく。とにかくだ。

 今も胃の上あたりが〝きゅぅぅっ〟となっていることを考えると、たぶん、無事じゃすまない。こんな時は……こんな時は……えーっと、そうだ。

 たしか昔見た漫画で〝五点着地〟みたいなのなかったっけ。こう……体を丸めて、着地の瞬間に衝撃を足から逃がすみたいな──あれ? でもあれ、あの漫画の主人公、パラシュート使ってなかった?

 じゃあ意味ないじゃん。

 そう考えている間にも、ぐんぐんと地面が近づいていく。でも、いい考えは──うん?


〝ぐんぐん近づいてくる〟


 そうか。近づいてくるんだったら、遠ざければ(・・・・・)いいんだ。

 そうすれば永遠にぶつからない。

 なるほどな。天才か私は。あとはその方法だけど──当然思いつかない。何を言っているんだ、私は。

 とりあえず殴るか。

 もはや自暴自棄にも等しい考えに至った私は、ヤケクソ気味に空中で体を前後半回転させると、頭が下になるような姿勢で、右こぶしを腰の位置に構えた。


 着地の瞬間に殴る。

 右正拳突きで殴る。

 着地の瞬間に殴る。右正拳突きで殴る。着地の瞬間に殴る。右正拳突きで殴る。着地の瞬間に殴る。右正拳突きで殴る。着地の瞬間に殴る。右正拳突きで殴る。着地の瞬間に殴る。右正拳突きで──



「──殴るッ!!」



 これまでにない極限状態から繰り出された渾身の突きは、私の想像よりも速く、硬く、重く、鋭く、そして──


 ズン……!

 ズン……ッ!

 ズズン……ッッ!!


 いままでの何よりも強かった。

 極限まで〝ラブリィ・メタモルフォーゼ〟された肉体から繰り出された拳は、音速を超え、ソニックブームを巻き起こし、周囲の物質を巻き込みながら、地面(アスファルト)を抉るように破壊した(・・・・)

 昨日、私がカニにお見舞いしたパワーボム以上の破壊が巻き起こる。

 私の突き出した拳は、その接地(インパクト)の瞬間、まるで爆弾のように周囲を破壊し、全てを呑み込んだ。

 残ったのはただの(クレーター)のみ。

 私は地面に深く突き刺さった拳を引き抜くと、手に異常がないか確かめる為に、何度も握り直した。

 ……うん、問題はない。

 すこしだけ、じーんと痺れてはいるけれど、戦闘続行に支障はない。脚も頭も体も、特には問題なさそうだ。

 私はビルの上にいるであろう、ひろみを睨みつけた。──が、いない。

〝見えない〟のではなく〝いない〟

 私の目だと、ここからでも間違いなくビル上までは見通せる。ひろみは落ちる直前──いや、落ちた後も私を見ていたはずだ。私がどうなったかを知りたいはずだ。それなのに、そこにいないということは、私が無事なのを見て、尻尾を巻いて逃げたのか、ここからは確認できないところへと逃げたのか。どのみち、あそこからはもう移動し──


 ──ガッ、ガッ、ガッ。

 ひろったのは微かな()()、それら気配(・・)

 これは勘というよりも直感。

 ひろみは逃げてなんかいない。今まさに、私に追撃を加えようとして降りて(・・・)来ている。

 私は左腕を直角に曲げると、左側からくるであろう(・・・・)攻撃に備えた。

 ──バシィィン!

 案の定、左腕に衝撃が走る。どんな方法を使ったのかはわからないけど、ひろみは今、私のこめかみめがけ、サッカーボール(トゥ)キックを放ってきている。



「はあ!? な、なんで……反応出来て、この速度で──」


「──ひろみ、見っけ」



 私の視界に唖然としているひろみの顔が映る。

 やっと捉えた。

 やっと、ひろみの速度に目が慣れてきた。

 私はひろみが離れるよりも速く右手を伸ばし、ひろみの足首をがっしりと掴んだ。

 勢いは完全に死に、まるで、吊るされている鳥のように宙ぶらりんになるひろみ。その表情は驚きと恐怖に満ちていた。私は、そんなひろみの顔に自分の顔を近づけると、これまでにないくらいの笑みを、ひろみに向けた。



「いやあ、やってくれたねえ。タコスマグネシウムちゃん?」


「た、ターコイズ……マグニフィセント……です」


「ね。お姉ちゃんの事、殺そうと思ったの?」


「あ、あれくらいでは死なないと……でも、重傷くらいには……」


「だよねえ。だからすぐに追いかけて、攻撃してきたんだもんねえ?」


「は、はい……ビルの隣にあった痛点閣(ツウテンカク)の側面とビルの側面を利用して、逆三角跳びの要領で降りてきました……」


「あのさ、私、べつにそんな事訊いてないんだけど?」


「で、ですよね……余計な事喋ってすみません」


「それで……覚悟は、出来てるんだよね?」


「な……、なんの……、ですか?」


「人を高層ビルの屋上から蹴り落としたんだから、それなりの覚悟はあったんでしょ?」


「いや、でも、どうせ、姉ちゃん、死なないと思ったし……まさか無傷とは思わなかったけど、これに懲りて俺の事を子供扱いしなくなるかなって……あ、あはは……」


子供扱い(・・・・)ね。なるほど。あんたも霧須手さんの友達よろしく、私と対等でありたかったわけだ」


「……え? 何の話?」


「可愛いとこあんじゃん」


「そ、そうかな? あはは……」


「あーっはっはっはっは!」


「……え、えへ、えへへへへへへへへへ」


「がーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」


「えへ、えへへへへへへへへへへへへ……ゆ、許してくれます?」


「まっさかー!」


「で、ですよねー……」


「ひとつ訊きたいんだけど、35階から突き落としたって事は……逆に35階まで突き上げられても(・・・・・・)文句は言えないよね?」


「そ、それってどういう──わっ!?」



 私はひろみを大きく振りかぶる(・・・・・・・・)と、息を止め、腕に、肩に、背中に、全身に力込めた。



「──途中、ビルの外壁に叩きつけられないように祈っとけよ!」


「う、嘘、だろ……? 俺を上まで投げるつもりかよ姉ちゃん……おお、俺、別に姉ちゃんみたいに体を強化されて無いんだぞ……! んなの、死んじゃうって!」


「いいから、口を閉じろ! 体を丸めろ! 頭を守れ!」


「聞いちゃいねぇ!?」


「聞いてるよ。じゃあ、せめて死なないようにね!」


「どうやって!?」


「飛んで──けッ!」



 ◇



 こうして私の奇妙な二日間は──S.A.M.T.()魔法少女派遣会社(ひろみ)の因縁は──私の圧倒的勝利によって締めくくられた。

 事の顛末についてだが、結局ひろみは私がコントロールを誤ったことにより、ビルに激突。ビル内を貫通し、かなりの距離を飛んでいってしまった。……が、幸運な事に死にはしなかった。さすが魔法少女(?)。

 ツカサもツカサで、満身創痍なひろみに、詰め寄ることが出来ず、そのままひろみがツカサに危害を加えたという事自体がなあなあに終わってしまった。

 後からひろみに訊いてみると、ひろみはツカサを、ツカサと思って攻撃していなかったらしい。まあ、あのツカサの変化を見れば、当然と言えば当然なんだけど。そしてひろみは、怪我が完治した後、S.A.M.T.へ移籍することになり、今ではたまに一緒になって出撃したりしている。

 もう私に口答えするようなことはなくなったけど……。


 霧須手さんは引き続きS.A.M.T.に勤めていて、インベーダーを相手に刀を振るっていた。が、あーみん、みっちゃん、ゆかっちの三人は〝なんちゃって魔法少女〟を辞め、心臓破坂を再結成し、アイドル業へと戻った。たまに友情出演という形で、霧須手さんが心臓破坂のライブに参加したりしなかったりすることがあったが、その度に霧須手さんがメンバー全員にいじられ、笑いをとるという流れがお約束になっていた。しかし霧須手さんも、心臓破坂のメンバー全員も、昔とは比べ物にならないくらい仲良くなったんじゃないか、とファンたちの間で話題になっている。


 そしてレンジこと、ミス・ストレンジ・シィムレスは今でもちょくちょく空を紅く染め、私たちにちょっかいをかけ続けていた。こいつがこれからどう動き、いま何を考えているのかは、私にもわからない。


 その後、また色々な事件や出会いがあったけど……それはまた別のお話──

ここまで読んでいただき、お付き合いいただき、本当にありがとうございました。

魔法少女、鈴木桜の冒険はここで終わりになる……かはわかりませんが、とにかく、ここで一旦区切らせて頂きます。ありがとうございました。

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