↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/66

第1章:鬼ヶ島からの脱出ⅩⅣ『弱者の矜持』


「無謀じゃ。死にに行くようなもんだろうが!」


「無謀は覚悟の上でございます」


「勝算はあるのか?」


「……ございませんが」


 だろうな、と声には出さずひとりごちた。


 まさかとは思うが、先ほど赤鬼に捕まっていたのも、青鬼を救おうとして下手を打ったのではあるまいか……。実直すぎるこの獣なら十分にありえる、と頬の端が引き攣った。


「何故そうまでして救おうとする? あの者たちとお前さんに、なんの繋がりがあるってんだ」


「……おっしゃるとおり、縁も所縁もありません。ですからこれは、己の満足のためでございます。トトがそうしたいと思うから行くのです」


「……は、」


 ざらついた腹の底から、皮肉るような嘲笑がこぼれた。

 無償の善意というやつか。いかにも純真なネズミが言い出しそうな甘っちょろい台詞である。

 しかしそれは、身のほどもわきまえぬ美事(きれいごと)でしかない。


「つい今しがた労して拾った命にしちゃあ、ずいぶんと軽々しく捨てるじゃねェか。おまけに無意味ときた」


「……救って頂いたことには心より感謝しております。しかしこの命の使い道が無意味とは、聞き捨てなりませぬ」


「ハッ、無謀と知りつつむざむざ散りに行くんだろうが。策もなければ得るものもない。運良くことが転んだところで、青鬼どもに礼をされるとも限らん……。ないない尽くしだ。そうだろう?」


 ネズミは首をふった。


「なにかを得るために、行くのではありません。――自分を失わぬために行くのです」


「……なに?」


「トトは気にいらんのです。己よりも弱き者を踏みつけ、悦にいるような下卑た輩が……。どうにかして目にものみせてやらねば、腹の虫が治まりません」


「…………」


「憎っくき相手に散々いいように弄ばれ、このままなにもせず尻尾を巻いて逃げ出したとあれば、悔いが残ります。それは死よりも耐え難いッ」


「!」


 ――絶句である。

 


 頭を金棒で殴られた心地がした。

 獣が吐き出した思いの丈は、すべて身に覚えのある主張であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。