第1章:鬼ヶ島からの脱出ⅩⅣ『弱者の矜持』
「無謀じゃ。死にに行くようなもんだろうが!」
「無謀は覚悟の上でございます」
「勝算はあるのか?」
「……ございませんが」
だろうな、と声には出さずひとりごちた。
まさかとは思うが、先ほど赤鬼に捕まっていたのも、青鬼を救おうとして下手を打ったのではあるまいか……。実直すぎるこの獣なら十分にありえる、と頬の端が引き攣った。
「何故そうまでして救おうとする? あの者たちとお前さんに、なんの繋がりがあるってんだ」
「……おっしゃるとおり、縁も所縁もありません。ですからこれは、己の満足のためでございます。トトがそうしたいと思うから行くのです」
「……は、」
ざらついた腹の底から、皮肉るような嘲笑がこぼれた。
無償の善意というやつか。いかにも純真なネズミが言い出しそうな甘っちょろい台詞である。
しかしそれは、身のほどもわきまえぬ美事でしかない。
「つい今しがた労して拾った命にしちゃあ、ずいぶんと軽々しく捨てるじゃねェか。おまけに無意味ときた」
「……救って頂いたことには心より感謝しております。しかしこの命の使い道が無意味とは、聞き捨てなりませぬ」
「ハッ、無謀と知りつつむざむざ散りに行くんだろうが。策もなければ得るものもない。運良くことが転んだところで、青鬼どもに礼をされるとも限らん……。ないない尽くしだ。そうだろう?」
ネズミは首をふった。
「なにかを得るために、行くのではありません。――自分を失わぬために行くのです」
「……なに?」
「トトは気にいらんのです。己よりも弱き者を踏みつけ、悦にいるような下卑た輩が……。どうにかして目にものみせてやらねば、腹の虫が治まりません」
「…………」
「憎っくき相手に散々いいように弄ばれ、このままなにもせず尻尾を巻いて逃げ出したとあれば、悔いが残ります。それは死よりも耐え難いッ」
「!」
――絶句である。
頭を金棒で殴られた心地がした。
獣が吐き出した思いの丈は、すべて身に覚えのある主張であった。




