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第59話 死霊


「酒呑童子は、元々があの喋り方なんですよ」


 徒歩でニヴルヘイムへ向かう5人は、それぞれが別の話題で盛り上がる。

 ガールズトークに夢中な酒呑童子にかわってダユが口調の説明をしていく。


「元々、あの訛りだったのを、部下に『聞き取りづらい』と言われたから変えたんです。アイツはああ見えて部下を大切にしてるんですよ。ただ、酒を口にすれば感情が高ぶり元の口調に戻るだけで」


 酒呑童子にとって、酒とは鍵。

 感情を抑制するパンドラを開ける鍵こそ、酒だった。

 豹変した後の方が本来の酒呑童子であることを考えるなら、彼女は相当な努力を繰り返してきたことがうかがえる。


「お前も口調が安定しないな」

「……まぁ」

「あんたはんは、ウンディーネにかっこつけたとこみせたいだけなんよね?」


 自分の話題を嗅ぎ付けた酒呑童子は、ダユの話題へ切り替わった途端、後ろから口を挟んだ。

 大剣を引きずるように持ちながら、酒呑童子は悪戯っぽく眼を細めてダユを見た。


「ダユは、その名の通り幻獣やから、自分の性格が一定じゃないんよ。何かに変身するたびに性格が引っ張られるさかいに。口調なんて、変わって当然の代物なんよ」


 ケタケタと笑う酒呑童子は、どこか寂しそうに。

 ダユの肩へ手を回し、寄り掛かる様に歩く酒呑童子は、微かに微笑んだ。


「そんなんでも、己の嫁には、かっこつけたとこだけ見せたくて強気に振る舞うなんて、ほんに可愛らしいお人やな」

「うるさい。離れろ」

「いけずぅ」


 お返し、と言わんばかりにダユの隠していた部分を晒していく酒呑童子に、ダユは機嫌を損ねる。

 酒呑童子の手を払いながら、ダユはウンディーネを一瞥した。

 釣られて、ハクもまたムクの方へ振り返る。


「「……むぅ」」


 そこには、頬を膨らまし自分の旦那を見つめる2人の姿があった。

 無表情のまま、ムクはじっ、とハクに視線を注ぐ。

 ドレスを掴み手を震わせ、ウンディーネは涙目でダユを睨む。


「ウ、ウンディーネ?」

「……か」

「は?」

「浮気! ですか!!」


 ダユへと詰め寄り、ウンディーネは声を上げた。

 両手でダユを叩くウンディーネは、拗ねた子どもの様に不満を吐き出す。


「私というものがありなが、何が不満なのです!? あれですか、やはり触れ合いですか!! ならもっと触れなさい!! ほら、ほら!!」

「ウンディーネ、自主規制」


 ずい、と胸を差し出すウンディーネを、ムクが後ろからたしなめる。

 肩を落とししょぼくれるウンディーネはムクの元へ戻り、その小さな肩に頭をのせる。

 壮大な勘違いをされ慌てる護衛を眺め、ハクは大きく溜め息を吐いた。


「酒呑童子。お前とダユの関係を明言してやれ」


 肩を竦めながら、ハクは酒呑童子へ指示をする。

 その言葉に、ウンディーネも瞳を潤ませ、酒呑童子を見つめた。

 一同の視線を一身に受ける鬼人は、諦めたように肩の力を抜く。


「同郷出身の腐れ縁。それ以上でもそれ以下でも、なんもあらへんよ」


 そう言って、酒呑童子は静かに笑った。


    +++


「……それで、何故こうなったのですか?」

「挨拶回りにいってきただけだ」

「私は、許可を貰うようにと言ったんですよ!? 何故! お持ち帰りしているんですか!!」


 フェンリルと談笑するサラマンダー、ムクと手を繋ぐウンディーネに、ヨルムンガルドはハクへ掴みかかった。

 大広間の玉座に座るハクは、面倒くさそうに頬杖をつく。


「持ち帰ったんじゃない。勝手に来たんだ。それに、呼んだのはお前の兄だろう」

「もー、ヨルは怒りすぎー。いいじゃん、精霊種の当主だよ? 当主会議しやすくなるし」


 ハクとフェンリルの態度に、ヨルムンガルドは怒りで肩を震わせる。

 そんな秘書に、ムクはそっと近づき、背中を優しく叩いた。


「どん、まい」

「ッ、……ハァ」


 こてん、と首を傾げながら言うムクに、ヨルムンガルドは全身の空気を吐き出した。

 脱力し、肩を落とす彼に、今度は違う手が置かれた。


「さて、ヨルムンガルドにも説教するべき点がございます」

「ムク様を危険に晒すなんて~いい度胸ですよね~」


 振り向いたヨルムンガルドの眼に映ったのは、覇気溢れるヒュドラとミカエル。

 顔を引き攣らせたヨルムンガルドは、瞬時に小さな蛇へと姿を変え逃亡を図るが、ヒュドラに尻尾を掴まれる。


「あちらでお話しましょうか」

「こってりしぼりますよ~」

「あぁああ……」


 尻尾を持たれ逆さまにされたヨルムンガルドは抵抗を諦め、ヒュドラとミカエルに連行される。

 大広間から立ち去る3人を眺め、サラマンダーとフェンリルは、そっと手を合わせた。


「ヨル、君の勇姿は忘れないよ」

「いい奴だった、な……」


 勝手に死んだことにされているとはつゆ知らず。

 ヨルムンガルドは、干物になるほど絞られる。

 近日中に、ヨルムンガルドの髪色は全て白になるであろう。


「苦労人だなぁ」

「ハハッ、そりゃそうだ。なんたって秘書サマで参謀なんだから」


 ミカエルについて来たルシファーと絞られるヨルムンガルドの様子を見に来たレヴァナントは、笑い声を上げながら大広間の扉をくぐった。

 ハクの前で歩みを止めた2人。

 一同は会話を止め、王座近辺から遠のく。

 ムクはハクの隣に座り、ダユは後ろに立つ。

 ウンディーネ、フェンリル、酒呑童子はレヴァナント達と並ぶ。

 全員が動き終えた後、レヴァナントはニヤリ、と口角を上げ、指を鳴らした。


「頼まれていた死霊の件、済みましたぜ」


 途端、整列した死霊が姿を現す。

 ルサールカより回収した魂を、レヴァナントの部下として活用するためハクは彼に一任していた。

 並んだ死霊は、透けた骸骨やまだ肉がついているものなど様々なだった。

 魔族も混じっているのか、尻尾や獣耳などを持つ者もいた。


「随分早いな」

「元々魔王様に呪縛を解かれた奴らだ。逆らおうとする奴の方がすくねぇ」


 ケタケタと笑うレヴァナントは、ムクの方へ視線を投げる。

 眼を細め、ムクを見つめるレヴァナントは、死霊たちの前から退こうとはしない。


「ッ」

「ムクどうした」

「……ううん、なんでも、ない」


 ビクリ、と体を震わせ、片目を瞑り頭を押さえるムクに、ハクは手を伸ばす。

 ハクが呼んだその名に、1人の死霊が顔を上げた。


「ムク……?」


 ポツリ、と死霊はムクの名を呼ぶ。

 釣られて顔を上げた死霊たちは、虚ろな眼にムクの姿を映した。


「何?」

「あの小娘か?」

「間違いない、シャルルムックだ!!!」


 1人の声を皮切りに、死霊たちがざわめき始めた。

 一部状況に混乱する者を除き、死霊たちはムクを指さし口々に叫ぶ。


「裏切り者!!」

「何故お前が生きている!!」

「あの日、お前が村に化け物を呼びこまなければ俺達はこんなことにならなかった!!!」

「お前が私達を殺した!」

「人殺し!!」

「お前が死ねばよかったんだ!!」


 魔王の御前であるにもかかわらず、死霊たちはムクへ向け暴言を吐き続ける。

 荒れる死霊たちを見て、ムクが細かく震えるのを、ハクは見逃さなかった。


「黙れ!! 誰に口きいてやがる!!」


 レヴァナントが死霊たちを黙らせようと叫ぶが、一度口を閉じた死霊は無理やり口を動かし続ける。

 騒ぎを聞き付けたヨルムンガルド達3人が大広間の扉をくぐるが、何もかもが遅かった。


「ぁ、ぁ……」

「あの日!! お前が連れてきた化け物が! 吸血鬼の化け物(・・・・・・・・)さえいなければ!!」

「「「口を閉ざせ」」」

「ヒッ」


 死霊の失言に、初代当主である4人が一斉に魔力を解放した。

 潰れるほど巨大な圧に、死霊のほとんどが口を噤む。

 だが、ほんの数人だけは叫ぶのを止めなかった。


「あぁ、ぁ……」

「ムク、ムク?」

「そこにいる新しい魔王が、今度の生贄か!!」

「また他者を利用して自分だけ生き残ろうって言うんだろ!!」

「化け物が!! お前なんか、生まれなければよかったんだ!!!!」


 瞬間、口を開き続けた死霊が消えた。

 突然のことに、当主含むその場にいた全ての者が眼を見開いた。

 ムク以外は。

 頭を押さえ、身体を丸めるムクは、突如仰け反って腹の底から絶叫した。


「あ、あぁああ、ああああああああああああああ」


 ムクの悲鳴は、平行世界全土に轟く。

 ムスペルやスルト、各地に散らばる精霊たちの耳にまで届いたムクの悲鳴は、魔法を発動させた。

 悲鳴を上げ続けるムクは、自分が魔法を発動している自覚すらない。

 属性が混ざり合う無茶苦茶な魔法は、ムクの叫び声を詠唱として、死霊を皆殺しにしていく。


「ぎゃぁああああああ」

「うぐうぅうぅああああ」

「やめ、ひ、あああああ」

「きゃああああああ」


 引き裂いて。

 燃やして。

 溺死させて。

 窒息させて。

 光の下へ引きずり出して。

 狂わせて。

 断末魔と共に1人、また1人と消えていく。

 逃げまどう死霊は、だが逃れることはできず。

 目の前で起こる惨事に、誰も手を加えることはできない。


「ひッ、や、ぁあ、あああああああああぁぁ、ぁ……」


 最後の叫び声を残し、大広間にいた死霊は1人残らず消滅した。

 それと同時に、ムクの体から力が抜け、人形のように倒れ込む。

 咄嗟に手を伸ばしムクを受け止めたハクは、彼女の安否を確認する。

 気絶し、細い呼吸で眠るムクに、ハクは視線を鋭く尖らせる。

 自然と、ハクの声には重みが加わった。


「ウンディーネ、酒呑童子。ムクを寝室へ連れて看病してやれ。他、我がムスペルヘイムへ行っている間この国にいた全ての当主は、この場に留まれ」

「「「はッ」」」


 ハクはすぐさまウンディーネを呼び寄せ、ムクを引き渡す。

 ウンディーネと酒呑童子がムクを連れ大広間から退場したのを見届けた後、ハクは当主達を見下ろす。

 跪く当主達の中、ハクはレヴァナントに標的を絞り、睨みつけた。


「貴様、わざとだな?」

「いくら魔王様といえど、言いがかりは良くねぇな」


 顔を上げたレヴァナントは、ハクへ向け強気に笑って見せる。

 視線を交えた2人は、過激に火花を散らした。




1次選考落ちて落ち込んでます。

是非清き感想をお願いします。

感想に飢えています。

一言でも、感想を、ぜひ。

次回は小話を挟みます。

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