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悪魔的友好


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ーーーー某小学校教員棟廊下。


教師と思われる男女二人が、神妙な面持ちで会話をしていた。


校舎内の時は止まってしまったかのように人気も物音もない。ただ二人の重たげな足音がかつかつと響き渡るだけだ。


「……不幸な事故でしたね。あの子達はいつも二人でした。特にーーさんはルリさんを引っ張る存在でしたから、心に負った傷は、計り知れないでしょう……」


「家族も辛いけど……親友だったあの子も、相当堪えてる筈よ。半身を失ったみたいに、最近は元気が無いわ」


「こればかりは、時間が癒してくれるのを待つしかないでしょう。我々教員側もしっかりとメンタルケアをしてあげなければ」


「間違っても、変な気だけは起こさせないようにしなくてはなりません」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



日曜日。


特に予定もなく暇だった私は、街にあてもなく買い物に出かけていた。


綾は今日もバイトだから、誘っていない。


それに、告白されてからなんとなく軽い気持ちで誘うのも憚られるので、久々に一人だ。


告白の返事をどうしようか、じっくり考えたかった気持ちもある。


「……お昼食べたら帰るかな」


駅前の噴水広場のベンチに腰掛け、雲とにらめっこ。


今日も平和だ。


目ざとく私を見つけ、駅から駆け寄ってくるあいつさえ目にしなければ……


「また会ったわね、咲っ!」

「……どなた?」


「姫乃よ、黒崎姫乃っ! あんたのライバルよ!」


ライバルになった覚えはないし、この娘に襲われかけたことは未だに少しトラウマになっている。


「あなたが発情しやすい色情魔ってことは覚えてるわ」

「ちょっとっ、そんなんじゃないわよ! あれは……不可抗力っていうか」


「不可抗力で汚されたくないの。頼むからもう関わらないでよ」

「うぅ……ごめんなさい、嫌いにならないで。傷付けたかった訳じゃないの」


信用なんて無理だ。関わりあいたくないというのも本音。


そもそも悪魔同士なんて本来は"餌"の取り合いなんだから、仲良くなんて出来るはずもない。


「もう遅いよ。絡んで来なければ嫌わないであげるわ」


冷たく言いすてると、姫乃は押し黙って俯いた。少し身体が震えているように見える。さすがに言いすぎたかな……


「そう……どうしても拒否するってのね。だったら、あんたには悪いけど、あたしの野望のためにほんの少しだけ卑怯な手を使わせてもらうわ」


「なにを……?」


私の目の前に姫乃の右手がかざされる。


「我、黒の名を冠する悪魔として汝に命ずるーーあたしの友達になりなさいっ!」


姫乃の瞳が紅く妖艶に輝く。それと同時に、身体が拘束されるような不可思議な力を感じた。


間違いない。姫乃は今、私に"魅了(チャーム)"を使ったんだ。でもさーー


「……"魅了(チャーム)"は異性にしか効かないって言ったじゃない。あなたにとって私は異性なの?」


「……へ? なんで、効いてないの?」

「だからそう言ってるじゃん」



ーーあの子はまだ未熟なの。それこそ、本物(・・)に魅了されたら、イチコロでしょうねーー



「だって、あの女はイチコロって……」

「ぷっ。間抜けな顔しちゃってさ」


放心状態の姫乃があまりに面白くて、私は思わず笑ってしまった。


「しかも仰々しく"魅了(チャーム)"を使ってまで何を命じるのかと思ったら、友達になりなさいとか……あははっ」


「うぅぅ……っ! 笑うなぁっ!」


姫乃は涙目で心底悔しそうな顔をしている。この子、バカで変態だけど素直で可愛いのかもしれない。バカだけど。


こんな残念な一面を知ってしまうと、憎みきれないじゃない。


「我、黒の名を冠する悪魔としてーーーー」


「うわぁぁぁっ! 真似るなっ、復唱するなぁっ!」


姫乃のやってた動きを真似してからかうと、彼女は全力で恥ずかしがり、私を止めようとしてくる。この子の扱い方、なんとなく分かってきたかも。


「ごめんなさいっ! もうしないから、反省してるからぁっ! からかわないでよぉっ……!」


おっと、やり過ぎたのか姫乃が泣き出してしまった。


このぐらいで許してあげよう。反省してるって言ってるし。


「姫乃だっけ、あなたの名前。綾のことが好きなんだよね?」


「…………うん」


小さくコクリと頷く。威勢がいいのやら悪いのやら。


「いいよ。友達になってあげる」


「……ホントっ!?」


「綾は渡さないけどね♡」


うぅ〜……と悔しそうに唸る彼女を見てふと思った。


ある意味で、姫乃の魅了は成功していたのかもしれない。




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