悪魔的告白
夕飯を終え、私の部屋に二人で戻る。綾には私の替えのパジャマに着替えてもらって、二人でベッドに寝転がり、くつろぎタイムだ。
「咲ちゃんのお姉さん、料理上手だよね〜。ついおかわりしちゃった」
「色んな男に手料理振舞ってるからね。やっぱり色々と手馴れてるみたい」
お姉ちゃんも私と同じ悪魔だから、生きる為に定期的に精気を吸い取る必要がある。その為に男を陥落する術を心得ているという訳だ。時々お姉ちゃんの部屋から、変な声が聞こえてくるのは、聞こえないフリをしていたりする。
「手馴れてるかぁ……咲ちゃんも、男のヒトとするのかな?」
「私はまだだよ。子供だし、早いと思う。それに"食事"なら、綾に助けてもらってるし」
「でもホントは、男のヒトから吸収するのが一番効率が良いんでしょ?」
「そりゃあねー。元々そういう生き物だし、しょうがないよ。でも今は、綾が頑張ってくれてるから平気よ」
綾とキスすることで、私は本来の意味の"食事"を取っている。お姉ちゃん曰く、男のヒトの精気を吸った場合は一月ぐらい"食事"を取らなくてももつらしいが、女のヒトからだとその十分の一程度しか吸収出来ない。
我慢も出来なくはないけど、つい最近に大変なことになってしまったから我慢は極力しない予定だ。
「咲ちゃん、わたしね……咲ちゃんがいいなら、キスの先にいっても、いいよ……?」
「……え? 綾、なにを…?」
「この前泊まった時に、お姉さんから聞いたの。悪魔さんは、その行為が濃密であればあるほど、精気をより多く吸収出来るって。だから、咲ちゃんとならわたし……」
「綾、大丈夫だよ。私は現状で満足してるし、これ以上は望んでない。死ぬ訳じゃないしさ。綾だって、精気を吸われすぎると危険なのよ?」
「わたしは……その先にいきたいよ」
気付いたら、綾がこちらを真剣な表情で見つめていた。
「綾」
「わたし、咲ちゃんの、特別になりたい……です」
それは、覚えている限り二度目だった。
自己主張をあまりしない綾が、真っ直ぐな眼差しで自分の意志を通そうとしている。初めてのキスをせがまれた時と、同じーーーー
「……特別って、なに?」
「恋人」
「即答っ!?」
「悪魔さんなのに初心な咲ちゃんに、あんなことやこんなことしたい」
「かわいい顔して怖い発言やめてっ! ……まさか綾も、フェロモンだが何だかで……?」
「安心していいよ咲ちゃん。あの子のように熱に浮かされるみたいな感覚はないんだ。この気持ちは紛れもなく、わたし自身が感じてる、大切な気持ちだよ」
「それって、綾の豹変っぷりを何のせいにも出来ないってことじゃない……」
悪魔に襲われたと思ったら、今度は親友か……
今日は厄日なのかもしれない。
私は確かに悪魔だけど、望んでいるのは普通の生活だ。
私の人生を下手な冒険ファンタジーやドロドロな三角関係の昼ドラのようにするつもりは一切ない。
でも、綾とならーーーー
「咲ちゃん。返事はすぐじゃなくていいの。出来れば答えを出すまでの間も、今まで通り親友としてそばに居てほしい」
「…………分かった。私も頭を冷やして考えたいし。綾だから、下手な返事をしたくないから、考えるんだからね?」
「うん。待ってるよ」
綾はそう言って、私の頬に不意打ちでキスをして、顔を隠すように横向きになった。