悪魔的甘言
「……はぁ。どうしよう……綾さんに嫌われちゃった……」
夕焼けに照らされた公園のベンチで、一人らしくもなく黄昏れる。
家に帰る気分にもなれず、時間は無意味に過ぎていくばかりだ。
あたしにはこんなセンチメンタルな感情なんて似合わない。そんな生き方を貫いて来たはずだった。
でも、さすがに今日の出来事は堪える。
「咲のこと、傷付けちゃった……綾さんにもあんなところ、見られちゃったし……」
今更後悔したって、遅いかもしれないけど。
犯した過ちは、償いたい。
「どうすればいい……? どうすれば、許してもらえる……?」
「ーーーー許してもらえないなら、償う必要も無いくらい、滅茶苦茶にしてしまえばいいのよ」
「滅茶苦茶に……?」
「ええ。あなたは悪魔なんだもの。相手を堕落させることくらい造作もないでしょ? その力で、咲も綾も屈服させ、あなたの虜にしてしまえばいいの。文句など言えない程、深く、深淵まで」
いつの間にか目の前に、黒いスーツを纏った女性が立っていた。それよりも、この女はなぜ、あたしの事情や名前を知っているの?
「あんたは……いったい」
「名乗ることはできないけれど、一つだけ秘密を教えてあげるわ」
「秘密……?」
「咲は、悪魔だけど、生粋のではないの。あの子は、作り変えられた悪魔なのよ」
「それ、どういうーーーー」
これ以上は言えないわと言って、その女は背を向けた。
「あの子はまだ未熟なの。それこそ、本物に魅了されたら、イチコロでしょうね」
そう言い捨て、黒の女は去っていった。
「未熟……あんなに強いフェロモンを発してるのに? それに、二人を虜になんて……」
「虜に……」
綾さんと咲を私の眷属として侍らせる未来を想像してみた。それはとても甘美な夢で、なかなかに悪くない
世界だった。
従順で穏やかな綾さんと、少し生意気だがしおれると可愛い咲。
そんな二人を主として使役する、あたし。
普通の人間だったら、そんな未来には到底たどり着けない。
でも、あたしにはーーーー
「悪魔の力が、あるじゃない」
この力を使えば、絶望的な現状を打破できるかもしれない。
さっきの女も言っていたように、まずは同じ力を持つ、咲から。
眷属に堕とすーーーー
「待ってなさい、咲。あたしの力があんたより上だってこと、今から証明して見せるわ」