悪魔的邂逅(上)
週末明けの月曜日。
帰りのホームルームも終わり、まだちらほらと残っている学生が多い。かくいう私は、何となくすぐ帰る気になれず、机に突っ伏していた。
本来なら憂鬱な一週間の始まりで、極力水曜くらいまでは無気力でやり過ごしたい気分なんだけど、その少女はそんなことは御構い無し、といった雰囲気で話しかけてきた。
「あんたが黒川咲ね」
「……? そうだけど、どちら様?」
「あんたの秘密、知ってるの。フツウの人間じゃないってこと。フツウになりすまして、人間共を欺いているってこと」
「…………へぇ、電波さんかしら。何を言ってるのか分からない。私の質問には答えてくれないの?」
「もちろん答えてあげるわ。けどここじゃまだ人目があるから、ついてきて」
本当は動きたくなかったが、放っておいたら何やら面倒そうな相手だし、私は渋々と彼女についていくことにした。
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ーーーー体育館裏。
確かにここなら人目は少ないし、館内で活動中の部活の掛け声で、内緒話程度ならかき消してくれるだろう。
「改めて自己紹介するわ。あたしは黒崎姫乃。クラスは隣の2-Bよ」
「黒川咲、宜しく」
隣のクラスだったからこの娘を知らない訳だ。
「本題に入るわ……あんた、悪魔でしょ?」
「……悪魔? なにそれ、中二病?」
「とぼけなくてもいいの。だって、あたしもーーーー」
黒崎姫乃と名乗った少女の身体から、悪魔の証である蝙蝠のような翼が現れた。
わざとらしくパタパタと羽を動かして見せて、彼女は自信ありげな表情を浮かべる。
「どう? あたしは正体を晒したわ。あんたも見せてよ」
「…………」
ーー面倒だ。
こういう絡み方をする奴との出会いで、いい思い出なんてありはしなかった。
無言で魔力を解放する。久しく羽なんて出してなかったから、この姿になるのは本当にいつぶりだろう。もしかしたら、自分が悪魔だと教えられた時以来かもしれない。
姫乃と同じように、漆黒の翼を出現させてみせる。
「これで満足? で、私に近づいたのは何が目的?」
返答次第では、実力行使も辞さない。そのような強い意志を込め、自分と同じ悪魔を睨みつける。
「あんたに分からせてやろうと思ってね、どちらが相応しい悪魔なのかを」
「相応しい悪魔……?」
こいつ、私がこの地域一帯を取り仕切る悪魔だとでも勘違いしてるのだろうか。利権や奸謀渦巻く裏社会とは一切無縁の生活なんだけど。
ただの平凡な女子高生なんですけど!
「そう……どちらが! 綾さんに相応しいのかを! 勝負よ黒川咲!!」
「……………………は?」
おそらく今の私は、マンガのように目が点になっているに違いない。