悪魔的悪夢
「これは、ちかいのしるしだよ。大好きなふたりどうしが、おたがいにこの髪かざりをつけてると、ずーっと仲良しでいられるの!」
「これ、あたしにくれるの? ーーちゃん」
「うん! 中学校ははなればなれになっちゃうけど、これがあればずっとつながっていられるから。だから、ルリちゃんにあげるね」
「ありがとう……あたし、絶対にーーちゃんのこと忘れない。学校が落ちついたら、また遊ぼうね」
「うん、約束だよ」
「約束だね」
「……やぶったら、許さないから」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ーーーーーーーーーはっ!?」
嫌な夢を見た。
最近よく、「ルリ」と呼ばれる少女が出てくる夢を見る。その夢を見ると、決まっていつも憂鬱な目覚めとなってしまう。
寝汗はぐっしょり、パジャマが肌に張り付いて気持ち悪い。寝起きの気分は最悪だ。
夢に出てきたあの女の子は、何処の誰なんだろう。とても大切な人だったはずなのに、なぜか全然思い出せない。それに、あの子の隣にいたもう一人の女の子は、いったい誰……?
ーーーー考えても、答えが出ないものは出ない。
こういう時は、気分を入れ替えて遊ぶに限る。
丁度学校も土曜日でお休みだし、気分転換に綾でも誘って遊びに行こう。
私は早速慣れた手つきで素早く手元のスマホを操作し、綾にラインを送った。
5分ほど経って、綾から返事が来る。
綾:ごめん〜><
綾:今日バイトなんだ〜
よし、今日の暇つぶし先は決まった。
綾のバイト先であるカフェで一日潰そう。そして綾の可愛らしいウェイトレス姿に舌鼓を打とう。
困った表情で顔を赤らめる綾を想像して、私は意気揚々と支度を整え、家を出たのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「愛情たっぷりオムライス一つで」
「さ、咲ちゃん……ほんとにそれ、頼むの?」
「"綾の"愛情たっぷりオムライス一つで」
「あ、悪化してるよ〜……うぅ」
「ほら、ご主人様が要望を出してるんだから受けなさいよ」
「違う種類のお店だよそれ〜」
「これスタンプカードね、お願い」
嫌々言いながら綾は渋々注文を受けて引っ込んで行った。
メイド喫茶程ではないが、このカフェは制服が可愛くて人気が高く、いつも並ばないと入れない。
料理はちょっとお値がはるけど、その分味もいいし、何よりこの店のとあるサービスが良いのだ。
それは……
「お客様、お待たせしました。あ、愛情たっぷり……オムライスですっ」
私の目の前に、半熟とろとろのオムライスが差し出される。しかし、ケチャップはまだかけられていない。
さっき綾に渡したスタンプカードは、オムライスを三回食べると満点になる。
満点のスタンプカードと引き換えで、好きなウェイトレスに好きな言葉をケチャップで書いてもらえるのだ。
これがこの店の人気の秘訣。メイド喫茶に行ってみたいけど、少し敷居が高いと感じる人が、登竜門としてこの店を選ぶらしい。
綾はそんな中でも一二を争う人気者だ。彼女を独占出来るのは今は私だけ、というのが何とも優越感を味わわせてくれる。
「あーやっ。LOVEって書いてよ〜」
「は、恥ずかしいよぅ」
「二人でもっと恥ずかしい事、いっぱいしたじゃない♡」
「や、やめてよ〜……変な目で見られちゃうよ……」
「いいじゃない。見せびらかしてやりましょうよ」
「うぅー……咲ちゃんの意地悪……」
照れる綾、最高のご馳走ね。これにはノーマルな私も思わず惚れちゃいそう。
たどたどしい手つきで、綾は私のオムライスにLOVEのケチャップ文字を描いていく。その様子をにやにやしながら見つめていると、綾は頬を膨らませて露骨な"怒ってます"アピールをし、私の頬にケチャップを一掬い指で付けた。
「ちょっと! 何す……」
不意打ちだった。
綾が啄ばむように軽く、なすりつけられたケチャップごと頬にキスをしてきたのだ。
顔面が目に見える勢いで火照るのが感じられた。
「ケチャップが跳ねちゃったから、取っただけですよ。ご主人様♡」
やられた……
時々、この子は"攻め"なんじゃないかと思わせる大胆な行動に出るから油断出来ない。
「キャー! 綾さんがキ、キキキスをぉ!」
後ろの席から黄色い悲鳴が響いた。
「バイト終わりに遊ぼうね、咲ちゃん。じゃあまた」
「う、うん……」
綾は片目でウインクしてパタパタと厨房に戻って行った。
女の子ファンもいるんだ……なんてどうでもいい事をぼんやり考えながら、私はキスされた頬を撫でていた。