悪魔的真実
「生みの呪って……どういうことですか?」
「文字通りの意味よ。あたしがこの世を呪ったから、咲が生まれたの」
咲ちゃんがいつか言っていた。
ーー悪魔は、この世への未練や後悔、復讐心などが基となって誕生すると。つまり彼女は、咲ちゃんの前世の人……?
「……ちょっとだけ、散歩しましょうか」
ルリに連れられて、わたしたちは歩き出す。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
二人で紅葉に染まった並木道をゆっくりと歩いていく。いつもは多くの人が行き交う賑わった通りだが、今日は嘘のように人が少ない。
ルリはわたしに柔らかく微笑んで話しかけてくる。
「あなたは、あたしが好きだった女の子にそっくりなの。その子は不幸にも死んでしまったけど、きっとあたしと同じように転生しているはず」
「転生……」
「それが、綾ちゃんーーーーあなたかもしれないの」
「わたしが、ですか?」
「そう。あたしは柄にもなく運命なんてモノを信じちゃったから、こんな悪魔になってまでこの世に戻ってきた。だからその結末が知りたいの。運命が本当にあたしと陽奈ちゃんを結んでくれたのか」
「……それは、咲ちゃんの意思でもあるんですか?」
「咲は何も知らないわ。今もあたしの中で眠ってもらっている」
わたしはその一言でほっと一安心した。咲ちゃんは消えたわけじゃないんだ。そして、咲ちゃんとの関係も……
「でもわたし、何も覚えてません……前世の記憶なんて……」
「前世の記憶がある人間なんて希少よ。悪魔になるほどの未練がない限りね。だから、あなたの潜在意識に直接訊くの」
わたしの、潜在意識……
「ちょっと嫌なことを思い出すかもしれないけど、ちゃんと忘れさせてあげるから。ーーーー許して」
咲ちゃんの身体から黒い靄が溢れ出し、漆黒の翼が現れる。瞳は紅く妖しく、ルビーのような輝きを放ちながら、ルリはわたしの眼前に手をかざした。
「なに、を……」
わたしの意識は、電源の落とされた機械のように一瞬のうちに消失した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ーーーー何処か遠いところから、咲ちゃんが泣いている声が聞こえた。
どうして泣いているの?
悲しいの?
遠くにいたはずの咲ちゃんが目の前に現れる。
彼女は子供のように泣きじゃくっていた。
「あなたは……陽奈ちゃんじゃなかった……運命なんて、なかったんだ……」
泣かないで、咲ちゃん……
わたしは彼女の頭にそっと手を置いて、撫でてあげる。
あなたが悲しいと、わたしも悲しいよ……
「どうして……どうしてそんなに……優しいの……?」
ーーーー咲ちゃんが好きだから。
咲ちゃんが悲しいなら、わたしが慰めてあげる。抱きしめてあげる。涙が止まるくらい、あっためてあげる。
わたしの一番、世界で大切な人。
「……あぁ、やっとわかったわ……なんで咲はあなたが好きなのか……咲の想いが、気持ちが溢れてくる……」
くすっ……変な咲ちゃん。咲ちゃんはあなただよ?
「……そうね。この身体は、あの子のモノだものね」
咲ちゃんの涙はいつの間にか収まり、彼女はほろ苦く微笑んだ。
「また会いましょう、咲の愛しい人ーーーー」
眼前が目も開けてられないほどの光に包まれていく。
ほんのひと時の、夢から醒める。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
気がつくと私は、綾の膝の上に寝かされていた。
「……え、あれ??」
ヘアピンを買った辺りから記憶に抜けがある。私、どうやってこんな所まで来たんだろう。そもそも、なんで綾に膝枕されちゃってるの??
頭の中がクエスチョンで一杯となった私を、綾は優しく撫でてくれる。その手の温もりが心地良くて、私は何もかもどうでもいい気持ちになってきた。
「ねえ、綾……」
「なーに? 咲ちゃん」
赤くなっている顔を見られたくなくて、綾のお腹に顔を埋めた。お日様みたいなあったかさと綾の優しい匂いに包まれる。
「……もうちょっと、こうしてたい」
「くすっ。いいよ、咲ちゃん」
綾が私の髪をいじりながら楽しそうに鼻歌を口ずさんでいる。
「ずっとずっと、一緒だよーーーー」




