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悪魔的追憶


「これは、ちかいのしるしだよ。大好きなふたりどうしが、おたがいにこの髪かざりをつけてると、ずーっと仲良しでいられるの!」


そう言って、陽奈ちゃんはあたしに十字架の可愛い髪飾りを渡してくれた。


あたしたちの絆を、形でもって証明してくれる大切なモノ。


「これ、あたしにくれるの? 陽奈ちゃん」


「うん! 中学校ははなればなれになっちゃうけど、これがあればずっとつながっていられるから。だから、瑠璃ちゃんにあげるね」


「ありがとう……あたし、絶対に陽奈ちゃんのこと忘れない。学校が落ちついたら、また遊ぼうね」


「うん、約束だよ」


「約束だね」


誓いの指切りを交わす。

陽奈ちゃんは普段からは想像も出来ないようなぞっとする低い声で呟いた。


「……やぶったら、許さないから」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



陽奈ちゃんが死んだ。


交通事故だった。


指切りをして別れてから、僅か数時間の出来事だった。


信号無視した車に跳ねられて、これから始まる筈だった輝かしい未来を見ることなく、交わした誓いを果たすことなく、陽奈ちゃんが死んだ。


二人の淡い誓いは、いとも容易く断ち切られた。


陽奈ちゃんは最期まで、あたしとお揃いの髪飾りを懸命に握りしめていたという。


あたしは、上手に息が出来なくなった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ーーーー某小学校教員棟廊下。


教師と思われる男女二人が、神妙な面持ちで会話をしていた。


校舎内の時は止まってしまったかのように人気も物音もない。ただ二人の重たげな足音がかつかつと響き渡るだけだ。


そんな二人を、静かな瞳で見つめる少女がいた。


「……不幸な事故でしたね。あの子達はいつも二人でした。特に陽奈さんは瑠璃さんを引っ張る存在でしたから、心に負った傷は、計り知れないでしょう……」


うるさい。


「家族も辛いけど……親友だったあの子も、相当堪えてる筈よ。半身を失ったみたいに、最近は元気が無いわ」


うるさい。


「こればかりは、時間が癒してくれるのを待つしかないでしょう。我々教員側もしっかりとメンタルケアをしてあげなければ」


うるさい。


「間違っても、変な気だけは起こさせないようにしなくてはなりません」


ーーーーうるさい。


「ねぇ」


「ひっ! ……る、瑠璃さん、いつからそこに……!」


「……聞いていたの? ここは先生たちの場所だから、生徒は入っちゃだめよ」


「あんたたちに何がわかるの。何も出来ないくせに、偉そうなこと言わないで」


教師二人は思わず一歩引く。今の瑠璃からは、鋭い冷気のような悪意しか感じられない。


まだ幼い少女が抱え込むには、おぞまし過ぎるほどの呪いだった。


「あたしを何とかしたいなら、陽奈ちゃんを返してよ。それが出来ないなら、余計なことするなっっっ!!」


「瑠璃さんっ! 待ちなさいっ、瑠璃さんっ……!!」


うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「陽奈ちゃん……あたし、もう疲れちゃった。陽奈ちゃんがいないなら、もう生きてる意味無いよ……」


陽奈ちゃんから貰った髪飾りを前髪から外し、両手でぎゅっと握りしめる。


夕暮れに照らされた校舎の屋上から、住み慣れた街の風景を眺めた。


一つ、また一つ。家々に命が芽吹くように明かりが灯されていく。


きっとその明かりの一つ一つに、それぞれが紡ぐ幸せな物語が有るのだろう。


……あたしはそれが憎らしい。


「待ってて陽奈ちゃん。すぐ会いに行くから……」


安全柵のフェンスを越え、あたしはーーーー


「待ちなさい」


突如背後から声をかけられ、身体が強張る。


声の方向へ振り向くと、そこには見知らぬ黒いスーツを着た女が立っていた。


「あんたは、誰?」


「あなたの望みを叶えてあげるわ、瑠璃」


あたしの質問には答えず、彼女はそう言った。


「望みって……あたしの質問にっ」


「あなたは大切な人を失ってしまい、自分自身すらも見失いかけている。だから私が導いてあげる、あなたの願う結末に」


「あたしの願う、結末……?」


黒いスーツの女の瞳が怪しく輝く。


何故あたしの事情を知っているのか、何故あたしに関わるのか。


何も分からない筈なのに、何故かこの女の言う事に縋り付きたくなってしまう。


それは甘い罠だった。


縋るものが何も無いからこそ、劇薬であるにも拘らずーーーーあたしは、それに手を出した。


出さざるを得なかったのだ。


「……どうすればいいの? どうすれば、あたしの望みは、陽奈ちゃんは生き返るの?」


黒い女はニヤリと笑った。その言葉を待っていたかのようだった。


「ただ望み続ければいいの。その十字架に誓って、二度と離さないように。そうすれば、やり直せるわ」


「やり直せるって……え……」


気付くとあたしは、宙に投げ出されていた。


足を踏み外した? 違う、何かに引き摺り下ろされるような感覚だった。




……あぁ、陽奈ちゃんなのか。


あたしを連れていってくれるんだね。


……生まれ変わったら、ずっとずっと、一緒にいようね。




堕ちていく少女を見下ろしながら、黒い女は不敵に笑った。


「再構成される世界で、あなたたちの運命は必ず絡み合うわ。とても美しく、残酷に」



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