悪魔的覚醒
姫乃と別れた後、綾に「会いたい」という旨のラインを送る。バイト中にも拘らず、返事はすぐに返ってきた。
綾:私もー
咲:バイト終わったら教えて
綾:おっけ〜(o^^o)
これで下準備は整った。返事を待たせてしまったのだから、その分私の精一杯の気持ちで伝えてあげないといけない。
そうだ、何かプレゼントでもみつくろう。
バイト終わりまで時間を持て余すのもなんなので、私は綾に似合うアクセサリーを探す旅に出ることにした。
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「おっ。これなんか可愛いかも」
手に取ったのは、ピンク色のヘアピン。小さな花があしらわれており、綾が付ければ可憐な印象を更に強めてくれそうだ。これにしよう。
レジに向かう途中、気になるアクセサリーがあった。
ーー十字架の髪飾り。
さっき姫乃が言っていた、噂の悪魔狩りが付けているという髪飾りと、同じ。
何故かその髪飾りに目が惹きつけられ、思わず手に取った瞬間ーーーー
強烈な痛みが脳に走った。
「つっ……! なに、これ……!?」
脳内を知らない映像が駆け巡る。これは誰かの記憶、だろうか。
あまりの衝撃に、意識を手放してしまいそうになるのをぐっと堪える。
「これ……買わなきゃ」
無意識の内に、強い使命感のようなものに苛まれ、私はその髪飾りをヘアピンと一緒に買っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「咲ちゃん、ごめんね。待った〜?」
バイトが終わったわたしは、咲ちゃんとの待ち合わせ場所へとちょうど今到着するところだった。
大好きな女の子の後ろ姿に一瞬胸が高まりながら、声を掛ける。
「うん。待ってたよ」
振り向いて笑顔を見せてくれる。彼女の笑顔を見るだけで、わたしも無条件で笑顔になる。
「何か奢ってあげるから、許してよぉ」
「それなら、いいよ」
「咲ちゃん、イメチェンしたんだねっ。その髪飾り似合ってるよっ」
「ありがとう」
「……咲ちゃん?」
どうもいつもと様子が違う。声のトーンはいつもより低いし、笑顔もどこか造られたように見える。
いつもとの違いは、あの十字架の髪留め……
「咲ちゃん、何かあったの……? 咲ちゃん……なんだよね?」
「鋭いね、綾ちゃん」
「!」
違う。この子は咲ちゃんじゃない。
彼女なら、わたしをちゃん付けで呼んだりしない。
「勘が鋭くて嬉しいな。ずっとずっと、待ってたんだよ。この日が来るのを」
「なに言ってるの……? あなたは誰っ……!?」
「そっか。あなたは今、なにも覚えてないんだもんね。教えてあげるよ」
咲ちゃん。いや、彼女に成りすました何かは、かくして正体を告げる。
「あたしの名前はルリ。この身体の持ち主、悪魔としての咲の、"生みの呪"だよ」




