悪魔的問答
真っ白で、何もない空間に私は立っている。
目の前に一滴、概念では空と呼ばれるはずの方向から、血のように赤く、夜のように黒い水滴がぴちゃんと音を立て落ちてきた。
水滴はみるみる広がり、空間に歪な染みを作る。直径1mくらいまで広がってから、それは天を突くように上へと伸び始め、人間大の形となった。
人間もどきの黒い靄は私に問いかける。
「あなたは、幸せ?」
「……」
私はその問いに答えられない。
靄は再度問いかける。
「あなたは、シアワセ?」
「……私は、幸せだよ」
言葉を搾り出す。
「そうだね、あなたはシアワセ」
一拍置いて、靄が語り出す。
「ワタシは、不幸」
「あの子と結ばれなかったワタシは、不幸」
「あなたは、シアワセになって」
「その為に、この舞台を用意したんだからーーーー」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……悪魔狩り?」
「そーよ……! 最近悪魔の間で噂になってるの。善良不良問わず、悪魔ってだけでそいつに狙われる。襲われたら最悪、死んでしまうって」
姫乃と友達になってから早数日。二人で街に出かけては、悪魔談義を交わしたり、綾の可愛さを語らいあったりという仲になった。
今日も綾はバイトの為、こうして姫乃とファミレスでドリンクバー一本で粘っている。
今まで悪魔としての交流はお姉ちゃんしか居なかったから、姫乃から得られる情報は新鮮なものが多かった。
「悪魔狩りは前髪に十字架の髪留めを付けてて、それが聖なる力を放つらしいわ」
「ちなみにその噂、誰から聞いたの? 死んじゃったのなら、噂が広まるはずないじゃない」
「へ? ……言われてみれば確かに。まああくまで噂だから、アクマだけに」
「なによそれ……しょーもないなぁ」
「あはははっ! 平和なのは良いことじゃない!」
なんともデマみたいな噂だ。さながら、悪魔の中での都市伝説レベルのお話だろう。
「それより、綾さんへの返事はしたの?」
「……んーん。まだ」
綾から告白された事は、意外に勘の鋭かったこいつにすぐばれてしまっていた。
「早くしなさいよ。モタモタしてるとあたしが取っちゃうわよ?」
「姫乃ってさ……ホントに悪魔っぽくないよね。曲がりなりにもあなただって綾が好きなんでしょ? なのにそんな後押しするような……」
「あたしには秘策があるの! みーんな丸ごと手にする秘策がね。だから平気よ」
「ふーん……よく分かんないわ」
私の気持ちは、とうの昔に決まっている。綾のことが大切だからこそ、気持ちの伝え方に凄く悩むし、葛藤もする。
本当にその選択が私たちにとって正しいのかどうか、正直に言ってしまうと分からない。
でも、選んだからには責任を持って綾を支えていきたい、そう決めたから。
「まあでも……姫乃に取られたくないから、今日にでも綾に返事しよっかな」
「やっと覚悟を決めたのね。あたしのライバルにしては遅すぎよ! でもこれでようやくあたしの秘策も使えるわ……」
「最後の方声が小さくて聞こえなかった。なんて?」
「なんでもないわなんでも!!」




