-94:俺は、5-
最後まで油断のなら無い奴だと思った。
息子に呼び出されて油断しまくっていると思いきや、伏兵を抱えていやがったのだ。
本当にやっかいな奴。
だから、今ここで逃がしてしまえば、期を逸してしまえば、いつこうやってこいつにとどめが刺せるか分からない。今やらやらねば行けなかった。
どうせ最後だ。あの力で己がどうなっても良かった。
何故かこの時だけは、この力を持っていて良かったと思う。こんなことを思わせるなんて、つくづくこの男が嫌いだ。
命からがら逃げ延びた俺に手を伸ばしてくれた人間。
本当は信じてみたかったかもしれない。結局最後まで信じることはできなかったが。
ルーナもこんな気持ちだったのだろうかと、俺はふと思った。
俺に裏切られたとき心底悲しそうな表情だったっけか。馬鹿な奴だと思ったが、案外馬鹿にできないかもしれない。
全ての始まりは満月の綺麗な夜。
「……は? 何で俺がリスターの仕事をしなきゃ行けないんだよ。あそこは時雨の管轄だろ」
「いや、今回はお前に任せる。時雨だって別にやることがあるんだ」
突然言い渡されたのはリスターでの仕事。
道化師にはそれぞれ管轄があり、その中で主に仕事をするのがいつものことであった為に、俺は始めその仕事が嫌だった。
わざわざ田舎のリスターまで行かなければいけないという、面倒臭さもあったのは否定しない。
しかし、ここまで言われて断るわけにも行かず、しぶしぶ仕事を受けた。
大きな月が真っ黒な空に輝いていた。月明かりは辺りを照らし、たくさんの影を落としていたから、仕事がしづらいなと感じる。
「……さてと」
仮面を付けて、俺は影の中に身を落とした。
始末するのはリスターに住む、スタートルテ夫妻。
何故始末するのかは知っていた。この夫妻が殺される理由はただ一つ。王女に関して裏切りを働いたときだ。
どうやらその時は17年目にして訪れた。
正直溜め息しか出なかったが、適当に仕事を終わらせたいと思っていた。
「ま、まさか! 私たちは、ご、誤解だ!」
「あのね。あんたらのことは調べ済みなんだ。キューズ家と繋がっているんだろ? 諦めろよ」
〈神仕え〉の力を利用しようと考えるキューズ家。そこと繋がっているのは明白で、その慌てようからも十分にうかがえた。
「や、やめろ! 頼む。せめて、せめて、殺すなら俺だけにし──」
「くだらない」
命乞いするぐらいなら最初から裏切らなければいい。俺はそう考えていた。
夫妻を始末するのは簡単で、さっさと退散しようとした時だ。
「──だ、誰なのっ!?」
少女の声がした。
どうやらその少女がルーナ・K・クリスタス王女らしい。
怯えた声とその哀れな少女に俺は背を向けた。
その後に聞こえた悲痛な叫びに俺は無理矢理耳をふさいだ。
そんな少女がまさか、家を飛び出し、人攫いの連中に囲まれているとは誰が思うだろうか。
気が付いたときには体が勝手に動き、少女を助けに人攫いたちと対峙していた。
さらにはヒーロー顔負けで助けてしまったのだから、自分に驚く。
「私と旅をしてくれない?」
そして、この一言。
一瞬思考が停止した。
この王女はか弱いそこら辺の少女と同じような筈なのに、どんな図太い神経を持っているのかといろいろ疑う。
まあ、結局旅をすることになるが。
今思えば、ルーナに罪悪感を持っていたのかもしれない。
〈神仕え〉という力のせいで人生を歪められ、その力に振り回されてしまった自分と重なる部分が多かったのかもしれない。
だが、これだ、という答えは自分の中に見つけられない。
答えはきっとだせない。
霞む目と、薄れる意識。
さすがにもう、限界が近い。
誰かが俺の名前を呼んだ気がした。
ああ、全部終わった。
本日は2話連続公開となります。
次回で最終回を迎えます。
最後までよろしくお願いします。
2017/6 彼方わた雨




