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賑やかさの中に警戒している緊張感がたちこめる。アルセア・帝国戦争から35年。戦争終結から30年経った時にようやく結ばれた、和平条約。そしてこの日、和平条約締結5周年を祝し、記念式典が執り行われる。
―40:zeremonie
「そうですか、先生は来られないのですか」
ウロストセリア帝国第二皇子、リヒト・ウロスタリアは落胆する。和平条約締結の功労者であり、リヒトの師と呼べる人物が体調を崩したため、式典に出席できないと聞いた為であった。それを伝えに来た者が去った後に残念そうにため息を吐いた。
リヒトはいかにも皇子らしい格好に身を包んでいた。隣にいるミュレットも側役としてきちんとした格好をしている。
「レーラー先生にも届くよう、今日の式典をしっかり行わなければいけませんね」
「そうだなミュレット。どうにもならぬ事を嘆いていても仕方がない」
リヒトは息を吐くと、部屋に用意されているソファに腰かけた。リラックスするために深くソファに沈み込んだリヒトは、目を閉じる。
「……リヒト様」
リヒトはミュレットのいつもと違う緊張した声を聞いて、目を開ける。リヒトの目に入ってくるのは不安げな自分と同じウルトラマリンの瞳であった。
「今日の式典、私を影として出席されてもいいかと思うのですが」
「アルセア国内で心配しているのは分かるが、それはダメだ」
「では、もし何かあった時は、私をお使いください」
ミュレットはリヒトに向かって頭を下げる。リヒトは驚いた。いつものミュレットと様子が違うからである。リヒトはしばらくどうしたらいいか分からず、ミュレットを見ていた。しかし、全く顔を上げる様子が無いと、リヒトは心配になって顔を覗き込む。
「ミュレット、もういいぞ?」
「――」
ミュレットは顔を上げ、何か言おうとしたが、丁度その時、式典が始まるために、皇子を迎えに来た者が扉を叩いた。
ミュレットが何を言おうとしたのかリヒトは気になったが、式典開始を遅らせてはいけない為、仕方がなく、控室を出なければいけなかった。控室を出ると、リヒトはその事よりも、式典に出席する緊張が身体を支配していく。
歓声が聞こえてくる。
*****
リースは横ではしゃぐルーナを怪訝そうに見つめた。
2人は式典が開かれると言うパワグスタの広場に来ている。広場とはいうものの、ステージには屋根が設置されており、いつもの広いだけの空間とは違っていた。さらには、観客も既に沢山いて、溢れるほどであった。広場に続く道には出店も出でおり、さらに人々が立ち止まったり、話をしたりで賑わっている。
そんな会場だからこそ、リースは行きたくないと思っていたのだ。しかし、ルーナが行きたいとせがみ、リースは嫌々ルーナに付き添う形でこの場所に来ている。自分が狙われている事すっかり忘れているのではないかと、その事を持ち出して諭したのだが、ルーナは引かなかった。
「賑わいの中に身を潜めていた方が良いじゃない。そう言ったのはリースよ?」
ルーナはリースに自信満々に言ったのだ。自分が言った事を持ち出されてしまったからには何も言えないのだが、そういう事ではないのだという事をリースはどう伝えようか言いあぐねていた。そうしているうちにこの場所まで来てしまったのだから、もう仕方がないと、リースも諦めている。
晴天に恵まれ、さらに人々は増すだろうと考えると、リースは頭を抱えたくなる。
そんなリースにルーナのはしゃぐ声が聞こえてくる。1人であちこち行かせるわけにもいかずに、リースはルーナと共に出店を回るのであった。
「ステージからだいぶ遠いわね……」
両手にリンゴ飴や綿あめ、かき氷にチョコバナナなどなど、ルーナの手にはいっぱいに納められている。横目でリースはそれらを見て呆れる。
2人は出店を回っていた事もあり、ステージのだいぶ後ろで式典を見る事になったのだ。前には既に沢山の人が集まっていて、さすがにそれ以上進めそうになかったのだ。ステージは騎士がいるが、そこの位置からはギリギリ顔が認識できるくらいであった。
ルーナは不満そうであったが、それを見てリースは自業自得だと思う。
ルーナは集まっている人の中に、白い髪の毛を持った人間がちらほらいる事に気が付く。アルセアの人間とは違う雰囲気がその人たちから感じられた。
「ウロストセリアの第二皇子ってどんな人なのかしら」
「さあな。まあ、良く皇子なんてここに出してくる気になったな」
ウロストセリア人が目に入ったため、綿あめを食べながらルーナはリースに尋ねる。手に持っていたリンゴ飴はいつの間にか無くなってしまっていた。
リースの言った事が理解できなくてルーナは首を傾げる。
「いくら国境でもここはアルセア国内。アルセア人一般はウロストセリアに敵意は無いが、向こうはアルセア人を良く思っていない。そこに、国の皇子。……まあ、第二だけどな」
「そっか、戦争の発端はこちらだから……」
「あんまり深く考えても他国の、それも皇帝の事なんか分からないけどな」
そうは言ったリースであったが、険しい表情をしていた。ルーナはそんなリースの様子を知らなかった。ルーナはアルセアとウロストセリアの因縁を思いながらも、普段は見る事の出来ない、他国の皇子に期待を膨らませていた。
その期待に比例するかのように、人々の数も溢れていった。
「あ、ねえ、リース、あの人!?」
一層歓声が大きくなったかと思うと、ステージに人影が見える。ステージに現れたのは日に照らされた眩しい白い髪の毛を持つ人だった。白い髪の毛はウロストセリアの人間特有である。そして、遠くからでも、ルーナの目にはウルトラマリンの瞳がしっかり映っていた。




