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「ようこそいらっしゃいました、ダグライ情報屋へ」
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町の賑わいから少し外れたところにその店はあった。
2人を明るく出迎えたのは、まだ、幼さを残すような少年だった。水色の髪の毛で、前髪の左端を三つ編みにしており、それがまた、少し、可愛さを感じさせる原因なのかもしれない。大きく開かれた紫色の瞳が印象的だった。
店はさほど大きくなく、入って右側にイスとテーブルがある。部屋の壁際は本棚が並べられており、本がたくさん詰まっていた。左側の机の上には新聞記事や、書類が散らばっていた。記事を切り抜いたりもしているのか、はさみとのりも無造作に置いてある。
出迎えた少年は入って真正面におり、本を手に持ちながら振り向いてこちらを見ていた。
「え、店主、さん?」
ルーナは見た目から、大分幼いと判断し、戸惑いの表情を隠しきれなかった。その反応が不服だったのか、先ほどまで見せていた笑顔は消え、ルーナをじろりと睨んでいる。
「あんたの情報洗いざらい調べて、適当に売りさばいてやろうか」
手に持って開いていた本を音がするくらい勢いよく閉じた。そして、出迎えた時とは一変し、低い男の人の声の声にもルーナは肩を震わせる。あまりの変わりように動けないでいると、リースは何でも無かったかの様に店の奥へと進んで行った。
睨まれながら、ルーナもリースに続く。リースの後ろに隠れていても視線が突き抜けてくるようだった。
テーブルが1つに椅子が3つあり、2人は並んで椅子に座る。
「改めまして、情報屋のダグライ・ルクスヘルデ。17歳」
2人が座った向かい側にダグライが腰かけて笑顔で挨拶する。心なしか、年齢を言う際に声が大きくなった。
年齢を聞いたルーナは驚いて声を上げそうになるが、先ほど睨まれた事もあり、手で口元を押さえた。その様子を見て、笑いかけて来たダグライも手伝い、言葉は飲み込まれる。その笑顔も笑顔と言うほど優しいものではなかったが。
「それで、お兄さん方はどんな情報をお探しで」
ダグライがニヤリと笑いながらそう尋ねた。
「こいつに聞かれた事を答えてやってくれ。知っている範囲で構わない」
それだけ言うとリースは立ち上がった。まだ来たばかりだと言うのにその行動に驚いたルーナはリースを見上げる。
そんなルーナに気づいているのか、気づいていないのかリースは全くルーナの方を見なかった。
「俺はちょっと辺りを歩いて来る」
「はーい。了解しました」
ダグライは軽く返事をして、手を振り、出ていくリースを見送った。それとは真逆で、ルーナは呆然としてその姿を見送った。
リースが行ってしまった事に思考が追い付かないルーナは出て行った方をまだ眺めていた。
「何でも聞けるようにしてくれたんじゃないの?」
リースが出て言った方向を見つめるルーナにダグライは頬杖をつきながら言った。それで、ようやくルーナはダグライと向き合う。幼さが伺える顔ではあるが、纏っている雰囲気は落ち着きがあり、ルーナより大人に感じられる。
「何でも……」
「そうそう。分かりにくいね、あのお兄さん」
ダグライはそう言ってクスリと笑う。悪戯っぽく笑ったダグライにルーナはきょとんとしてしまう。そんなルーナを見てダグライはまた笑った。
ダグライが笑い終えると、真面目な顔になり、ルーナを見据える。それを見たルーナは背筋を伸ばした。
「俺に聞きたい事って?」
「リスターの、スタートルテ夫妻が道化師に殺された話を詳しく知りたくて」
「ああ、あれね」
ダグライは立ち上がって、机の上を探し、ルーナの座っているテーブルに資料を置いて行く。また、資料をテーブルに持ってくるついでに、ティーカップも一緒に運んできた。ルーナの前に置かれたティーカップには紅茶が注がれていて、湯気と共にいい香りが鼻に届く。
ある程度集まったのか、ダグライは再びルーナの前に座った。
「4人の道化師の出没範囲は知ってる?」
ルーナは頷く。ダグライはそれに少し驚いた様な顔をした。
「なら話が早い。リスターはアスラエルの南に位置する。アルセアの中では北に位置する。そして、北に現れるのは博識の道化師。だけど、スタートルテ夫妻に手を下したのは狂愛の道化師。狂愛は本来、国の東側に現れていた。この時点で結構訳ありな感じがするね、スタートルテ夫妻」
ダグライはテーブルにアルセア国が中心となった地図を広げ、リスターの位置を指さす。
「たまたま、ではないの……?」
「それはどうかな。今まで、セルトラリア以外で違う道化師が2人以上そういった事を行った例はない」
「だ、だいたい、疑問だったのだけど、どうして手を下した道化師を区別できるの?」
ダグライはテーブルに積まれた資料を1枚選び取り、ルーナの前に出す。そこにはスケッチと文字が書かれている。
「その絵、現場に残された物だよ。あと、それの説明。で、必ず残されるのは1枚のカード。そこにはハート、ダイヤ、クラブ、スペードのいずれかのマークが描かれている。ご丁寧にね」
ルーナは手に取ってみると、確かにスケッチの中にはカードの絵があった。
ダグライは手元にある資料をパラパラと見ながらまた話し始める。
「はい、それで、このスタートルテ夫妻が何をしたか。これについては俺もあんまり知らないんだけどね。スタートルテ夫妻は20年近く前までは聖都であるクリスタスに暮らしていた。一応、現王とお知り合いだったみたいだよ。それが、なぜかリスターに移り住んで暮らしていた。養子と一緒に、ね」
そこでダグライはルーナを見つめる。ルーナは養子の話が出てきたときに反応してしまい、一瞬ダグライと目が合ったが、すぐに逸らした。そして、不自然な動きでティーカップに口を付ける。
「やっぱり、夫妻の養子だね。動揺、もう少しうまく隠せないの?」
ルーナはダグライをちらりと見る。ダグライは呆れたように紅茶を飲んでいた。ダグライはもしかしてと思い、鎌をかけてみたのだ。
「スタートルテ夫妻が一体何をして、そうなったかは分からない。俺が知るのはこれくらいだよ。月並みな事しか言えなくて悪いね」
「あ、いいえ……。あ、あと、私自身、何か狙われるような事ってありますか?」
ルーナの頭の中にはパワグスタに来る前の一件があった。明らかに自分を習ってきていると思われる騎士たち。ルーナにはさっぱり心当たりがないのだから、別の視点で何かあれば知っておく必要があると考えたのだ。
ダグライは少し視線を落とし、考えた。
「……さあ、ノーマークだったからね。調べておいてあげるよ」
「はい……」
あまり収穫を得る事が出来なかったのが原因で残念そうに俯いたルーナを見てダグライはにこりと笑う。
「で、この際だから何か聞くことない?」
ルーナは顔を上げ、首を傾げる。
「ずっと気になっていた事とか、この町に来て思った事とか……。あ、あのお兄さんがいないからこそ聞けるような事でもいいんじゃない?」
ルーナはダグライに言われて考えを巡らせる。
そこで、先ほど、リースの事を意味あり気に見ていた、騎士の事を思い出した。ダグライなら何か知っているかもしれないという思いと、リースがいたら聞きにくいという事があり、聞いてみようという気持ちになった。
「……この町にいる騎士で、マゼンタの瞳とダークバイオレットの髪の毛を持つ人って知っていますか?」
「ああ、その騎士ね」
ダグライは広げていた資料をまとめながら話す。
「この町の騎士ではないけど、今、式典の為に来ているこの国の騎士団長だよ。アルセア国第107代騎士団長、アズウェル・T・スラクス上一位騎士。27歳の若さで国の騎士団を束ねる人だよ。この騎士団長さんもなかなか大変な人でね。2度も親を失ったんだ」
資料をダグライが束ね終える。端に資料を積み上げて、ダグライは紅茶を飲む。
「続き、聞く?」
カップに口を付けながら、ダグライはルーナを伺う。
「お願いします」




