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Mad Clown  作者: 彼方わた雨
chapter 3 ~善│悪~
28/95

-28:頁12-

 爽やかなはずの朝が、最悪に感じられた、ルーナは窓際でぼうっとしていた。


(あんなにいい人だったのに)



―28:(ページ)12



 ルーナは門前で目を見張った。


「どういう事……!?」


 セルトラリアをそろそろ離れなければいけないとリースと話していた事もあり、中央図書館セントラルライブラリーでお世話になったレイに挨拶に行ったのだが、図書館の門は閉じられてしまっていた。

周りも騒々しく、騎士団の姿も見える。そこで、ある司書がこの街に蔓延している薬物の流通を手伝っていた事が分かったのだった。ルーナをひどく混乱させたのはその司書が、レイだったということであった。

 一旦、ルーナとリースはファグランディの家に戻った。そこで、2人はファグランディが聞いた話を聞かされたのだった。

 セルトラリアで発生していた、多くの異常者。これらは、全て違法な薬物によるもので、以前はそれほどまでではなかった。しかし、1年前を境に、取引の現場が分からなくなり、捜査が行き届かなくなってしまっていた。それにより、異常者の数が増えてしまった。


 だが、事件は思わぬ収束を迎える。


 昨晩、中央図書館司書である若者が道化師に殺されて亡くなった。その司書の自宅から発見されたものはセルトラリアに蔓延していた薬物であった。そして、彼の家が調べられ、彼が図書館司書と言う事を利用して、薬物の取引に関わっていた事が判明した。


「騎士団が取引の連中を追っているらしいが、そいつら、生きているのかどうか……」


 ファグランディは暗い顔でそう言った。彼が思っている事に、ルーナは何となく心当たりがあった。道化師の事だ、その1人だけでは終わらないだろう。司書を殺した後に、薬物の取引の大元も始末されている可能性が大きい。


「ユースリアさんは……?」

「誰だい、それは?」

「その、図書館司書の彼女だ」


 あくび混じりの声でリースが言った事に、ファグランディは腑に落ちない表情で言った。


「昨晩、家にいたのは彼1人と聞いているよ」


 ルーナは晴れない気持ちのまま、借りている部屋へと戻った。


「リースは……?」

「俺は寝る」

「そう……」


 そのまま、ルーナは部屋に入ろうとしたが、リースが視線を向けている事が気になった。


「何……?」

「今回は一体どの道化師だろうな」

「セルトラリアはこの国の中心だから、どの道化師でもおかしくないと思う」

「ふーん」


 リースは自分から聞いておきながら、心底どうでもいいように答えた。何とも言えない事実を聞いてしまった後にそんな態度を取られたものだから、ルーナはプイと顔を背けて、ファグランディから借りている部屋のドアノブに手をかけた。

 思っている以上にショックを受けているのか、ルーナにとって、その扉はいつもより何倍も重く感じられた。


 ルーナは、部屋に入って特にやる事も、思いつかず、窓辺に座って、ただぼんやりと外を見ている事しか出来なかった。アエルの事を思い出したが、彼の時とはまた違う。彼自身が手を汚していたのだ。すでに、戻ってこられぬところまで言っていたのだろうと、ルーナは思う。だからこそ、道化師に狙われた。

 ルーナには納得できなこともあった。それは、ユースリアの存在だ。彼女がいてもなお、そんな事をしてしまう理由が思いつかない。彼女が一番悲しむことではないか。だが、ルーナは思う。彼女がいたからこそではないかと。

 彼女の為に手を汚してまで、救おうとした。


(立派と言うべき行動だけれど、立派な内容ではないよね……)


 どんどん悪い方向に考えていきそうで怖くなり、ルーナはリビングに戻る事にした。

 リビングにはファグランディがいて、ルーナに気が付くと、優しく微笑みかけた。リビングには甘い香りが漂っていて、ルーナの鼻をくすぐる。ルーナはその香りにつられてファグランディの横まで来て、手元を覗く。


「スコーンを焼いたからね。ジャムを作っていたんだ。リンゴは好きかな?」

「はい、好きです。ファグランディさんはお菓子もすごいんですね」


 ルーナの暗かった気持ちが少しだけ晴れた気がした。それを感じ取ったのかファグランディは目を細めてルーナを見つめた。


「……帰った」

「あ、おっかえりー。ちゃんと買えた?」

「ガキじゃないんだ。買える。……あー、桃はなかった」


 先ほど寝ると言っていたはずのリースが玄関の方から顔を出したので、ルーナもリビングからひょっこりと顔を覗かせた。

 リースは不機嫌そうに、買った物が入っているバッグをファグランディに預けた。


「なんだ、ちゃんと探したの?」

「……探した。寝てるとこ起こしといて文句か」

「ごめん、ありがとう。さすが、我が息子!」


 ファグランディが両手を上げて抱擁をしようとするのだが、リースはさっと躱してしまった。その所為で、ファグランディはバランスを崩して前のめりに倒れ込んでしまった。ルーナは慌てて駆け寄る。その時、ルーナとリースの目が合う。ルーナはリースを睨みつけていたが、リースは目を丸くしていた。しかし、それは一瞬の事で、リースはルーナの横をするりと抜けて、奥へと行ってしまった。


「大丈夫ですか?」

「あははは。うーん、長めの反抗期だと思う事にするよ。さ、続き作んなくてはね」


 ファグランディはバッグを持ち直し、服に着いた汚れを払って、痛めたのか、顔面をさすりながらリビングへ戻って行った。

 ルーナはその後姿を見つめた。


(この時期に桃を頼むなんて、ファグランディさんも意地悪だなあ)




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