-16:中心都市-
「飴、美味しかったわ」
「良かったな」
リースとルーナが出発する日。2人は変わりなく宿屋を後にした。
一方、アスラエルの町はいつもより静かな気がする、とルーナは感じた。町には、アエルが案内してくれた日のようにたくさんの人がいて、たくさんのものが飛び交っていた。
「ルーナ、お前、水調達して来い。俺はちょっと食料集める」
「……はーい。1時間後にまた、ここ?」
「ああ。気をつけろよ」
ルーナは水を汲みに町に設置してある、水汲み場のところまで向かっていった。リースはその後姿を見送ってから、食料を買うために市場をうろうろしていた。
「おや、お兄さん」
呼び止められたような気がして声のした方に目を向けると、そこにいたのはイアルダ鉱石の装飾品を扱っている店主がいた。先日、アエルと共に訪れたイアルダ鉱石の店だった。
「今日は1人か?」
「手分けして食料調達だ」
リースがそう言うと、店主は表情を暗くした。
「男の子はいいけれど、女の子を1人にするんじゃないよ。昨晩だって、また、フェザリードルの人間が死んだって言うのに……。気をつけなよ、お兄さん。世の中物騒だ」
「フェザリードルの? 誰だ」
「エイクドの息子さ。自害だって言う話だよ」
リースはそれから、店主に別れを告げ、また、市場を見て回った。
頭の中では、あの店主の話がずっと離れなかった。
「……リース?」
1時間後にまた、集合し、アスラエルを出た2人だった。しかし、浮かない顔をしているリースがルーナは心配だった。話しかけても、微妙な返事しかしないので、最初は嫌に思っていたが、だんだんとルーナも心配になってきたのだ。
「……何でもない」
ルーナはそう言うリースの事が信じられずに、疑いの眼差しを向けた。
「変な顔だな。……言ったろ、無駄だ」
そして、ニヤリと笑ったので、ルーナはもう心配なんてしてやらないと心の中で思ったのだった。
(……無駄、いや、無理だな)
2人は次なる場所へ、歩いて行った。
―16:中心都市
「……これが、セルトラリア」
アルセア国の中心に位置するのが、セルトラリア。
聖都であるクリスタスよりも大きな土地である。アルセアのど真ん中にあるために、人、物が多く集まる。そのため、アルセア一の大都市である。クリスタスは聖都とはいえ、その多くが政府関係者であるために、発展しているが、賑やかではない。
セルトラリアは賑やかであり、発展した都市である。
アスラエルとは違う、賑やかさと活気ある雰囲気にルーナは圧倒される。同時に、彼女をわくわくとさせた。知らない土地が目の前に広がっている。何かを得られるかもしれないという期待感が増した。
家がたくさんあり、洗濯物が家と家の間に干されていたり、子供たちが元気に走り回っていたりした。店もいくつかあり、アスラエルと違い、地面に布を広げたような簡易的な店はほとんどなかった。水路も整備されているようで、道のわきには水が水路を流れていた。家が多い所には水汲み場の様なものもあった。
「セルトラリアの中心に、アルセア国の中央図書館がある」
「……図書館」
「ああ。蔵書数は国一、過去の新聞も保管されている。探せば、道化師の事件記事があるかもしれない。必要が無いなら、セルトラリアを後にしてもいいが」
ルーナは道化師、と言う言葉に反応した。道化師の情報が得られるのなら、セルトラリアを離れるわけにはいかない。そんな事、ルーナにとって考える時間はいらない。
「行く。案内して!」
リースを真っ直ぐ見つめた瞳と、胸元にあるペンダントがきらりと光った。
セルトラリアはなかなか広く、北のアスラエルから来た2人にとって、かなり歩いていることになる。セルトラリアの中心に行くのにも一苦労である。
しかし、ルーナは念願の道化師の情報がいくつか得られるとあって、張り切っていた。そのためかあまり疲れを感じているようではなかった。
「……お前はどうしてそこまでする」
前をどんどん歩いて行くルーナにリースは尋ねた。
両親が殺され、それは話に聞くあの道化師の仕業。何もしていない両親が殺されたのは確かに納得できないだろうが、わざわざ危険を冒してまでなぜ、そいつらを追うのかが、リースには理解できなかった。
不意に立ち止まったルーナに、リースは並んだ。
「何故って、悔しいからよ。それに許せない」
ルーナは唇をかみしめていた。
「何より……両親が悪い事をしていないって、信じたいの」
「今のお前は、信じていないのか?」
リースが訪ねると、ルーナは泣きそうな目で彼を睨んだ。
「信じているわ! 父は一生懸命働いていて家族を守っていたし、母は私を温かく包み込んでくれていた。そんな人たちが、悪い事しているわけない……!」
そして、彼女は視線を前に向けると、リースを置いてまた歩いて行った。
リースはその後姿をしばらく眺めて、追いかけた。
「そんなガツガツ進んでいると倒れるぞ」
リースが追い付き、ルーナのすぐ後ろまで来た。
「……うるさい」
「今日休む宿も検討つけてお――」
「ほー、では家はどうかな?」
2人は今までいなかった声に驚いた。
「遠慮する事はない。な、我が息子?」