それぞれの休息
護の休息
「お兄しゃん、起きないんでしゅか?」
「ん〜」
ふっくんに声を掛けられるがまだ寝ぼけた状態で枕から頭を離そうとしない。朝はめっきり弱い護。時刻は八時。こんな早朝から起きれるわけが無い。
「ふっくん悪いけど、俺まだ寝てる」
「そうでしゅか。それじゃあ僕は散歩に行ってくるでしゅ」
「迷子にならないようにね」
ふっくんは部屋を出て行った。護はその後も惰眠を貪りすやすや。ようやく起きたのはお昼を回ってからだった。
「ふぁ〜っと!良く寝たけど寝すぎで頭が痛いなぁ・・・。お腹は空いて無いし、街でも行ってこようかな?いや、確かラゼルにも稽古場が有ったよな。稽古してこよっと!」
着替えて部屋を出ると、左に向かい階段を下りる。そのまま真っ直ぐに通路を歩くと吹き抜けの渡り廊下に出てさらに突き当りまで歩く。それからまた左に折れると稽古場と書かれた部屋の前に出た。
「すみませ〜ん!」
「誰だ」
がたいの良いおじさんが怖そうな顔つきでやってくる。この人がこのラゼルの近衛隊長を務めるリューガだ。
「ああ、護君か」
護を見て怖い顔つきが少し穏やかになった。護はラゼルの復興式に来てから一応主要な人物と面識を持っていてリューガとも一度会っていた。
「稽古付けさせて貰いに来ました。良いですか?」
「良いぞ。ちょうど劉殿も稽古にいらしていたので一緒にやるといい」
「よ、護」
「劉さんも来てたんですか。じゃあ、ちょっとお相手願います」
ちょっと頭を下げて中に入っていくと早速劉に向かって極普通のロングソードを抜いた。そこに劉が待ったをかける。
「ちょい待ち護。俺一人じゃ役不足だから、リューガ殿と二人がかりでも良いか?」
「構いませんよ」
「そう言う訳でリューガ殿、二人がかりで護をけちょんけちょんにしましょう」
「良いのか、劉殿?貴殿も相当な腕前。子供相手に大人二人がかりとは・・・」
「こいつの場合、見た目に騙されると痛い目合いますから問題ありません」
「ほぅ、ではお手並み拝見といこうか」
リューガは大剣のクレイモアを抜き、劉はヤーウェ対策に新たに学びだした槍術でホーリーランスを持つと互いに護に対して身構えた。しばしにらみ合う三人。
・・・・・・ガキーンッ!!!
それぞれがピクッ!と動き出した瞬間に物凄い速さで剣がぶつかり合う。そうして稽古が始まった。
霞の休息(?)
「霞姫〜!次は、テンプテーションの魔法なんてどうです?いや、聞くまでもありませんが私自身が既に貴方を魅了しているのは分かっていますよ。ふっ!存在だけで常に女性を魅了してしまうなんて罪な男ですね、私も」
早朝の会議の方も一段落しメイドや兵達に指示をしながら歩いていた霞の後ろからいきなり声を掛け、あいも変わらず変なポーズをひたすら取り自分に酔いしれるヤスカ。その後ろには例によって従者がバラの花束を抱えている。
「あの、魔法の事はもう結構ですから」
「おや、私と話するだけで満足なされるのですか?貴方はなんて謙虚な人だ!さすが私の婚約者なだけありますね」
「いえ、そんな私婚約者になるといった覚えはありませんが・・・」
戸惑う霞を気にもせず、既に決まっているかの如くヤスカは話を続ける。
「そういえば、式は何時挙げますか?場所は私の国の大聖堂のイリスにしましょう。あそこはまさに美しい私達にふさわしい場所だ。しかし霊験で雄大なイリスも私の美しさの前にはその優雅さは薄れてしまう。ああ、私はなんて罪なんでしょう。やはり私達の式にふさわしい場所を新たに建てなければならないかもしれませんね。父に相談してみましょう」
「ですから、話を勝手に進めないでいただけませんか?私困ります」
「どんな建物が良いですかねぇ〜」
ヤスカは霞の話を聞こうともせず膨らむ妄想の世界へと旅立っていった。霞はもう付き合っていられないという感じで余所見をしているヤスカの頃合を見計らってその場を逃げ出す。
「あれ、霞殿?」
気がつけばヤスカは一人廊下に残されていた。逃げた霞はというと・・・
「護とゆっくり話がしたいんだけどな。今部屋に行ってもどうせ寝てるだろうし。本当にもう!せっかく復興式も終わってゆっくり出来る時間が持てたって言うのに相手してくれないし!大体護が留まってくれたのは嬉しいけどヤスカ殿までなんで居るのよ。はぁ〜、良いわ!憂さ晴らしもかねて護を無理やり起こしに行こう!」
そして霞は護の部屋に向かうが途中、またとある人物に捕まった。
「はぁ〜、そういえばこの子も来てたんだった。普段は良いけど、なんか久しぶりに会ったせいか気持ちがちょっとオーバーヒート気味じゃない?なんでそんなに慕ってくれるのかな?あ〜あ、今は護と話がしたいんだけど」
複雑な気持ちのまま霞は相手をし始めた。
楓の休息
朝ばっちりと目が覚めて、元気に一人おはよう!とか声をあげると楓は急いで着替えて部屋を出ようとした。ドアノブに手をかけそこでようやく気づく。
「そうだった。ここストロベリーの私の部屋じゃなくてラゼル城の一室だったんだ。あっはは〜!いつもの癖で仕事に行こうとしちゃったや!」
恥ずかしそうに頭を掻くと、もう一度ベッドに向かい腰掛ける。
「あ〜あ、本当なら霞お姉さまと一緒に寝るはずだったのにぃ。そして私が寝てる霞お姉さまを優しく起こすの。そしたらお姉さまが眠そうな顔をしながらも、あの綺麗な笑顔を向けて私におはようって優雅に語りかけて、そして・・・」
・・・只今妄想爆進中により少々お待ちください・・・
「キャー!キャー!どうしましょう!私困っちゃうぅ!」
なにやら一人部屋ではしゃいでいる楓。あのちょっと行動が怪しくなってきてませんか楓ちゃん?
「そうよ!そういえば今私はラゼルに居るのよ!つまりお姉さまと話したい放題じゃない!!!お姉さまも忙しいかもしれないけど、頃合を見て話しよう!いや、それよりもお仕事お手伝いして、そして楓ありがとうって褒められて・・・」
・・・再び妄想モード突入につきしばらくお待ちください・・・
「良し!お姉さまのお手伝いをしに行く事にけってー!!!頑張って役に立つもん!!!」
楓は勇んで部屋を出て行った。広い城中を走り回り会う人会う人に霞の居所を聞いて回りつつ霞を探した。するとある廊下で早歩きにどこかへ向かおうとする霞の姿をとうとう発見する。
「おねーさまー!みーつけた!」
猛烈ダッシュをかけて霞の元に近寄る。
「楓?どうした?そんなに急いで」
「はい!不肖楓、お姉さまのお役に立ちたくてやってまいりましたぁ!!!」
「役に立ちたいって言っても・・・」
「何でも良いんです!なにかお姉さまのお仕事のお手伝いをさせてください!」
「いや、今はもう仕事は終わったからこれといってやってもらいたいことは無いんだ」
「じゃあ、時間はあるということですね!」
「え、ああ、そういうことになるけど」
「じゃあ、お話しましょ!」
「昨日話したじゃない?」
「もっとお姉さまの話が聞きたいんです!」
「・・・分かった。何を話そう」
楓はわくわくしながら霞の話を待ち、しばらくして霞は自分の国の事を話し始める。楓、至福の時。
ふっくんの休息
「護お兄しゃんはお寝坊しゃんでしゅねぇ〜。駄目でしゅねぇ〜。朝はちゃんと起きないと体内リズムが狂って健康に良くないんでしゅよ」
ふっくんは護の部屋を出るとぶつぶつ言いながら、城を当ても無く文字通り散歩していた。城で働くメイドを見たり扉の前で凛とした姿勢で立っている兵士を見てみたりと城の中を探検する。
「みなしゃん大変そうでしゅね」
ふと、廊下の踊り場にあるテラスの前に来たとき、そこから小さなふっくんでも街並みが見えた。そこでしばし立ち止まり考えると街に出る事にした。想いはあの焼き鳥屋である。
「また食べたいでしゅ」
トテトテと小さい歩幅ながらも小走りに城を出ると、一目散に焼き鳥屋へと向かった。
「ふぅ〜、やっぱり良い匂いでしゅねぇ。食べたいでしゅねぇ」
尻尾が自然と揺れる。焼き鳥屋の前でじっと見ていたふっくんの視線にどうやらそこの屋台のおっちゃんが気づいたようで声を掛けてきた。
「お!昨日来てたしゃべるわんこじゃないか。どうした?昨日のがきんちょは一緒じゃないのか?」
「一緒じゃないでしゅ。お兄しゃんはまだ寝てましゅ」
「そいつぅあいけねぇな。若いって言うのに朝もぐーたら寝てるのは不健康だな!若いうちっつうのは元気に朝から遊ばねぇとよ!」
テキ屋のおっちゃんらしく元気の良い感じで笑い飛ばしふっくんもうんうんと頷く。
「同感でしゅね」
「ま、寝る子は育つとも言うし良い夢みてもらおうじゃねぇか。で、今日はわんこは一人っつうわけだ」
「はいでしゅ。それよりおじしゃん、それ食べたら駄目でしゅか?」
「ん?これはなぁ、一応商売品だからよ。無料ではやれないんだわ。わんこ金持ってるか?」
「無いでしゅね」
「それじゃ、悪いがやれねぇな。無料でやれるほど儲かってないしよ」
「うー、残念でしゅ」
尻尾を下げて心から残念そうな表情をするふっくんを見ておっちゃんはちょっと考えた事があるようだ。屋台の裏でなにやらごそごそと作業をすると出来上がったものをふっくんの首にかけた。首から下げられた物はなにやら紙で、そこに殴り書きで焼き鳥一本六十ケラー、五本で二百五十ケラー!と書かれてある。
「何でしゅかこれ?」
「いや、それで客引きしてくれよ。それで客が来たら報酬として焼き鳥やるからよ」
「お客しゃん連れてきたらくれるんでしゅか!」
目を輝かせて聞くふっくんにおっちゃんは、おう!と元気良く返してきた。それを聞いてふっくんは俄然やる気が出てきたらしく、早速客引きに近場を走っていって道を歩いている人に声を掛けていった。最初は案の定犬がしゃべってるという事で不信がられたが、直ぐにふっくんの礼儀正しさと容姿の可愛らしさに負けたらしくなじんでいく。気がついたらふっくんの周りは人だかりが出来ていた。
「へー、犬がしゃべってるんだ。しかもこんなちっさい子犬なのにお利口さんだな」
「可愛い〜!」
「何々、仕事のお手伝いしてるのか?」
「はいでしゅ!皆しゃん買って下しゃい!」
「ん〜、良し!俺買おうかな。朝食べて無いし」
「あ、私も食べよう!」
「僕も食べたいな。ママ買ってよ〜!」
「しょうがないわね」
こんな感じで続々と屋台に客がやってきて何時の間にか行列が出来ている。おっちゃんは嬉しそうに焼き鳥を焼いた。もちろん焼き鳥は種類が有りつくねだったりネギマだったりと扱っている品が次々と売れていく。
「おじしゃん、こんな感じで良いでしゅか?」
「おうよ!こんなに客が来たのは店だして始めてだぜ!あ、はい!ちょっと待ってよ〜」
おっちゃんは忙しそうに客の相手をしている。ふっくんは焼き鳥が売れていくのを満足気に見ていたがその内不安になってきた。
「あ、あのおじしゃん。売れすぎて僕の食べる分が無くなるなんてことないでしゅよね?」
「あ、ああそうだったそうだった。このままいったらそうなる所だったぜ。あ、いや大丈夫か?軟骨の方が人気有るからな」
おっちゃんは焼き鳥の数を数える。
「わんこの好きなのって腿肉だよな。あー、腿はだいぶ量あるから問題ねぇぞ。今一緒に焼いてやるから待っててくれ」
「はいでしゅ!」
しばらく待つこと、周りに充満したあまりの良い匂いによだれが出そうになるのを必死にこらえたふっくんの前に山盛りに積まれた腿肉が焼き上がって出された。
「こんなに食べて良いんでしゅか!?」
「おう!好きなだけ喰え!それだけやっても十分すぎる程に黒字だからよ!」
「ありがとうございますでしゅ!」
そしてふっくんは美味しそうに焼き鳥を頬ばったのだった。
それぞれが想いを胸に好き勝手に過ごした一日。一人はちょっと微妙だったようだが苦難の旅に出るまでの間、明日もこんな感じだと良いなと願わずにはいられない日であった。




