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焼き鳥的出会い

 その後は然したる問題もなくいたって平穏に旅は進み、ようやくラゼルに到着。


「うわ〜!活気のある街だねふっくん!!!」


「すごい人の数でしゅね」


 街はお祭り騒ぎのように人で溢れかえり活気付いていた。とてもつい最近までのっとられていた国だとは思えないほどである。


「ふっくん。人が多いから迷子にならないようにね」


 楓はふっくんに話しかけふっくんの方を見た。しかしそこにふっくんはいない。


「あれ、ふっくん?」


 楓は辺りを見渡す。しかし溢れんばかりの人込みによって小さなふっくんの姿は見つけられない。


「ふっくーん!何処行ったのー!」


 楓は声を出しながら周りを探す。しかし一向に見つかる気配はない。


「どうしよう・・・。来ていきなり迷子だなんて・・・。まぁ、もし迷子になったら城の正面で待ち合わせってことにしてあるから大丈夫だよね。ふっくんしっかりしてるし。私の方こそ迷子にならないようにしないと。とにかく城に向かおう」


 楓はふっくんを信じ城に向かった。一方のふっくんはと言うと・・・・・・。


「良い匂いでしゅ!」


 焼き鳥の屋台の目の前でくんくんと鼻を鳴らしていた。


「楓しゃん。僕これ食べてみたいでしゅ!」


 ふっくんは屋台から目を離さずに楓に声をかけた。しかし返事は返ってこない。あれ?と思いふっくんは楓がいるであろう場所を振り返ってみた。そこには人込みしかなく楓の姿はない。


「楓しゃん?」


 ふっくんは辺りをきょろきょろ見渡すが楓の姿が見つからない。


「困ったでしゅね。いきなり迷子になっちゃったでしゅ。確かこういうときは城の入り口で待ち合わせとか言ってたでしゅね。でも、城ってどこでしゅか?・・・・・・うーんそれよりこれが気になるしゅ」


 もう一度屋台の方を向き直り焼き鳥の匂いに思わず尻尾が揺れる。


「食べたいでしゅね〜。でもこれってタダで貰える物なのでしゅかね?」


 屋台の壁に手をつきなんとかその焼き鳥を見ようと踏ん張るが、いかんせん身長が足りずよく見えない。


「すみません。焼き鳥三本ください」


「あいよっ!」


 その時ある少年が焼き鳥を買って屋台のおっちゃんから受け取ると少年は美味しそうに焼き鳥をほおばっている。ふっくんは良いなぁという感じにじっとその少年を見つめた。少年はどうやらその視線に気が付いたようだ。


「ん?可愛い犬っころだな。なんだ?これ欲しいのか?」


「くれるんでしゅか!?」


「うお!犬がしゃべった!なんだお前しゃべれるのか?」


「はいでしゅ」


「すげぇすげぇ!俺一度動物と話してみたかったんだよね。お前、名前なんていうんだ?」


「ふっくんでしゅ。それよりもお兄しゃん。それくれるんでしゅか?」


 ふっくんは、さっきから物欲しそうに焼き鳥を見つめたままだ。


「おお!いくらでも上げるよ!ちょっと待っててな。・・・ほら」


 少年は串から肉を取ると手のひらに乗せてふっくんに差し出した。ふっくんの尻尾は限界速度まで振られている。ふっくんは、嬉しそうに焼き鳥を食べた。


「どうだ?旨いか?」


「美味しいでしゅ!」


「それならまだ食え食え!おっちゃん!もう五本程追加!」


「あいよっ!」


少年は屋台のおっちゃんから焼き鳥をさらに買い、さっきの買った分と今貰ったうちの二本をふっくんに上げた。ふっくんは喜んで食べ少年も自分の焼き鳥を食べる。


「どうだ、満足したか?」


「美味しかったでしゅ!ありがとうございましたでしゅ。何かお返ししないとでしゅね」


「おお!お礼もちゃんと言えるんだな。えらいな、おまえ。義理人情ってのをよく分かってるじゃないか」


「受けた恩は忘れずでしゅ。お兄しゃん良い人でしゅね。食べ物をくれる人は良い人でしゅよ」


「うんうん、そうだな。良いこと言ったぞ。ま、今回は別にお礼はいいし俺は良い人でもないけど。その心は大切にしないとな。ところでふっくんとやら、こんなところで一人でどうした?お母さんは?」


「お母さんいないでしゅ。というかよくわからないでしゅ?」


「?」


「僕自分の記憶が無いんでしゅ」


「そうだったのかー。悪いこと聞いちゃったな」


 少年はすまなさそうな顔をしてふっくんに謝った。


「良いでしゅよ。世の中何とかなるものでしゅ。何とかするためにこの国に来たのもあるでしゅしね」


「ん?ふっくんの記憶が取り戻せるのとこの国と何か関係あるのか?」


「僕が何をしゅれば良いのか分かるかもしれない人がこの国にいるらしいんでしゅ。僕はそのために楓しゃんとこの国に来たんでしゅ」


「楓?」


 少年はなにやら聞き覚えのある名前を聞いて、はてと思った。自分の知ってる楓といえばあの楓だが、楓にこんなふっくんみたいな子犬が友達にいただろうか?


「その楓って人は何処に行ったんだい?」


「それが、はぐれちゃったみたいなんでしゅね。一応迷子になったら城の入り口で待ち合わせってことになってるんでしゅけど、僕城が何処にあるかもわからないでしゅ」


「つまり迷子ってことだ」


「はいでしゅ」


「よし!じゃ、お兄さんが城まで連れて行ってあげる。ここからじゃ城まで遠いしな。小さいふっくんじゃちょっと時間かかるだろ」


「良いんでしゅか?」


「おうよ。それじゃ、俺の頭に乗れよ」


 少年はふっくんを抱きかかえると頭に乗せて城へと向かった。その間、よほど動物と話が出来ることが嬉しいらしく少年はふっくんにずっと話しかけていた。ふっくんもいつもと違う目線を楽しみながら少年と話をし、いつの間にか二人は親友になろうというところまで話は進展してしている。


「賢いな、ふっくんは」


「そうでしゅか?」


「ああ、俺の話についてこれる奴は人間でも少ないっていうのに。ふっくんは哲学者だねぇ」


「哲学は楽しいでしゅよ」


「それにふっくんは前向きなのが良いね。俺って結構後ろ向きなのよ」


「いつも前向き、時々後ろ向きが良いんでしゅよ」


「俺もそれ見習わないと。おっと、話に夢中になってて気がつかなかったけど城の入り口まで来たよ。その楓さんって人居る?」


「うーん。見たところ居ないみたいでしゅね」


「そっか。じゃあ、しばらくここで待つか」


「はいでしゅ。送ってくれてありがとうでしゅ」


「良いって事よ。俺らの仲じゃん」


 二人は入り口の横にある噴水の前のベンチに座ると楓を待つことにした。さて楓はというと・・・。

 実は一足先に城には着いていた。しかし、待っている間どうしても霞のことが気になりふっくんには悪いと思ったが勝手に霞に会いに城の中に入っていっていたのだ。


「すみません。霞王女様に会いたいんですけど」


「すみません。あいにくと霞様はご多忙中につき現在面会は禁止されています」


 受付で断られるも楓は必死に訴えた。


「そこを何とか!ストロベリーの楓が会いに来たと言えば分かりますから!」


「・・・少々お待ちください」


 楓の気迫に押されて受付のお姉さんは霞の下に向かった。


「霞様、お忙しいところすみませんが、霞様に面会の方がいらっしゃってますが」


「どなたかしら?」


「ストロベリーの楓と仰る方だそうです」


「あら、楓が会いに来たの?珍しいわね。だったら直ぐに行くわ。それじゃヤスカ殿、そういうわけなので話はまた今度」


「あ、お待ちください霞姫」


 霞はヤスカの制止を振り切り逃げるかの如くその場を去っていった。実は復興式のあの日からヤスカはずっと楓に付きまとい、四六時中話をしようとしたり魔法を無理矢理教えようとするものだから霞はいい加減嫌になってきていたのだった。


「あ、霞お姉さま!」


「久しぶり、楓。グッドタイミングで来てくれた。助かった」


「私、お姉さまに会いたくてはせ参じて来ました!」


「そう、私もゆっくりと話をしたい」


「そう言って貰えるだけで私来た甲斐がありましたー!」


 楓は嬉しそうに飛び跳ねている。そうして楓はふっくんの事をついつい忘れ話に夢中になってしまったのだった。


「楓さん。遅いね」


「遅いでしゅね。まさか楓しゃんも城の場所が分からなくて迷子になってるんでしゅかね?」


「ありえなくもないね。この国広いから。でも碁盤の目の様な構造になってるから矢印さえ見てれば迷うことはないと思うけど。もしかしたら人込みに埋もれて動けないのかもね」


「うーん。まあ、辛抱強く待つでしゅよ。僕はお兄しゃんと出会えたから楽しいでしゅし」


「俺も楽しいよ」

 

 少年はにっこり微笑みながらまたふっくんと会話を始めた。 


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