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護の夢

 護が四才、アリス七才当時。


「ねぇねぇ護」


「な〜に?アリス?」


「護って世界で一番強くなりたいんだよね?」


「うん!絶対強くなってハヤブサを倒せるくらいになるんだぁ!」


「だったら私良い事教えてあげる。国の近くのあの海のほとりの何処かに食べると誰よりも強くなれるキノコがあるんだ。珍しい黄色と黒の縞模様したキノコだから、探してみたらいいよ」


「本当!?それ食べたらハヤブサ倒せれるようになる?」


「うん!絶対なれる」


「じゃあ、早速探してくる!アリスありがとうっ!」


 護はアリスの言葉を信じきって広大に広がる湖(当初は海だとお互い信じていた)を何日にもわたり城にも帰らず必死に探してやっとの事でキノコを見つけた。


「あったー!よし!早速食べよう!」


 護はキノコをパクっと食べた。数十秒後、突然死ぬほど苦しくなって全身が痺れて動かなくなる。そのまま倒れあまりの苦痛と嘔吐にもがきたがったが身体は指一本動かない。実はアリスの言っていたこのキノコ、オフェリアでは子供でも知らぬものはいない猛毒をもつポチョムというキノコだ。過去にこれを誤って食べて死者が続出した。無論このことはアリスは知っていた。護はその後一週間、ほとりで倒れ死にはしなかったが地獄のような苦しみを味わった。そして、護六才、アリス九才。


「護・・・どうしよう・・・」


「どうしたのアリス。そんな辛そうな顔して?」


「私、死んじゃうんだって」


「ええ!?」


「お医者様の話で私、すごい治すのが難しい病気にかかったの。このままいけば後数週間の命なんだ・・・」


「そ、そうなの!治せないの!?」


「うん。お医者様が言うにはね、アッロケンの鱗があれば治せるんだけどまず手に入らないんだって」


「アッロケンってあの有名な凶悪モンスターの?」


「そう。アッロケンに立ち向かえる程の勇敢な人なんていないから、だから無理なの」


「だったら、俺が取って来るぅ!アリスを死なせたくないもん!」


 護は直ぐにアッロケン生息地へと走って行く。その後姿を見てアリスはニヤリと笑う。護は死ぬ思いをしてぼろぼろになりつつもなんとか一枚鱗を取ってきてアリスに渡した。


「は、はい。取ってきた。これで助かるよね!?」


「わぁ!ありがとう、護!早速お医者様の所に持って行って薬作ってもらうね」


「うん」


 そしてその日のオフェリアの一大オークション会場でアッロケンの鱗が出品されその日の最高値で落札された。もちろん出品したのはアリスである。続いて護十一才、アリス十四才。


「護って好きな子いるの?」


「え、あ、ああ」


「へー、その子とは良い感じ?初恋?」


「うん、初恋かな?。仲は凄く良いよ」


「だったら告白とかしないの?」


「したいけど、断られたら嫌だし・・・」


「じゃあ、私が絶対うまくいく方法教えてあげる」


 アリスはごにょごにょと護に耳打ちした。


「それで本当にうまくいくのか?」


「このやり方で落ちない女の子はいないわ。絶対喜ぶわよ!」


「わ、わかった。やってみるよ」


 護はその好きな子を呼び出して、アリスに教えてもらったある方法を行った。内容は自主規制。結果・・・。


「護君、最低っ!そんな人だなんて思わなかった。もう絶好よ!二度と私の前に現れないで!!!」


 すっぱりと断られた。こうして護の淡い初恋は軽く散った。こんな風にアリスは度々護を騙しては自分の良い様に扱っておもしろがっていたのだ。それ以外にも普段からわがままを言ってはいつも護を困らせていた。


「はぁ〜、あの頃は若かったわね。本当楽しい子供時代だったわ」


「俺にしてみたら最悪だったけどな」


「だって護、人を疑う事知らないんだもん。騙されても騙されてもお人好しだからさ、直ぐ信じちゃってからかい甲斐があったのよ。わがまま言っても文句言いつつちゃんとしてくれるし」


「へーだ。自分の甘さにつくづくむかつくね」


 顔をしかめ自分のお人よしさに嫌気がさしながら文句を言うがそこにすかさずマーティンがフォローを入れる。


「坊ちゃまはお優しい方ですから。そこが良い所なのです。この先オフェリアの王位継承され統治者になられるなら、とても良い王になられますよ。そういえば、坊ちゃまは一人前になられたそうですし、もう継承されてはいかがですか?」


「マーティン。俺は王になれる程の器はないよ。まだまだ先の話さ。親父にはもっと頑張ってもらわないと」


「しかし、ロイス様は何時譲っても良いと仰っておられましたが。私も良いと思います」


「ハヤブサがそう言ってくれるのはうれしいけど、ハヤブサに勝てない様ではまだ無理だって」


 その言葉を聞いてアリスは、護の昔抱いていた夢の事を思い出し聞いてみた。


「そういえば護。まだ世界一強くなりたいとか夢見てるの?」


「もちろん。俺は絶対強くなる。肉体的だけじゃなく精神的にもだな。昔と違って特に精神は鍛えないと駄目かなと思う。魔力に反映するし、またアリスみたいな女性に騙されたらたまったもんじゃないからな」


 アリスの質問に当然といった感じで答えつつ、眉毛を上げ、口をへの字にして肩と手のひらを軽く上に挙げる。もうこりごりといったポーズだ。ハヤブサも護の夢については気になっていたらしくアリスの質問に乗じて尋ねてくる。


「王子はどうして世界一強くなりたいと夢見るようになられたんですか?幼少時代、突然私の元に来て剣術を教えてくれとか仰ってきましたけど」


「ん〜、なんでだったかな?確か何かそう決意したきっかけがあった気がするんだけど・・・。うー、思い出せそうで思い出せない。なんだったかなぁ」


 手のひらを目に当てなんとか思い出そうとする。しかし、頭に靄が掛かったみたいにその記憶だけが曇ってうまく思い出せない。


「坊ちゃま、きっかけがなんにしろ子供のときに思い描いた夢を叶えようと努力することはとても良い事です。その夢は、これからも持ち続けてください」


「大丈夫さ。久しぶりに実家帰ってきて親父お袋の実力も聞いたし、ハヤブサと稽古してまだ敵わないけど、ようやくまともに相手して貰えるほど成長してるってわかったから。諦めないよ」



「頑張って下さい、王子。王子にあと必要なのは一番護りたい大切な存在を持つだけですから」


 護は、そのハヤブサの言葉を聞いていまいちわからないといった風に考え込む。その時ふと、ある戦場での事を思い出した。あの時は大切な存在が居た。短い間しか共におらず一緒のときは自分でも気づかなかったのだが、失って初めて自分にとって護りたい大切な存在だったと気がついたのだ。あの時の事だけは忘れようにも忘れられない。


「大切な存在か・・・。俺は友って気がするけど、やっぱり恋人や妻とかになるのかな」


「一般的にはそういう人は多いですよ」


「うーん。そういえば親父がお見合い相手見つけてたな。部屋の机に山見たくデータ書が置いてあったけど。見る気がしないんだよね。ま、せっかくの機会だし暇があったら見てみよ。そういえばマーティン。輝どうした?聞きたい事があって探してるんだけど、見当たらないんだ」

 


「輝殿なら、今出張中ですよ。何時もの様に各大陸を渡りめぐって情報収集の励んでます」


「あー、やっぱりか。輝だったら知ってるんじゃないかと思って期待してたんだけど。じゃあ、何時帰ってくるかもわからない訳だ」


「ええ。しかし今回の旅先はローデンハイム共和国ですから近々戻られるのではないでしょうか。ここから遠い国ではないので」


「そっか。仕方ない。のんびり帰ってくるまで待つとするか。こちらもいろいろ調べたけど手詰まりだったからね。輝の裏の情報に本当期待するよ」


「何、護?なんか知りたい事でもあるの?」


「アリスが知る必要はない」


「な〜によ、久しぶりに帰ってきたと思ったら急に生意気になっちゃって。昔の素直で純粋な護は何処へ消えたの」


「誰かさんがそんなもの消しちゃったから」


 護はじっとアリスを見た。


「あー!私のせいだって言うの!?酷いわねぇ。私は護に協力してあげたいなと思って聞いてるのに。いつまでも昔の事根に持ってるなんて子供よ子供。あんた今年で何歳?もっと私見たく大人になりなさいよ」


 ぷんぷんとアリスは怒りながら説教じみた事を言ってくる。アリスから大人という言葉が聞けるとは思いもしながったが、はいはいと軽くあしらっておく。しかし輝がいないとなるとしばらくオフェリアに腰を落ち着けることになりそうだと護は思った。輝は表の世界裏の世界問わずあらゆる情報を持っていてその情報収集能力には尊敬の念が絶えない。まさにエキスパート。しかし、その能力の高さのため頻繁に世界を行き来していてめったに会えないのだ。


「それじゃ、輝が帰ってくるまで剣の稽古と魔法の勉強でもしながらゆっくりするかな。ハヤブサ、これから毎日付き合ってね」


「ええ、いいですよ」


「魔法はお袋にまた習おう。今回お袋の良い情報得れたし、それなら昔教えてくれてた魔法より凄いやつ、頼めば教えてくれそうだ」


「護ちゃーん。お昼ごはんよ〜。上に上がってらっしゃい。あら、アリスちゃんも来てたの。一緒に食べていかない?」


 城の一室の窓から母が顔を出し護を呼んだ。


「うぃー、今行く」


「マレル様、お言葉に甘えます」


 護はハヤブサと別れるとアリスと共に食卓へと向かった。食卓には父と母が座っている。護達も自分の席に着いた。


「いただきます」


「あら、護ちゃん。また子供姿になっちゃったの?せっかく遠目にだけど、窓から本来の姿見れたのにぃ。パッと見じゃかなりの凛々しいかっこいい姿だったみたいだけど。ねぇねぇ、お母さんに見せてよぉ」


「嫌」


「ね、ちょっとだけでいいから。若い頃のローちゃんに似てる気がしたのよ。お願い!」


「いーや」


「おまえ、マレリンの頼みが聞けないっていうのか?俺だったらなんだって言うこと聞いちゃうっていうのに。冷たいなぁ。ほら、マレリン残念がってるじゃないか。おまえこの訴えるような眼差しを見てなんとも思わないのか?この表情だけで胸キュンものだっていうのに・・・。逆に俺がときめいちゃうぜ!」


「知るかっつうの。それよりお袋。また魔法教えてよ」


「え?良いわよ。でもぉ、護ちゃんの本当の姿見せてくれないって言うなら嫌ぁ」


「あ、ずりー!交換条件かよ」


「だってぇ、私見たいんだもん!」


 歳に似合わずえへっとポーズを取る。しかし、歳など微塵も感じさせない程綺麗にポーズが似合うのだ。母は昔からスタイルも容姿も全く変わっていないせいだろう。父曰く、初めて会ったときからずっと変わらない美しさを保っていると言っていたのを思い出す。


「ったく、わかったよ。じゃあ、教えてもらうときに見せる」


「やった!ところでアリスちゃん。アリスちゃんはちゃんと本来の姿見たんでしょ?」


「ええ。なんで護が小さくなったのかわかりませんけど」


「見た感じ、どうだったかしら?」


「そうですね。ロイス様の面影を残しつつマレル様の美しさをプラスした様なかっこいい姿ではあったと思いますよ」


「あらそう!楽しみだわぁ〜。ねぇ、護ちゃん。それだったらご飯食べたら直ぐに教えてあげるわ」


「あっ!マレリン。俺の事ほったらかしにしないでくれよ。それから、護。マレリンは絶対取るなよ」


「自分の子供に嫉妬するな。取らないって言っただろ」


 父は父で昔となんら変わらず、母に関してだけは嫉妬深いようだ。しかし、ハヤブサの話では母も相当嫉妬深いらしい。


「お互い様か・・・。だから仲がうまくいっているんだろうな」


 ふと、そんな事を食事をしながら思う。父と母は食事をお互い食べあいっこさせて飽きることなくいちゃいちゃしてる。


「若いっていいな」


「何言ってるの。護が一番若いくせに」


「いや、精神面でさ」


「護、いつから爺臭くなったのよ。あなたはこれからでしょ。本当、昔と変わったわね」


「変わらざる得なかったの。そうしないと成長できないから」


「でも、ロイス様とマレル様に対する態度だけは変わらないのね。昔から冷めた態度とってたけど」


「あの二人の態度見てて、中に割って入ることなんて出来ると思うか?」


 護に言われ、アリスはロイス達を見た。ロイスとマレルは二人だけの自分達の世界を構築してしまっている。


「・・・ごめん。聞いた私が馬鹿だったわ」


「子供のときからあれだからな。遠巻きに見てることしかできないのよ」


 そんな会話をアリスとしながら全員が食事を平らげた頃、父が話を振ってきた。


「ところで護。おまえ覚醒したなら、もう自分の意思で覚醒できるよな?」


「いや、できない」


「はぁ?なんだ、てっきりもう自在に覚醒できるのかと思ってたのに。それじゃあ完全な一人前とは言えないな。なんだよ、せっかく王位継承して引退できると思ってたのに」


「そもそも、どうして覚醒したのかもわからなかったのに、自分の意思で覚醒なんて出来るわけないだろ」


「しょうがないやつだなぁ。仕方ない。マレリンに魔法習う前に覚醒の仕方教えてやるからちょっと中庭出ろ」


 父に促されて護は食卓の部屋の横にある広い中庭に出た。母とアリスは食卓から中庭に出た二人を見ている。


「じゃあ、まず俺が手本見せるから見てろ」


 父は手を前に合わせなにやらグッと力を込めた。すると身体が光りあっという間にレヴィアタンに変化する。


「まあ、こういう感じだ。俺は手のひらに魔力を集束させて身体の内部に放ったが、やり方は別に好きにしろ。用は魔力を外に出すのではなく、自分の身体の中に放てばいい」


「ふーん」


 それを聞いて護も試しにやってみた。体内に流れる魔力を集め、外に放出するのではなく自分に向けて放つ。すると、心臓が脈動しドクンドクン!と鼓動が強く速くなる。身体が光だし意識が朦朧としてきた。そして完全に意識が消えた時、中庭にもう一体のドラゴンが姿を現した。


「汝か、我を呼び起こさせし者は。我と同属の存在であるようだが、見覚えがある。確かレヴィアタンであったか」


「おお、アダドか。やはりマレリンの血を引いているだけある。俺よりランクの高い最高位のドラゴンじゃないか。歴代の中でもアダドクラスのドラゴンを宿した王はいないはず」


「汝、何用があって我を起こさせた?返答次第では、ただでは済まさぬぞ」


 たんたんとしゃべるアダドに対しレヴィアタンは敬意を表ししっかりと謝って説明をする。


「あ、すまみません。貴方と俺の息子の護の完全な融合をさせてやりたいと思いまして、起こさせました」


「今は、まだ護と我は目覚めたばかりの存在。完全な融合はまだできぬ。時が来るのを待つのみ」


「それは承知しています。いずれそのときが来るまで息子の事をよろしくお願いします。度々力になってやってください」


 レヴィアタンは護の事をアダドに頼むとアダドは快く承諾した。というかそれが当たり前で何を今更といった感じに呆れたといった方が正解かもしれない。


「うむ。用件がそれだけなら、我はまた眠りにつこう」


 そう言ってアダドは光りを放ち眠りに陥った。護の姿に戻る。以前と違い自らの手で呼び起こしたので裸の姿ではなく、服は元のままだ。レヴィアタンも人間に戻った。


「よくわからないけど、覚醒したのか?」


「ああ、したぞ。それもアダドっていう最高位のドラゴンにな。まだ、覚醒したばかりでアダドとの完全な融合ができてないから、今は覚醒したときの意識がないだろうけど、完全に融合すれば覚醒後も自分の意思を持ち続けることが出来るから。まあ、それは追々だな」


「ふーん」


 護はいまいち実感が湧かなかったが、とりあえず覚醒の仕方は会得した。二人はまた食卓に戻る。


「あらあら護ちゃん。立派なドラゴンじゃない。見て感じたのは、風を主体に生と死を司るみたいね。てっきり、風を守護名にもらっているからアイス辺りのドラゴンが出てくるかと思ったけど、ローちゃんの血より私の血をより濃く引いているようね」


 母がアダトを見ての属性を教えてくれた。それでもやはり意識のない覚醒状態の自分の事はよくわからない。とりあえず考えていても仕方ないので、食後のコーヒーを入れて飲むことにした。もちろん味は物凄く甘い。椅子に腰かけ中庭を見ながら優雅に味わう。ほーっと一息つく時間だ。その時間を母が崩した。


「ほら、護ちゃん。コーヒーなんて飲んでないで覚醒の仕方も会得したんだし、約速通り魔法の練習しに行きましょ」


「食後のコーヒーくらいゆっくり飲ませてよ」


「えー、私早く護ちゃんの本来の姿みたーい」


「んん〜、わかったよ。このままコーヒー持って結界室行くけど良い?」


「もちろん。さ、行きましょ。アリスちゃんはゆっくりしていって。ローちゃん、午後からの仕事も頑張ってね」


 二人は食卓のある部屋を後にすると魔法の練習場である結界室へと向かった。



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