知られざる過去
オフェリア城の稽古上で、激しい剣のぶつかる音が響いていた。護が蹴りで思いっきり吹き飛ばされて壁に激突する。
「こっの!」
護は無声魔法を使ってかなりの量の風の刃を相手に放つ。さらにそれに乗じて突っ込んでいった。しかし相手は、無声魔法をすべてかわし護の斬撃を軽やかに防ぐ。
「なかなか良い動きです。でもまだ足元がおぼつかない」
相手はガッ!と護の足を払い、あまりの強烈な足払いで護は宙で一回転させられた。
「おわっ!」
護はそのまま回転した状態で地面に叩きつけられる。すかさず倒れた護に剣が突きつけられた。
「精進が足りませんよ。王子」
「ちっくしょー!今回は絶対勝てると思ったのに!!!」
倒れた護は大の字に寝そべって叫んだ。相手は静かに手を伸ばしてくる。
「いや、しかしお強くなられました。世間の荒波にもまれてこられただけはある。私もようやく本気でやり合える様になりましたよ」
「っつうか、何その反則的な強さは。魔法もばんばん使ってありとあらゆる手段で本気でかかっていったのに何故勝てないかなぁ。どうやったらハヤブサみたく強くなれるんだよ?」
ハヤブサと呼ばれた男の手を握り起こしてもらうと、パンパンと服の汚れを払った。
「それは、守るべき大切な存在がいるかいないかの違いだと思いますよ」
「いやそれにしたって、ハヤブサは唯の格闘剣士だろ?魔法も効かなきゃ剣技も及ばないなんて・・・何者だよ。ったく、すげぇな本当に。無敵だな」
「王子もいつか大切に守りたい存在が出来たら強くなられますよ。精進してください」
「坊ちゃま。タオルをどうぞ」
「あ、ありがとう、マーティン」
世話役のマーティンからタオルを受け取ると大量の汗をふき取った。一方のハヤブサは汗一つかいていない。ハヤブサは幼少のときから護るに剣技を教えてくれた言わば師匠だ。
「ちなみにロイス様は私よりお強いですよ」
「マジで!?あの馬鹿親父が???」
「ええ。私でもさすがに互角で戦えるかどうか」
「信じらんねぇ・・・」
「しかし、やはり最強はマレル様でしょう。ですよね?ハヤブサ殿」
「はい。あのお方は人智を超えてらっしゃる。ううう、思い出しただけでも恐ろしい・・・・・・」
ハヤブサは何かを思い出したらしく、さも恐ろしそうに身震いした。
「あ、そうなんだ。やっぱりお袋が最強なんだ」
「はい」
マーティンとハヤブサは口を揃えて返事をした。なんとなく予想していた返答に護はふーんと思いながらふと気になっている事を口にした。
「ねぇ、ハヤブサってさ結婚してたよね?」
「はい」
「恋愛結婚?」
「そうですよ」
「恋愛ってさ。いいもん?」
「ええ、いろいろ大変では有りますけど楽しいものですよ」
「そっか。あのさ親父とお袋って恋愛結婚だよね。俺詳しく知らないんだけど、どうやって知り合ったの?」
「私も詳しくは知りません。ただ人づてにでは二人の出会いぐらいは聞いた事がありますよ」
「ちょっと教えてくれるかな」
「いいですよ」
そうしてハヤブサは話しをしてくれた。
昔、ヤミーの鮮血の魔女と呼ばれた邪悪で恐ろしい魔女がいた。その魔女の魔力はあまりに強大でその力の前には全てがゴミ同然だった。大陸全土を脅かし、その魔の手はとうとうオフェリアにまで及んだ。兵士達や当時の精鋭部隊は必至に抵抗を試みたが、なす術も無く城にまで追いやられロイス王を含め兵士達は城で最後の防衛線を張り待ち構えた。
「ロイス様!第一陣、ニ陣防衛網突破されました!もう持ちません!!!」
「くっ!仕方ない。俺が討って出る!覚醒するから全員巻き添え喰らうなよ!覚醒したらほとんど俺の意識は消えるからな!!!」
ロイスは覚醒をしドラゴンとなった。水の竜レヴィアタンである。待ち構える事数分、魔女がレヴィアタンの前に姿を現した。
「現れたか、邪なる存在よ。我の力思い知らしてくれる。身の程を知るが良い」
「あらあら、たかがドラゴンが言ってくれるわね。身の程知るのはどちらかしら?」
レヴィアタンが口を開け水を大量に集束させ、超高圧に圧縮し咆哮と共に放った。それを魔女は難無く消滅させる。それを皮切りに魔女とレヴィアタンの激しい攻防が始まった。しかし、その争いも長くは続かない。レヴィアタンは一方的に押しやられ、とうとう覚醒していられる魔力が尽きた。
「これ程とは。我が消える。もう持たぬ・・・」
「あら、この程度?呆気ない。つまらないわね」
魔女は髪一つ乱さず、ふっ!と嘲笑った。レヴィアタンがまばゆい光を放ちロイスの姿に戻る。ロイスは荒い息遣いをしながら、うなだれ下を向いていた。
「ま、魔力がもう・・・ない。覚醒しても無理だったのか?」
魔女が下を向いているロイスの方に歩み寄った。
「大国の王と言ってもたいしたものじゃないわね。さっさと消えてもらおうかしら。目障りだし」
歩み寄った魔女に顔を上げロイスはキッ!と睨んだ。二人の目が合う。
「あっ・・・」
二人は同時に声をそっと囁くとしばし見つめ合った。そこにロイスを助けようと兵士達が魔女に斬りかかった。
「陛下!」
「忌まわしき魔女め!」
「皆待て!」
魔女に襲い掛かった兵士達にロイスは制した。
「こんな美しく麗しいレディに刃を向けるものではない!」
「ま、まぁ。美しいだなんて・・・」
魔女は顔を赤らめた。
「レディ、宜しかったらお名前を教えてくれないか?」
「マレルと言いますわ。貴方は?」
「おっと、俺とした事が・・・失礼。俺は、ロイスと言う。その、なんだ、良かったらお茶でもいかがかな?マレルさん」
「ええ!喜んで、ロイス陛下」
「へ、陛下!何を考えてらしゃるんですか!その者は敵ですよ!?」
「いや、なんだ、ほら力じゃ敵わない事は分かったんだから、ここは平和的に話し合いで解決をだな。と、とにかく、皆剣をしまえ。さ、マレルさん。こちらに」
ロイスはマレルの手を取るとテラスへと招待した。
「これが最初の出会いだとか。これを機にお二方は直ぐ付き合い始めたそうです。後でお二方に聞いたところ、二人揃って、一目見た時に運命を感じた、もう一目惚れ!とおっしゃってましたよ」
「なんつう出会いだよ。一歩間違ってたらこの国消えてたじゃん」
「それが運命の悪戯と言うものです。坊ちゃま」
紳士な物腰でマーティンが付け加えた。
「でもさ、二人が付き合うとか、まして結婚だなんて周り反対しなかったのか?だって国滅ぼそうとした魔女だったんだろ、お袋って?」
「ええ、それがロイス様と出会ったその日に魔力で壊れた家屋の修復や傷付いた者の治癒を施し、一転とても優しい方に成られたので、周りも文句の言いようがなかったそうです。ロイス様の後押しもあったそうですし」
「女ってわかんねぇ生き物だな」
護るは心底思っていたことを口にしていた。
「その後は、王子の知っての通り人も羨む仲の良い夫婦に成られているのですよ。それは今現在も健在です。」
「それは、久しぶりに見てもわかるよ。見てるこっちが恥ずかしくなるわ。いい歳してさ」
「仲が睦まじいというのはなんにしても良いものです。坊ちゃま」
「ふーん。ま、そうだけどさ。ところでハヤブサさ。俺見た事ないんだけどお袋の怒った姿もそうだけど、そのさっき言ってた人智を超えた強さっていうの知ってるの?」
「はい」
「どうやって知ったのさ?」
「え、ええ。実は、あれは私が今の守護部隊ヤヌスの隊長の座についたばかりの頃でしたか。当初はまだお二方は結婚をされておらず恋人同士だったんですけど、その時にですね。ロイス様の父上に当たる火神・オーフェンシアム・レリウス様が、ロイス様に内緒で勝手にある国の王女との婚約を決めてしまったんですよ。レリウス様はマレル様とロイス様が付き合っていらっしゃることをご存じなくて。しかもその王女の方はロイス様の幼馴染で幼少時より仲が宜しかったのですよ。それで、度々その王女が訪れてはロイス様と仲よくなさっているのをご覧になって嫉妬してらしたマレル様が、その上婚約が決まったと知られて激怒しましてね。いや、表面上顔ではいつもの様ににこやかにしてられて、あらおめでとう、とか仰ってたんですけど、魔力が身体から漏れてましてね・・・。王子、この国の直ぐ隣に大きな湖があるのをご存知ですよね?」
「それは当然知ってるよ。テラスから見える凄い良い景色の湖だろ。まあ、俺ちっちゃいときから海かと思ってたけどな。あんな広いんだもん。ある日湖だって知ったとき、嘘だろって正直驚いたよ」
「あれはですね。本当はこの国を囲む世界最大級の山々が連なってた場所なんですよ」
「へ?」
ハヤブサの意外な言葉に護は間の抜けた返事をした。ハヤブサは話を続ける。
「ですから、マレル様がですね。テラスで私とマーティン、後何人かの他の方々がロイス様とマレル様とレリウス様と一緒にお茶をしてた時に、その婚約を知って何か派手にお祝いしてあげなくちゃねとか仰いつつ、にこやかにボソッとあの山でも消そうかなと呟かれた瞬間に、まあ、ドカーン!!!と・・・。で、山がすべて吹き飛んであの湖が出来たんですよ。あの時のマレル様は怖かったですね。その場に居た全員が唖然と見てる中、一人平然と変わらない笑顔でお茶を飲んでらして。さらに最後に一言仰られたんですよ」
「な、何を?」
「これじゃあ、ローちゃんの婚約祝いにはちゃっちすぎるわね、結婚式の日にはもっと派手なお祝い考えなきゃって・・・」
「あ、そ、そうなんだ」
さすがの護もゴクリと唾を飲んだ。小さいときから海だと思っていたほどの広さを持つ湖を作ったのが自分の母であり、さらにそれをまだちゃっちすぎると言いのけるのだ。実際その場にいなくまだ海のものとも山のものとも知れなかった護にしてみては信じられない話である。
「まぁ、ロイス様ははっきりとレリウス様に婚約の件は白紙にしろ、俺はマレルと付き合ってるんだ。この愛は一生変わらない!と仰られたのでレリウス様も婚約を破棄し、マレル様も機嫌が戻られたんですが。おそらくあのまま婚約が進んで結婚なんて事になっていたら世界の半分が消えてたかもしれません」
「お袋がねぇ・・・。俺、生まれてこの方そんな怒った姿なんて見た事も雰囲気も感じた事ないけどな」
「私もあれが最初で最後ですよ。それ以降、怒ってらっしゃるマレル様は見た事はありません」
「はぁ〜、でもあんな優しいお袋でもそうなのか・・・。やっぱり女って怖いんだな。俺一生女性不信で過ごしそう」
「ははは、大丈夫ですよ。いつか王子にも良い方が見つかりますって。自ずと引き合う運命というのはありますから」
「でもなぁ、そもそも俺あいつのせいで女性不信になったんだよな」
「ま〜も〜る〜!」
「あ〜、噂をすればなんとやら」
声を聞いて護はうんざりした表情を浮かべた。元気に手を振りながらこっちに向かって女性が走ってくる。
「何しに来たんだよ。アリス」
「あー、何よその態度!久しぶりに帰ってきたって言うから、おねーさん代わりである私が急いで会いに来て上げたって言うのに。うれしくないわけ?」
「そりゃどうも。で、何。また俺を玩具代わりにしようっていうの。それとも何か新しい騙しのアイディアでも浮かんだのか?」
「違うわよ!何、まだ昔の事根に持ってるの?もう私だって良い歳で結婚だってしてるんだから、あんなことはもうしないって!純粋に会いに来たのよ」
「はいはい。ありがとう」
「あー!信じてないでしょ!?」
「いや、信じてます。アリスねえちゃんには世話になったからね。本当に!」
皮肉交じりに護はアリスに言いのけた。そう、護が女性不信になって女性を苦手とするようになった元凶はこのアリスにあるのだ。アリスは3つ上の女性で護とは幼馴染である。よく国を離れるまでは遊んだものだ。もとい遊ばされたものだ。
「はぁ、こうして久しぶりに会うと昔が懐かしいわねぇ」
アリスはふと昔を思い出していた。




