いざ故郷へ
王様方を救い出して三日後。玉座の間にて護とレイン王は対峙していた。護は片足の膝を地面につけ、礼儀正しく頭を下げている。レイン王の隣には、綺麗にドレスアップした霞が立っていた。
「護とやら、約束を果たしてくれたな」
「いえ、私は何もできませんでした。全ては霞様の想いの強さ。霞様ご自身の手でレバスを倒し王様方をお救い差し上げたのです」
「そんな謙遜するでない。霞からは話を聞いておる。今まで霞が世話になったな」
「もったいないお言葉。微力ながらお手伝いをさせていただいたまで。いたみいります」
「護、何何時までも頭下げてるの。今回の一番の功労者は護なんだし、護がいなかったら父上達を救い出せなかったよ?私達の仲じゃない。そんなかしこまらなくたって」
「いえ、霞様。私の様な小物にその様なお言葉は。恐れ多い」
「霞様って・・・」
護は頭を下げたまま、話を返した。霞は聞きなれない呼び方に少々戸惑い気味のようだ。
「レイン様。失礼ながら申し上げます。私は約束を果たせませんでしたが、こうして無事お救いすることができました。牢屋での私の約束は覚えておいででしょうか?」
「国の復興のことか?」
「はい」
「無論じゃ。こうして霞も戻ってきた。直ぐにでも復興作業にかかるつもりでおる」
「それを聞いて安心いたしました。ところで王妃様はいらっしゃいませんが?」
「うむ。妻はまだ疲れておるのでな、自室にて休ませている」
「左様ですか。王妃様共々お三方でまた素敵な国を作り上げてくれる事を願っています」
「任せておきなさい」
「と、ところで父上。私この場を借りてちょっと言いたいことがあるんだけど」
「ん?なんじゃ、遠慮せず申してみよ」
「えっと・・・護の事なんだけど・・・」
「私の事ですか?」
「え?うん。ほら、こうやって無事父上達も救い出せたし、国も取り戻せたし。なんかようやく落ち着いたと思うのね。だから、えーっと」
霞がめずらしくもじもじとした態度をとっている。
「私ね。父上達救い出せたら護に言おう言おうって思ってた事があって。い、いや、前々から言おうとは思ってたんだけど、言い出せなくて・・・」
霞はさらにもじもじとして顔を赤くしだした。レイン王と護は不思議そうに見ている。その視線にますます霞は赤くなった。
「どうした霞?この場ではっきりと言葉を言えん様では、民の前に立ってもしゃべれんぞ?これから先、そなたも民を導いていく存在なのじゃからしっかりせねば」
「あ、はい」
「ほれ、言いたい事があるならはっきり言いなさい」
「えーっと、私は、だから、その、護がね。いや、護は迷惑かもしれないんだけど・・・」
「?」
「だから、わかるでしょ!ね?護?」
「???」
護は霞が何を言いたいのかさっぱりわからず、唯じっと霞を見た。
「霞、だからはっきり言いなさいと言っておろう。護殿も困っておるではないか」
霞は、手を胸に当てふーっと大きく深呼吸すると、思い切って言葉は発しようとした時、外から歓声が上がった。
「レイン様ー!!!」
「霞様ーーー!!」
「ラゼルばんざーい!!!」
「お、どうやら民達が城に集まったようじゃ。ほれ霞、皆に元気な姿を見せに行くぞ」
「え?あ、はい。父上」
霞はレイン王に促されて、テラスに出た。テラスの下には民がわんさかと集まっている。レイン王達の姿を見てさらに歓声は強まった。
「皆の者、心配をかけた!こうして無事城も取り戻せ、我が娘である霞も戻ってきた。これからまたより良い国を皆で力を合わせ築き上げていこう!!」
ワー!!っと民達が拍手を送る。レイン王と霞は民衆ににこやかに手を振っている。護はその姿を後ろから見ていたが、ニコリと笑うとそっとその場を後にした。
「ほら、護もこっち来なよ!皆こんなに元気にしてるよ!!!」
霞は振り向いて護を呼ぼうとした。しかしその場には護の姿は既にない。
「あれ・・・護?」
「ほら霞。おまえも何か皆に言ってあげなさい」
「あ、はい」
長い間束縛を受けてきた民衆達は感極まりない表情でやんややんやと騒いでいた。そしてラゼルにまた活気が戻ってきたのである。一方の護はさっさとストロベリーに帰っていた。
「よう、お帰り」
「お帰りなさい。護さん」
ゲンと楓が出迎えてくれた。
「ただいま」
「ん?霞ちゃんはどうしたよ?」
「ラゼルに置いて来た。霞はお姫様だからね。今後ラゼルの復興のため、皆の力になって支えてあげなきゃならない存在だから」
「えー!お姉さま戻ってらっしゃらないんですか?」
「さあ、落ち着いたら戻ってくるんじゃないの。何時になるかはわからないけど」
「じゃ、ラゼルの方はうまくいった訳だ」
「まあね。あー疲れた。ゲンいつもの頂戴」
「おう!待ってな」
しばししてストロベリーパフェが護の前に置かれた。護は意気揚々と食べ始める。
「ゲン、そういえばさ。僕もまた旅に出ようと思うんだよね」
「うん?どっかに行くのか?」
「今回霞の件見てたらさ、僕も一度故郷にでも帰らなきゃまずいかなと思ってさ。もうずーっと帰ってないし」
「はぁーん。良いんじゃねぇの。俺らに止める権利はねぇ。お前の好きにすればいいだろ」
「いや、一応報告ぐらいはしとこうかなと。今まで世話になったし」
「気にすんな。ま、のんびり故郷に帰るのも良いんじゃねぇの。でもなんだ?ホームシックって奴か?」
「そういうわけじゃないけど。たまには顔出さないと逆鱗に触れそうで・・・」
「そう言えば、お前の故郷って何処だ?」
「ひ・み・つ。じゃ、ご馳走様。城に行って今回の報告したら直ぐ旅立つよ。今までお世話になりました。楓ちゃんも元気でね」
「はい」
護は、手を振ると城に向かい劉に報告しに行った。
「ラゼルの問題は無事に解決したか」
「ああ。でも結局裏にいる存在らしいのは確認できなかった。そっちはどうだ」
「こっちもお手上げ状態だ」
「やっぱりか。そこでだ。俺、一度故郷に帰ろうと思う」
「故郷に?」
「帰りながら、いろいろ情報を集めようと思うんだ。東の大陸で情報が得られないなら、他の所に行けば何かわかるかもしれない。丁度俺の故郷が西の大陸なんだ」
「そうか」
「だから、俺しばらく無期休暇もらうな。何かわかり次第連絡入れる。そちらも引き続き調査してくれ」
「わかった」
「それじゃあな」
護は、劉にも別れを告げるといざ故郷へと旅立っていった。途中途中でいろいろな町に立ち寄り情報を集めながらのぶらり旅。東の入り口サバスの港町より船にのり一路西の大陸、ファンシヘルム大陸へ。西の入り口インフェリンの港街は、昔と変わらず活気付いていた。
「変わらないな〜」
街の陽気に誘われて、ゆっくりと街中を見て回り情報収集。その日はそこで宿を借りて一泊。昼頃いつもの様に起きるとまたぶらりぶらりといざ故郷に向けて歩き出した。インフェリンから人の足で歩く事約一週間。ファンシヘルム大陸を治める大国オフェリアに到着した。オフェリアは別名水の国とも言われ、国中に水路や運河が流れている豊かな国だ。人でごった返している中を護は、割って城へと向かっていく。
「ただいま」
「あらあら、護ちゃん。帰ってきたの?」
「お、久しぶり」
城の一室にあるテラスに入った護は昔と変わらず仲の良い両親に声をかけた。
「飽きもせずラブラブだな」
「当然だ。俺らの愛は永遠に不滅なのだ!」
「そうよ〜」
「何平和ボケしてるんだよ。それでもオフェリアの王か?」
「何を言う。ちゃんと政は行ってるぞ。なあ、おまえ」
「そうよ。この人はちゃんと頑張ってるわよ」
二人は、ねーっとお互い顔を見合わせると笑っている。
「バカップルなんだから」
護は呆れて近くの椅子に腰掛けた。
「それより、護ちゃん。そんなに小さくなってどうしたの?凛々しく成長した姿をお母さんに見せて頂戴!」
「面倒」
「相変わらず冷めてるなぁ、おまえは。そんなんだから彼女の一人も出来んのだ!どうせ今までも付き合った女性なんていないんだろ?」
「やかましい!」
「あら、貴方図星を突いちゃ駄目よ。護ちゃん奥手なんだから」
「本当に誰に似たのやら」
二人はいちゃいちゃとしながら、護にため息をついた。護もそれを見てため息をつく。
「で、どうしたのいきなり帰ってきて?しかも、漆黒の疾風だなんて仇名までお土産につけてきちゃって」
「聞きたいことがいくつかある」
「な〜に?」
「俺はある事件で死んだはずなんだ。それなのに何故か今生きている。その場に居た人の話じゃ俺がドラゴンに変化して復活したとかどうとか。親父は何かこの件で知っているか?」
「ほぅー。お前もやっと覚醒したか」
「覚醒?」
「ああ、俺らのオーフェンシアムの家系はよ。代々竜の血を引いててな。なにかしらのきっかけにドラゴンに覚醒するんだよ。覚醒できて初めて次のこの国を治める後継者と成れるんだ。言わば一人前の証。そうかそうか、お前もようやく一人前になったか。これで晴れて王になれるな。何時でも譲ってやるぞ?」
「ふーん。ま、腰を落ち着けるにはまだ早い。御免こうむる」
「まぁまぁ、今夜はお赤飯ね!」
にこやかに母は笑った。
「でもおまえだって何時までもふらふらしててどうする。そろそろ王子として自覚持ってよぅ、こうやって帰ってきたんだから冗談抜きで後継がないか?」
「嫌」
「ったく愚息なんだから」
「お互い様だろ?馬鹿親に言われたくない」
「はいはい、お前と違って俺は馬鹿だよーだ。何が悪いよ」
父はえっへんっと威張るとまた母とねーっと顔を見合わせた。
「他にも聞きたいことがある」
そんな両親を無視し話を護は続けた。
「ここ数年で何か東であり西であり国を脅かそうとしているおかしな連中がいないか知らないか?」
「いや、そんな話は特に聞いてないぞ。少なくとも俺の治めてる西の大陸じゃそんな奴らの話は出ていない。なんだなんだ?まーた、物騒な話でもあるのか?」
「ちょっとね」
「じゃあ、俺達も気をつけとかないとな。なぁ、マレリン」
「そうね貴方」
「親父・・・まだお袋の事そう呼んでたのか・・・」
「悪いか?」
「歳考えろよ」
「なんでだよ。母さんは、マレルなんだらかやっぱ呼ぶならマレリンだろ?その方がかわいいじゃん。母さんだって俺の事、ローちゃんって普段呼んでるぞ」
「はぁ、まあいいけどさ。じゃあなんで俺は護って呼ばれてんだ?レイサーが名前だろ」
「そ・れ・は、護の名は人を守ってくれる意味合いを強くしてつけたんだもの。だから護ちゃんなの」
「じゃあお袋、レイサーいらないじゃん」
「ばーか。わざわざ初代王の名前をつけてやったんじゃないか。ありがたく思え」
「はいはい」
呆れながら改めて両親と自分の名を正確に思い出していた。父、水神・オーフェンシアム・ロイス。母、慈神・オーフェンシアム・ファンデリス・紅・マレル。これが二人の本名。そして自分、風神・オーフェンシアム・バルバロッサ・エンシアル・護・レイサー、それが正式な名前。両親はレイサーとつけたくせに、途中の護という言葉が好きらしく、生まれてからずっと護と呼んできたということを初めて護は知った。自分は正式の名を出すのが面倒くさくて、風神護と言っている。ちなみに本来だったら、オーフェンシアム護というのが普通である。しかし、オーフェンシアム家のしきたりで、最初の何神という守護名が幼少のある年齢に達するとつけられるのだが、護はその守護名が気に入っていて自分を風神と呼ぶのだ。
「ま、なんにせよ久しぶりに帰ってきたんだ。ゆっくりしていけるんだろ?っつうかゆっくりしてけ。ハヤブサやマーティン、輝とか皆お前に会いたがってたぞ。しっかり顔見世てやれよ」
「言われなくてもゆっくりさせてもらうよ、自分の家なんだから。皆にも俺会いたいしね。あ、お袋悪いけど、紅茶もらえる?」
「いいわよ。ちょっと待っててね」
母はお茶の用意に出て行った。そこに父が改めて思い出したかのように話を振ってきた。
「そうそう、おまえ都合の良い時に帰ってきたな。実はよ、俺もお前に用があったんだった」
「何?」
「ん?お見合い話」
「はぁ!?」
「いやー、どうせ奥手のお前の事だから女性の一人もゲットできず一生を過ごすだろうと思ってな。それじゃ可哀想だから、俺がいろいろ見積もっておいてやったぞ。うれしいだろ?優しいな俺って」
「なーに勝手に話進めてるの。俺の意思は?こっちにはこっちの想いってのがあるんだし」
「そんなこと言ったっておまえもういい歳じゃん?案の定、彼女もいないって帰ってきたしよ。いい機会だろ?それとも何かもう心に決めた相手とかいるのか?」
「いや・・・いないけど・・・」
「じゃあ、いいじゃないか。ま、会うだけ会ってよ。嫌だったら断ればいいだろ。そこまで強制はしないさ。お前が女性苦手なの知ってるし。でも俺も一応お前の親だからな、きっかけぐらいは作ってやろうと思っただけよ。その辺は好きにしな」
「あ、う、うん。ありがとう・・・」
「案外良い子見つかるかもしれないぞ?女性は良いぞぉ!恋愛最高!!」
はっはっはっと笑いながら護の背中をバンバン叩く。
「いや、痛いから・・・」
「あら、楽しそうね。何の話?はい、護ちゃん」
「ありがとう」
「いや、護にお見合い話の事話してたんだ。護にも女性の良さっつうもんわかってもらいたくてよ。こいつにはやっぱマレリンみたいな嫁さんが良いよな」
「あら、ローちゃんったら」
「あ、でも護。言っとくけどマレリンは俺のだからな。取るなよっ!」
父はがしっと母に抱きついて、自分のものだと護にアピールした。
「当たり前だろ!!!近親相姦なんてするか!この馬鹿親父!!!」
護はこんな取り止めのない会話をしながら優雅に紅茶を飲む。飲みながら、なんでこの両親から自分みたいなのが生まれたのか悩みつつ、城のテラスから見える平和な街並みを見つめた。