潜入!
「護!護!」
「ん〜、あ〜、霞か・・・」
護は霞に揺り動かされて目を覚ました。体中汗だくで服がぐっしょり濡れていた。
「大丈夫?なんかすごく魘されてたけど?」
「大丈夫大丈夫。ちょっと嫌な夢を見ただけだよ」
そう言って頭を手で押さえ、ゆっくりと起き上がった。
「嫌な夢って?」
「うーん、良く思い出せないや。とにかく精神的に嫌な夢ではあったと思う」
「あぁ、こんなに服がびしょびしょになっちゃって。このままじゃ風邪引いちゃうよ?何か着替えあったかな」
護の姿を見て霞は代わりの服を探しに行こうとした。しかし、護はそれを止める。
「良いって良いって!どうせまた城に潜入したとき汗かくんだもん。平気平気。それより救出に行く準備出来てる?僕は直ぐに行けるけど」
「それなら大丈夫。私も直ぐ行けるよ」
「じゃ、さっさと行こうよ。王様方も心待ちにしてると思うしさ。ほーら、行くよ」
「え?う、うん」
護に急かされて二人は外に出た。町は来たときと同様に不気味なほど静けさを保っている。そのまま走って、城の方に向かった。二人が正門の前に立ったとき、護は本来の姿に戻り、口調が変わる。戦闘態勢に入ったのだ。霞も自ずと緊張する。
「いいか、この先には嫌って程のモンスターがいる。しかし、それを一々相手していたらこちらが持たない。うまく切り抜けろ」
「わかってる」
「それでは、行くぞ」
護は門を開けた。ゆっくりと中に入っていくと既に最初のフロア全体に埋め尽くさんばかりのオウガデーモンが蠢いている。オウガデーモン達は直ぐに二人に気がつくと一斉に飛び掛ってきた。護はサッと紙一重で攻撃をかわすが、霞は真正面から剣で爪を弾く。そして返す刀で霞はオウガデーモンに斬りかかった。
「ガキーン!!」
甲高い音と共に霞の手が痺れた。オウガデーモンには傷がほとんどついていない。
「か、堅い!!」
「霞、相手にするなと言ったはずだ。こいつらは耐久力、攻撃力はずば抜けて高いが動きがすこぶる鈍い。スピードで翻弄しながら隙間を縫って先に行くぞ」
「そんなこと言っても、こんな数相手にどうやって隙間を縫って行くの!」
霞は必死に四方から襲い掛かる爪撃を剣で弾きながら、護に訴えた。当の護は本当に相手にもせず、ふわりふわりと避けて先に進んでいる。見かねた護はしょうがないといった感じで左手を頭上にかざし言葉を発した。
「フラッシュ!」
護の指から眩い閃光が放たれ辺り一面真っ白になる。オウガデーモンも霞も視界が奪われ動きが止まった。その合間を見て護が霞を抱きかかえ、ひょーいっとオウガデーモン達を踏み台にして二階通路に通じる階段へ避難した。
「あー、びっくりした!」
目をしばしばさせながら霞は地面に下ろされる。
「しばらく視力が奪われるから、ここでしばらく様子見だな」
護は、霞をその場に残しそっと階段を上る。最後の一段を残し、壁際からちらりと二階通路を見た。そこにもオウガデーモンは蠢いている。
「ちっ!ここは強行突破しかないか」
舌打ちしつつ、じーっと相手の動きを観察しなんとか相手をせず抜けきれる隙間がないかと思考を巡らせる。しかし、どう考えても真っ向から一体ずつ倒していかないと道は出来そうにない。
「あそこであいつを倒せばあの所に敵が来て、で次にあいつを相手にすれば・・・」
「何ぶつぶつ言ってるの?」
最小限の力で最大限の力を発揮しようとひたすら思考を働かせていた護に視力が回復した霞が声をかけてきた。
「あ?ああ、ここの通路はさすがにまともに相手をしなきゃ道が出来ないと思ってな。でも全部相手してたら、体力がなくなるからなんとかならないかと考えてたんだ」
「ふーん」
霞もチラリと通路を見た。うわっと小さく悲鳴を上げる。
「どうしよう、護」
「だから、それを今考えてる」
その二人の光景をにやつきながら魔法球で見ていた男がいた。そう、レバスだ。
「くっくっく、ようやく来たか。約束は守ってやらねばな」
そう言って魔法球に近寄り声を振動させた。城全体にレバスの声が広がる。
「ようこそお越しくださいました。霞姫とそのナイトよ。約束通り、私の所まで道を作ってあげましょう」
「この声は!」
霞には聞き覚えのあり、忘れたくても忘れられない声である。その声に呼応しオウガデーモンは、両壁に一列に並ぶ。
「ふん。来いってことか。良いだろう、招待されてやる」
護と霞は頷くと、モンスターで作られた通路を走り抜けていった。