隠密行動ぉ
夜中、ラゼル国上空。
「この辺りだよな?暗くてよくわらからないけど?」
「うん、ちょうど、町の入り口の真上にいると思う」
「なら、下に降りるよ」
護は真下にすーっと降りていった。そして程なくして地上に到着。目の前には、家々が建ち並び幅の広い大きな道が一直線に延びている。二人は、ゆっくり町の中へと入っていった。辺りには人気は全くなく、恐ろしいほどに静まりかえっていた。
「そ、そんな・・・」
霞が唖然として町並みを眺め、立ちつくした。護も最初暗くてよく周りがわからなかったが、次第に目が慣れ、風景が目に映る。そこには、崩れかけた家々、いや正確には、もう形すら残していない家の残骸といっていいかもしれないものや、伸びっぱなしの雑草、きれいに舗装されていたであろう道は、所々穴があき、瓦礫が散乱していた。はっきり言えば、もう町と呼べるものではない。ただの荒れ地だ。
「あの・・・綺麗な私の国が、こんな・・・」
「酷いな。以前のラゼルを僕は知らないけど、劉さんの話じゃ、貿易が栄え、観光でも名高く、東国では有数の美しい国だと聞いていたんだけど」
霞は力無く、膝をついた。
「これじゃ、町の人々は、住めるわけがない。私が逃げ延びたときは、まだこんなに荒れてなかったのに。私、王女として失格だ。父上達を救うことばかり考えて民の事を何も考えてなかった。父上達が無事ならそれでいいって思って、民の人々が苦しんでるのも知らず、今までのうのうと暮らしてたなんて」
「霞、落ち込んでてもしょうがないだろ?とりあえず、処刑されるのが三日後。もう夜中だから、後、二日とちょっとか。とにかく王様方を救い出さないことには、始まらないよ。幸い、劉さんの情報通り、町に放たれていたモンスターは皆、城に集まっているようだし、町の中は、自由に動ける。本来なら町の人々から情報を得たいんだけど、みんな寝ちゃってるだろうしな。町の人に関しては、家は崩壊してるのもあるけど、いくつも無事なのも見受けられるから、とりあえずは大丈夫なんじゃない?」
気休め程度に霞を慰めた。
「だといいんだけど」
「大丈夫だって、見たところ、建物は傷ついてるけど、死体が転がってるわけでもないし、なにより血のにおいがしない。だから、住人には被害がいっていないはずだよ。きっとみんな無事だって。まずは、王様方を救出しよう。どうする?今すぐ、城に向かうのもいいけど、城に全部のモンスターが集められてると言うことは、相当激しい戦いが待ち受けてることになるけど。まあ、ゴブリン程度の雑魚敵なら、対して問題にはならないからな。問題は、レバスとか言う奴か。それにしても情報がちょっと足りないな。うーん、僕としては明日の朝に行動を起こしたいんだけど。体力温存しておきたいし」
「で、でも、私は一刻も早くこの惨劇をなんとかしたい!」
「だから、焦んないでよ。下手に動くと、救出できるものもできないよ?曲がりなりにも、あっちには国王、王妃という人質がいるんだから、こちらが、急いで派手に動けば、王様方の命も危ないよ?こういうのは、隠密行動でいかなきゃ。わかるでしょ?」
「うーん。わかった。じゃあとりあえず、私が昔、お忍びで使ってた家に行こう。壊れてなければそこで休めるよ」
「よし!じゃあ、そこに行こうか」
二人は、暗い夜道を歩いていった。護はその間にも、周りに注意を払う。人、モンスターの気配がないか、なにか急を要することがないか、神経を研ぎ澄ましながら、霞の後を着いていく。今のところ変わったところはない。
「ねぇ、霞」
「何?」
「城ってどっち?」
「え?えーっと、さっきの大通りを直進していけば、城の正門に着くよ」
「ふーん」
「この国はね、月見大通り、あ、さっきの大通りね。それを中心に碁盤の目の様な作りになってるの」
「にゃるほどね。それならわかりやすい」
しばらく、歩くこと20分程。こじんまりとした一軒家に到着。
「よかったー、無事だった」
「ここ?」
「うん、そう。私が、お忍びで町に遊びに来たときとか、習い事から抜け出したくなった時に使ってた秘密の家」
「じゃあ、さっさと入ろうよ。僕疲れた」
「それじゃあ、どうぞ」
促されて、家の中に入る。中は埃だらけで、天井には蜘蛛の巣が張っている。
「しばらく使ってなかったから、中は荒れちゃってるなぁ。まあ、掃除は父上達を救出してからにして、今はベッドのシーツ替えればいいか」
そういうと、霞はある棚から、シーツを取り出すとベッドに向かいシーツを替える。
「あ!護!どうしよう。ベッド一つしかないんだけど」
「ああ、それなら、僕は床で寝るからいいよ」
「え、それじゃあ悪いよ」
「気ーにしない、気にしない」
護は、にこにことしながら、埃まみれの床に寝ころんだ。
「じゃ、朝早いから、僕寝るね。お休み」
そういうと、護は、目をつぶった。霞もお休みと言い、ベッドに入る。それから30分経過。霞の寝息が聞こえてきた。護はムクッと起きあがると、霞を起こさないように、そっと、外に出ていった。
「城は、大通りの先だったよな」
そう言いながら、大通りに向かう。しばらくして、大通りに出た。
「えっと、左だよね」
そのまま、左を向いて歩いていく。ずっと先に、大きな門が見える。そこへひたすら歩いていった。そして、その門の真下に来ると目の前に立派な建物が建っているのが確認できた。入り口の扉はどうやら、堅く閉ざされているようだった。
「さて、どうするかな」
護は城を眺めながら、建物の周りを一周する。もちろん、辺りの気配に十分気遣いながら、慎重に探っていった。そして、ちょうど城の裏にさしかかったとき、窓が目に飛び込んできた。直ぐに、壁にぴたりと体を付けると、ゆっくりと窓の方に歩み寄る。そして、ちらりと、一瞬、中を見た。窓からは城内部の通路が見え、その通路にはモンスターの姿はない。
「よし、ちょっと中入ってみようかなー」
そう言うと、腰からすらりとショートソードを抜く。そして、窓の縁を切り裂いた。窓が綺麗に音もなくはずれる。護は、内部に注意しながら、さっと、窓から中に入る。しかし、入った瞬間、嫌な気分に襲われた。通路向かって右方から、もの凄く気持ちの悪い、まるで憎悪の固まりのような気配が漂ってくる。護はこの嫌な気配を知っていた。
「ま、まさか・・・」
ゆっくりと、右に歩いていく。すると、ちょっとした階段のある踊り場があった。近づけば近づくほど、気持ち悪い気配は強くなる。護は我慢しながら、さらに、階段を上った。しかし、最後の一段に足をかけようとしたとき、自然と体が固まった。ゆっくりと深呼吸をすると全く音を出さず、一切の自分の気配を消し、闇に同化する。それから、最後の一段を昇り、そーっと、壁から顔を通路にちょっとだけ出す。
そこには、体長2メートルを超し、頭には二本の角、背中には真っ黒な翼、指には鋭く長い、人の体など簡単に引き裂いてしまいそうな爪、口からは汚いよだれを垂らし、ごつい体付きをしたモンスターが通路一面蠢いていた。
「うわー、やっぱり・・・・・・」
その姿を見て護は、体中から力が抜けるのを感じた。それもそのはず、護の中では、レバスという奴が操っているモンスターといっても、ゴブリンや、スライム程度の雑魚モンスターだろと思っていたのだ。しかし、今この目に映っているモンスターは、そんな奴らとは格が違う。名前をオウガデーモン。モンスターの中でランクとしては、Bランクに位置し、その性格は、至って凶暴。動きは鈍いが、純粋に破壊することを好み、耐久力も抜群。属性は、無で、弱点はなし。冒険者の中で、もっとも相手したくないモンスターランキング上位の敵だ。モンスターブックによれば、レベル30以上ない冒険者等は、まず、相手をせず、見たら真っ先に逃げろと書いてあったのを覚えている。実際護も、かつて旅をしていたとき何度か、やり合ったことのあるモンスターだ。
「よりにもよって、一番たちの悪いモンスター操っちゃって。しかも、一体二体ならともかく、この数なんだよ。レバスって奴、相当な実力者じゃないか。おいおい、頼むよ、ほんとに。あー、頭痛い・・・・・・」
護は、がくっとうなだれた。もし城中にオウガデーモンが放たれていたとしたら、とてつもなくやっかいなことになる。さらに、オウガデーモンを、こんなにも操れる実力者が、裏にいるかと思うと泣きたくなってきた。
「くっそー!こんなことなら、霞に、王様が捕らえられているような牢屋どこかの場所、聞いとけばよかった。こんな奴ら相手にしてられないよ。しょうがない、奥の手だ」
護は、目をつぶり、静かに呟いた。その言葉を風の流れに乗せ、城の中に飛び回す。
「王様、王妃様どちらにいらっしゃいますか?霞様と共に救出に上がりました。返事を下さい」
耳を澄ます。するとほんの少しだけ、声が聞こえた。しかし、何を言っているのかまではわからない。護はその声を頼りに、聞こえる方に向かっていった。




