急展開!!
ストロベリーは、いつものようにお客でにぎわっていた。ゲンと楓は忙しそうに働いている。
練習も終わり、霞と護はいつものカウンターに座った。
「ゲーン!忙しいとこ悪いんだけど、コーヒー一杯もらえない!?」
「あ、私、紅茶がほしいな」
「おまえら、この忙しさが目に入らないのか?そんな入れてる暇あるか!飲みたきゃ、勝手に自分で入れろ!」
「あのなー、ゲン。一応俺たち客なんだけど・・・」
「やかましい!世話になってるんだから、それぐらい自分で何とかしろ!どれだけ、家にいるんだよ!俺は、もうおまえらの事、客だなんて思ってないぞ。家族みたいなもん何だから、飲みたきゃ勝手に飲め!」
「しょうがないなー」
そういうと、護はいそいそと、調理場に入っていった。
「どうせ飲むなら、オリジナルのコーヒーでも作ろうかな?いろいろ豆は揃ってるし、ちょっと好みのコーヒーでもいれてみよっと。あ、その前に、霞に紅茶入れてあげなきゃ」
そう言いながら、紅茶を入れて、霞に持っていく。
「はい、霞。紅茶。ダージリンでよかったかな?」
「うん、いいよ」
「俺ちょっと、自分のコーヒーを研究してくるから、調理場にこもるね。ちょっと待っててよ」
「いいよ、ゆっくりしてきてね」
護は、霞に謝ると調理場に戻っていった。調理場にはたくさんのコーヒー豆が置いてある。
「どれにしよっかなー?やっぱり、コーヒーと言えば香りが重要だしな。香りが一番いいのって、確かラクアのコーヒー豆だったよな。えーと、ラクアラクアっと。あ、あった。これに、後味付けか。うーん。俺、苦いの苦手だからな。オルビス産の豆って比較的柔らかい味じゃなかったかな?ちょっと、調合してみよ」
ごりごりとコーヒー豆をひく。調理場にいいにおいが漂ってきた。
「うーん、さすが、ラクアの豆。においは絶品だな。さて、ちょっと、飲んでみようかな」
ひいた豆にお湯よ注ぐ。そして、ちょっとだけ味見してみた。
「うん、後味まろやかでいい感じ。でも、砂糖とミルクいれないと、やっぱブラックでは飲めないや」
そういって、砂糖スプーンに3杯と、ミルクを注ぐ。また味見。
「うん!完璧!我ながら見事見事。さて、霞のところに戻るかな」
そういって、霞のところに戻った。
「お待たせ、霞」
「ううん、いいよ。で、どう?うまくいった?」
「うん。俺好みのコーヒーはできたよ」
「そっか。ねえ、飲んでみてもいい?」
「いいよ」
霞は、コップを受け取ると一口飲んだ。
「うーん・・・。香りはいいんだけど、甘すぎない?もう、コーヒーって感じしないよ?」
「そう?俺、甘党だから、これぐらいがいいんだよ。それにね、甘いものを取るのは、頭の活性にいいんだよ?糖分は、頭にとって唯一の栄養だからね。あと、コーヒーには48種類の風味成分がふくまれててね。コーヒーはどちらかといえば、その風味を楽しむものだから。香りと、後味さえよければいいの」
「そうなんだ」
「そうだよ。俺が好んで甘いものを取るのは、頭を常に活性化させるためでもあるし、コーヒーはその香りで頭に刺激を与えて眠気とかを消すために飲んでるようなものなんだから」
「へー」
「だから、霞も頭柔らかくして活性化させたかったら、甘いもの補給した方がいいよ。まあ、女の子の場合、取りすぎると太っちゃうから注意が必要だけどね」
「うん、太るのは嫌だからほどほどにしとく」
「そうだね」
そのとき、緊急用連絡魔法球が、アラームを発した。
「あれ、なんか、ピーピーって音がしてるけど?」
「うん?あ、連絡魔法球だ。本部からの連絡みたい。緊急の呼び出しなんて珍しいな」
「すぐに行った方がいいんじゃないの?」
「ああ、ちょっと城の本部まで行って来るよ。悪いな、霞」
「ううん。仕事頑張ってね」
「ああ」
そういうと、急いで店をでると、駆け足で城に向かった。20分程たって、城に到着。入ってすぐ右に曲がり、一つ目の道をさらに左へ。そのまま直進すると、いったん外に出る。そのまま真っ直ぐ歩き、また右に折れると目の前に大きな建物が目に入った。扉の上に特殊情報局と書いてある。その中に入っていった。
「こんにちは」
「あ、少佐。お待ちしてました。劉隊長が、第一会議室でお待ちかねです」
「わかりました」
そういうと、第一会議室に向かった。トントンとノックして中に入る。
「護、参りました」
「おお、待ってたぞ。護!」
「劉さん、どうしたんですか?緊急呼び出しなんて珍しいじゃないですか」
「ああ、そのことなんだか、すぐに説明する。とりあえず、そこに座ってくれ」
護は、椅子に座った。劉と対峙する。
「で、用件は?」
「ああ、実は頼まれてた件についていささかわかったことがあった」
「頼まれてたことといったら、霞の故郷ラゼル国の内情のことか?」
護が、仕事モードに入る。自然とまじめな顔になり、言葉遣いも変わっている。
「そうだ。おまえに頼まれてからラゼル国のことをずっと調べていたんだが、最初入ってきた情報は、国王と王妃が囚われの身になり町はモンスターであふれかえ、人も家から滅多に出ることができない状態という内容ばかりだったんだが・・・」
「ああ、それは聞いている。そのモンスターを操り、国王を捕らえ、国を支配した独裁者がいるという話も聞いた。もう少し詳しい情報がはいってから早急に手だてを考えるつもりだったんだが、現時点で動けば国際問題に発展するからな。だから裏付け調査を頼んでいたんだ」
「うむ。それからいろいろ調べてみたのだが、どうやらそうのんびりしていられなくなった」
「どういうことだ?」
「さっき入った情報なんだが、どうやら三日後、国王および王妃を処刑するらしい」
「なに!?それは、確かな情報か!?」
「間違いない。潜入している、情報収集専門のやつからの話だ」
「しかし、おかしいではないか?当初の話では、国王たちは、人質として扱われていて命の保証はされているから当面問題ない。とりあえず、その独裁者が何を考え何故ラゼル国を乗っ取ったのか?民があっての国なのにどうして町にモンスターを放って民を身動きとれなくして、周りの国との交流も遮断したのか?その独裁者のやっていることは、明らかに政治的におかしい。だから、その目的を探るべく調べて手だてを考える予定ではなかったか?」
「そのはずだった。しかし調べれば調べるほど、その独裁者、名をレバスというのだが、矛盾点がでてくるのだ。おまえの言ったとおり、レバスの政治的策略はおかしい。当初、国王および王妃をすぐに処刑しなかったのは、なにかしらの交換条件として使うのだろうと俺も思っていた。本来なら、国を乗っ取った時点で国王を生かしておく必要はないからな。なのに、今まで生かして置いたと言うことは、なにか利用目的があったのだろう。例えば、レバスに裏の存在がいて、レバスはその者との取引に使うとかな。でなければ生かしておく必要はない」
「それは、わかっている。だから、今まですぐに手だてを打たず裏付け調査を行っていたのではないか」
「しかし、調査の過程でおかしな点が浮かんだ」
「おかしな点?」
「そうだ。そのレバスという者、ラゼル国を乗っ取ってから政略らしい政略をせず一切外部との連絡、交流を遮断している。なにか取引があるのでは、と思っていたがそれすらもない。ただラゼル国に存在しているだけなのだ。モンスターを町に放った以外、何一つ行動らしい行動をしていない。まるで、ラゼル国に何の興味もないようなのだ。それなのに、なぜ、ラゼル国を乗っ取るような真似をしたのか?本来、新たな王になろうとしたのなら必ず目的があるはずなのに、何一つその目的を見せる気配がない。国そのものを放置している。だから、調査も難航していたのだが、そこにきていきなり国王方を処刑すると言い出したのだ。こちらもさっぱり相手の意図がわからない。何故今になって処刑するなどと言い出したのか?元々取引などなかったようだったし、こちらも突然のことで訳がわからない」
「その処刑の話は確かなのか?」
「ああ、確かだ。町中にふれまわり、その日はモンスターも引き上げさせ、町中の目の前で処刑を行うと言っている。現に今モンスターは、町から城の中に集められ、ようやく民も身動きとれるようになったようだ。とにかく、レバスは処刑を見せ物にするらしい」
「ますますもって意図がわからんな。いや、処刑を見せ物にして、自分がこの国の真の王だと民に思い知らせるという考えは理解できるが、何故今更になって行う必要がある?レバスが、ラゼルを乗っ取ってから一年以上経過してるのだぞ?その間、何も動きはなかったのか?」
「ないな。おまえに頼まれてから過去の事を洗いざらい調べたが、何一つ動きらしい動きをしていない。誰かと密会したという形跡もない。本当に国にいるだけなのだ。国を乗っ取ってから、民衆に自分が新たな王という触れ書きも行っていない。だから、民もレバスが王になっていることを知らない。ただ、町にモンスターが現れ身動きがとれず生活が困難を強いられているだけだ」
「じゃあ、何故そのレバスとか言う奴はラゼルを乗っ取ったんだ?」
「だから、その意図がわからないといっているだろう?明らかに行動としては矛盾している点がありすぎるのだ。国を乗っ取ってもレバスにとってなんの利益もないのだぞ?むしろ、外界から遮断して民の動きもとれなくしたのなら、自分の生活が成り立たないだろう。税金も取らない、外界との交流も持たない。これではまるで、民を自滅させラゼルそのものを潰そうとしているようだ」
「ラゼルを潰そうとしている可能性は、俺も考えた。しかし、モンスターを操り高々一日そこらでラゼルを乗っ取ったほどの実力者だぞ?一年以上も待つ必要なんてないだろ。潰そうと思えば乗っ取った時点で潰せるはずだ」
「だーかーら、さっぱり意味がわからないと言っているだろ?今まで国を放置しておきながら、何故今更になって国王方を処刑するなど言い出したのか、見当もつかん」
「うーん。なんにせよ、国王が処刑されるというのは事実なのだな?」
「そうだ」
「なら、もうのんびり構えてる余裕はない。直ぐにでも、国王救出にあたらなければ」
「うむ。そのために、おまえを呼んだんだ。相手の意図はさっぱりわからないが、とにかく、レバスを倒し、すぐに国王方を救出しなければならない。それにしても、気になることがある」
「なんだ?」
「前回のグリフォンの件だ。あれも調べていたが、未だに情報らしい情報がない。今回のレバスの件といい、グリフォンの件といい、もしかしたら、裏でもの凄い大きな存在が動いているのかもしれない。前の事件と今回の騒動が一本の糸でつながっている気がするのだ」
「かもしれないな。俺たちの知らないところで誰かが操っている可能性も否定できない。かれこれ一年以上動きがなかったから気のせいかとも思ったが、そちらの件も早急に調べる必要がありそうだ。でなければ今後も問題は生じる。そのときは必ず後手に回ることになるからな。早いうちに裏の存在を探し当てなければ」
「そうだ。俺はとりあえず、そっちを引き続き調査する。おまえは、何とか直ぐにラゼルに行って国王を救出してくれ」
「わかった」
「しかし、処刑が開始されるのは3日後の昼だ。今から馬車に乗って飛ばしても、着くのは3日後の夕方になってしまう。一応こちらの極秘調査隊の方で攪乱して時間は引き延ばすが、間に合うか?」
「問題ない。魔法を使えば一日もかからずラゼルに着ける。ラゼルの件は俺に任せておけ」
「わかった。頼んだぞ」
「了解」
「では、直ちにラゼルに行ってくれ。こっちは、裏の存在を調査する」
「ああ、じゃあ直ぐに向かうぞ。それじゃ」
「うむ。成功を祈る」
護は直ぐさま部屋を出ると、急いでストロベリーに向かった。
「はーはーはー、霞!」
「どうしたの?護、そんなに慌てて」
「今入った情報で、霞のご両親、ラゼル国王方が処刑されることが決まった!」
「ええ!!父上と母上が!?」
「だから、これから直ぐにラゼルに行って国王方を救出に向かう」
「わかった!私も行く!!」
「なら、直ぐに外に出ろ!飛行魔法でラゼルに行くぞ!」
「うん!」
そういって、二人は外に出た。
「霞、手を握れ」
「うん」
霞が手を握った。直ぐに呪文詠唱にはいる。
「風の名において、今その力を我に貸したまえ。我が望みは、空を我がものとする事なり。風よ、我の行く手に吹き、その行き先を示したまえ」
二人の体がふわりと空高くに浮かび上がった。上空2000メートルあたりで、ぴたりと止まる。
「では、飛ばすぞ。霞、しっかり捕まっていろ」
返事も聞かないうちに、もの凄い勢いでラゼル国の方角に二人は飛んでいった。