指輪の暴走、そして契約
それから霞が到着したのは一時間ほど経ってからだった。人が多かったために通行に手間取ったようである。
「ごめん、遅くなった」
「良いよ、こっちもいろいろ準備があったし」
手を上に伸ばして、軽くストレッチをした。実はこの塔に結界を張っておいたのだ。何が起こるか分からないため、最悪な場合も想定して少し複雑な結界を張りちょうどそれが終わった頃に霞が到着したのだ。
「結界を張っておいたから、ちょっとやそっとのことなら大丈夫だよ。それじゃあ、早速やってみようか」
護が促す。霞は頷いて指輪をはめる。
「やり方は至って簡単。神経を集中し、指輪に呼びかけるんだ。力を貸してくださいって。その際注意しなければならないのは、一切の雑念を捨てること。何らかの返答があり次第、その後、契約をする。分かった?」
「うん」
「じゃあ、やってみて」
霞は神経を集中し指輪に呼びかけてみる。するとどうだろう。指輪が輝きだしたではないか。それがどんどん輝きを増し霞は自分の中に力が湧いてくるのが分かった。
「うまくいきそうだな」
護が遠くから呟いたのが聞こえた。それを聞いてやった!と思った瞬間である。急に身体が燃えるように熱くなり指輪から炎が吹き出した。その炎は次第に大きくなり霞を中心に円を描くように回転しながら上に上っていく。部屋の温度が一挙に上昇した。その炎はまるで生きているかの様に塔内を飛び回り辺りに火の粉をまき散らす。よく見る、竜の形していた。炎竜である。霞は力を抑えることが出来ず苦しそうにそのまま膝を突いた。
「まずい!」
そう言うと護は霞に近付いていく。しかしあまりの高温の炎の壁に遮られ傍に行くことが出来ない。そうこうしているうちに霞はどんどん弱っていっているようであった。その姿を見て、護は呪文を唱えるのも忘れ炎の中に飛び込んでいった。すぐに霞を抱きかかえる。身体が物凄く熱い。
「おい、大丈夫か。気をしっかりもて!炎竜の力を抑えるんだ!」
だが霞の意識は朦朧としている。
「くそっ!なんとかしないと!」
護は持てる力を全て使い霞の治癒魔法をかけると同時に炎竜の力を押さえ込もうとする。
「彼の者の怒りを静め、今再び平穏を与えんことを!フィールドオブウィンドォ!!!」
自分の身体が物凄く熱い。内側から燃えるようだ。外側は既に所々やけどをしている。魔法だけではなかなか抑えることが出来ない。護はさらに持っていた三つの指輪を炎の指輪の周りに集め三角形の結界を張ると力を集約する。するとようやく炎竜の活動が鈍くなってきた。同時に霞も正気に戻る。
「こ、これは?!」
「霞、気づいたか!今だ、早く炎竜と契約を!こっちはそんなに長く持た・な・い」
霞が護を見ると、もうぼろぼろの姿をしていた。
「護、大丈夫か!?」
「良いから、早く、契約を!」
半ば、やけになって叫ぶ。
「わ、分かった」
霞は冷静になると契約の言葉を唱える。しかしうまくいかない。
「だめだ、私にはできない!」
霞がうなだれると護が言った。
「こんなところで諦めてしまうのか?せっかく力を手に入れるチャンスなのに。霞言っていたじゃないか。両親を救うためなんとしても強くなるって。その思いは、嘘だったの?」
霞はそれを聞いて両親のことを思いだした。あの屈辱を受けた日のことを。自分の力不足のせいで誰も救えなかった。もうあんな思いはしたくない。力がほしい。誰にも負けない力が・・・。そう思ったとき、炎竜が口を開いた。
「そなた、力を求めるか。その心、邪なことのためでなく、真に必要としているのだな。よかろう。そなたに力を貸そう。さあ、契約を。言葉を述べるのだ」
霞はそれを聞くとまた契約の言葉を唱えた。
「そなたに、我が力の加護を」
炎竜をそう言うと消えていき指輪はもとの静けさを取り戻した。
「やった・・・やったよ、護!」
霞は護を見る。
「良かったね。これで、もうだい・じょ・・・」
護は言葉を言い終わる前に意識を失っていった。遠くで霞が自分の名前を呼んでいるのがかすかに耳に残っていく。