一抹の不安
昼過ぎ。護は眠い頭を無理矢理覚醒させながらようやく起きてきた。
「おはよう。ゲン」
「おはよう」
ゲンは忙しそうに動き回りながら答えた。
「霞はまだ寝てるの?」
「馬鹿、おまえじゃあるまいし。とっくに起きて、祭りに行っちまったよ」
「あ〜、そうなんだ。僕も行きたかったな」
「そう思うなら、もっと早く起きてこい。大体今日、霞ちゃんと約束あったんだろう?」
「あ〜、そうだった。霞、何時戻ってくるかな?」
「さあな、昼ぐらいには戻るって言ってたから、そろそろじゃないか?ほら、コーヒーな」
そう言うと、コーヒーを出してくれた。
「ありがとう。そっか。それにしても今日も忙しそうだね。しかもこんな時間帯でも」
「当たり前だろ。祭りの真っ最中は、何時でも稼ぎ時だからな。そう思うなら、少しは手伝え」
護は眠い頭をカウンターにつけるとやぶ蛇だったと思った。なんとか逃げよう。
「そうだ、ごめん。僕これから城の方に用があったんだった。霞が来たら城にいるって言って来てもらってよ。それじゃ」
そう言ってコーヒーをカップを持ちながら逃げるように出ていった。
外は賑やかだった。普段ならこの雑踏を楽しんだろう。しかし今はまだ寝起きである。周りの音が耳障りでしょうがない。ここはさっさと城にでも行って自室でのんびりするとするか。そう思うと急いで城に向かった。もちろん、途中でマリアの店により、いつものクレープと軽い昼食でも取ろうと思っていたのだが生憎込んでいたためやめることにした。コーヒーを飲みながらまったり歩く。コーヒーの熱さが気温の高さを助けて余計に体を熱くさせる。汗が少し噴き出してきた。城に着いた頃、ようやく眠気も取れ頭がすっきりとしだす。今日のしなければならないことを思い出しながら時間の計画を立てる。自室に入るとまず机の上にうず高く積まていた書類に目を通すことにした。どれもこれといって重要な事柄はなかった。まだ情報が足りないとか、収集している途中とかそういったものばかりである。昨日のフーの事件が気になっていろいろ探ってみたが、今のところ情報はまだ上がってきていないようだ。ただ一つあったのは、前回の事件と今回の事件は関連がなさそうであるという書類だけだった。それに目を通すと思わずため息が出た。前回の事件の犯人、あるいはそれに関与していたものであったのなら少しは進展もしたであろうに。ただの狂信者だったか。そう思うとため息もつきたくなる。あれから有力な手がかりが全くないのだから。残りの書類もこれといって今すぐ目を通さなければならないものでもなかったようなので、そのまま机に放り出すと足を机にあげ頭の後ろで手を組んだ。寄りかかった背中がまだ少し痛い。祭りの騒ぎが聞こえる中、ゆっくりと目をつぶる。時間だけがのんびりと静かに過ぎていく。前回の事件といい、今回の事件といい、世の中にはおかしな奴がたくさんいるものだ。何故そんなことをするのか。何が不満なのか。おそらく彼らの中には、現在の自分と照らし合わせたときの周りの幸福との差違や勝手な思想による高慢さしかないのだろう。平和に過ごしたいもの達にとってしてみたら困った存在である。それを守るために自分たちがいる。しかし、それもただのエゴでしかないのか。王がいて守るべき国民がいる。それは大と小の関係である。それも逆転すれば自分たちは守るべきものから排除され、守るべきものが小さく限定されていく。結局のところ、人の考えなんてものは自由であり理解しがたいものなのだ。犯人がどう思っていたのかなんて考えてみたところで意味もないだろう。知りたくもない。そもそも全員が全員のことを理解できていれば、犯罪なんてものは起こらないのだから。そんなことを考えているとドアを叩く音がした。
「はい、どうぞ」
護は身体を起こす。青い髪をしたショートヘアーの綺麗なお姉さんが入ってきた。
「少佐、霞さんがお見えになりました」
「分かりました。とおしてください」
「はい。霞さん、どうぞ」
霞を招き入れると頭を下げて出ていった。
「護、ここにいたのか」
「ああ、そうだけど?ゲンに聞かなかったのかい?」
「いや、道に迷っててたまたま城の方に来たから寄ってみたら、護がいるって聞いたものだからこっちに来たんだ」
そう言うと霞はソファーに腰をかける。護は紅茶の準備をしていた。霞はコーヒーより紅茶の方が好きなのだ。
「今日は、指輪の力を試してみるって言ってたっけ」
「ああ、そうだ」
「持ってきた?」
そう聞くと霞は身体に手を当てて指輪を探す。
「あっ、忘れてきた。迷ったまま来たからな。ストロベリーに有るんだった」
「それなら、取って来なよ。ストロベリーなら城を出て真っ直ぐ行けばあるから。持ってきたら、西の塔に来てくれるかな?」
「分かった。すぐ取ってくるよ」
霞は慌てて出ていこうとする。
「ちょっと待ってよ。せっかく紅茶用意したんだから、せめて飲んでけば?時間はあるんだし」
護が引き留める。
「そ、そうだな。じゃ、ありがたく飲ましてもらうよ」
そう言って霞は、紅茶に手をかけた。護が質問をする。
「ところで、昨日僕の言っていた言葉の意味理解できたかな?」
護が言っているのは指輪の扱いについてである。
「うーん。正直分からない、と言ったほうがいいかな。力を貸してもらうって言うのがどうもしっくりこない」
「何故?言葉のまま理解すれば良いんだよ?」
「そうなんだが・・・」
霞は少し困っているようだ。
「まあ、一つ忠告しておくなら、あまり指輪の力を安易に考えない方がいいよ。なめてかかると、手痛いしっぺ返しがあったりするから」
「そうなのか?そういえば、一つ護に聞いておきたかったのだが」
「何?」
「やけに指輪のことに詳しいよね?使ったことがあるのか?」
「そうだね。僕も指輪持ってるから」
さらりと言う。
「じゃ、その手痛いしっぺ返しっていうのも、受けたことがあるのか?」
気になってたことを聞いてみる。
「いや、僕は無いよ。でも、他の人でそういう人がいたって聞いたことがあるだけ。実際どんなものかは、分からない」
「そうなんだ。」
「何?やっぱり、心配?」
「まあ、一応ね」
そう言いながら、顔はかなり緊張気味だった。
「大丈夫だと思うけど、とにかく、何事も気を抜かないでいかないとね」
「分かった。それじゃあそろそろ、取りに戻るよ。西の塔だったよね。ちょっと待ってて」
「はいよ」
霞が出ていった後、護は少し自分の発言に不安を覚えた。手痛いしっぺ返し。言ってみたもののどんなものなのだろう?僕の力で何とかなる程度なら良いんだけど・・・。そう思うと西の塔に向かった。




