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後夜祭〜ちょっとした寂しさ〜

 明くる日の朝、霞は早めに目が覚めた。外を眺めると天気は曇り。しかし町の方は晴天の時の晴れやかさのように輝いていた。祭りは三日間夜をとおして行われる。そのためこの時間でもとても賑やかそうであった。そのままイスに腰掛け窓の外を見つめる。町の輝きが、人々の雑踏が、嫌でも昔の自分の国を思い出させてくれる。あでやかな町並み、人々の笑い声、父上達と過ごしたテラスでの優がな朝食。つい最近のことのはずなのに、まるで夢であったような、遠い過去のものと思える。一瞬にして崩壊していった永遠に続くと思っていた日常が、胸を締め付ける。机から指輪を取り出すと、それを眺めてみる。伝説の指輪。この力が有れば、父上達を助けに行くほどの力が手にはいるかもしれない。しかし、現時点ではそれは可能性でしかない。まだ、指輪の主となったわけでもないし、ましてどれほどの力が手にはいるのかも分からない。まったくの未知なるものを自分は手にしたのだ。昨日護の言っていたことを思い出す。力を貸してもらうんだ・・・。護はそう言っていた。私には理解できない。真の指輪の力をひきだし、自由に使いこなせなければ意味はない。そこには必ず使いこなそうとする、一種の道具性が見られる。それを道具と見ず、力を貸してもらうというのは、どうもしっくりこない。そんなことを考えながら、指輪を机の上でくるくると回していた。護は指輪のことを知っているようだった。ということは、少なくとも彼は使ったことがあるか、若しくは既に所有者になっているか、そのどちらかであるという可能性がある。それなら話は早いだろう。護の言うことに忠実に従っていれば良いのだ。だがそう簡単にいくものなのか?どうもこれを手にしてから、嫌な予感がしてならない。それは、自分には扱えないという不安から来ているのか、それとも未知なるものに触れた故のものなのか。外からは生暖かい風が入ってくる。夏特有の風。この時間は気持ちよく包んでくれるが、昼になれば熱風となり牙をむいて襲ってくる。今はその心地よい風を満喫しながら、指輪をしまうと下に降りていった。下では既にゲンが開店の準備をしていた。

 

「やあ、おはよう。今日は早いね」

 

「ああ、なんか落ち着かなくて目が覚めたんだ」


 霞はカウンターに座りながら答えた。

 

「そうかい?てっきり昨日のことで疲れて、今日は遅くに起きてくるんじゃないかって思っていたんだけどね」

 

「私もそう思っていた。でも、指輪のことを考えると、どうも寝付けなくて」

 

「なるほどね。分かるかもしれないな、その気持ち。未知なる存在、ようやく手にしたとしても、使いこなせるかわからないもの。しかし、自分には絶対必要なもの。確かにいろいろ考えちゃうかもしれないな」

 

「そうなんだ。護は大丈夫だって言うんだが・・・。私には、自信がない」

  

 ゲンが紅茶を出す。

 

「自分に自信のもてない奴は、何をやってもうまくいかないものさ。まず、自分を信じなきゃ」

 

「はは。昨日、護にも同じ事を言われたよ」

 

「霞ちゃんは、がんばって自分の実力で勝ち取ったんだ。十分信じるに値すると思うけど」

 

「しかし、決勝戦は、結局うやむやのまま終わってしまった。正確には私の実力だけで勝てた訳じゃない」

 

「それは、結果じゃないさ。その過程が重要なんだ。霞ちゃんは努力した。その過程があって決勝まで行ったんだ。決勝まで行ったというのは結果でしかない。例え決勝で負けていたとしても、それまでは価値のあるものだ。それに、大会に勝つことが最終目標ではないのだろう?」


「確かにそうだが・・・」

 

「指輪だって、本当に必要な人に力を貸すって言うじゃないか。なら、今の霞ちゃんには、絶対当てはまる。だから、きっと大丈夫だよ」


 ゲンが励ます。

 

「ありがとう」


 霞は大会のことを思い出していた。結局、あのフーという男は何者だったのか。何がしたかったのか。いや、そんなことより、彼の持っている全力の力で勝負してみたかった。あの邪悪な雰囲気は、あの男と似たものだったからだ。最初はやり合いたくない相手と思ったが、今となっては少し惜しい気がする。

 

「ところで、護は?まだ寝てるの?」

 

「ああ、寝てるだろう。奴がこの時間に起きてくることは奇跡に近い」

 

 準備をやり終えたゲンが一服しながら言った。

 

「そういえば、彼が朝起きてきたこと、見たこと無いね」

 

「そうだろうな。奴は、朝にめっぽう弱いらしい。寝起きなんか最悪だ。よく階段から転げ落ちてくるよ。それでも、ずっと眠そうだけどな。まあ、奴に用があるなら、昼過ぎまで待った方がいいよ」

 

「そうなんだ・・・。今日、指輪の力を試してみようって言っていたんだけど、それじゃあ昼まで無理かな」

 

「無理だね。どうせならその間、祭りでも見に行ってきたらどうだい?」

 

「そうだね。朝食取ったら少しその辺、ぶらついてくるよ」


 霞はゲンの提案に快く承諾した。その後、軽くお腹に入れると、開店と同時に出かけることにした。外は朝だというのにもう人混みでいっぱいだった。いろんな屋台を見ながら広場の方に向かっていく。広場では舞台のようなものが組まれ催し物を行っていた。今日は音楽のライブのようである。心地よいリズムが広場を中心に流れていく。霞はベンチに座るとしばらくその催し物を見ていたが、何曲か聞いた後、あまり自分の好きじゃない曲風になったのでまた歩き出すことにした。こうして祭りの雰囲気に飲まれるとうきうきする反面、やはり国の事が懐かしくていたたまれなくなるジレンマに陥る。そのうち祭りの気分は損なわれ、両親は、民はどうしているだろうとそればかり考えるようになっていた。その時急にかけられた声で現実に引き戻される。振り向くと何人かの若い男立っていた。

 

「なんだ?」


 霞は無表情に聞く。

 

「いえ、あなた、闘技大会の優勝者霞さんですよね」

 

「そうだが」

 

「ああ、やっぱり。僕たち、あなたの戦い見ててすっかりファンになっちゃったんです。ファンクラブも作ろうとも思ってて。よかったらサインなんかもらえませんか?」

 

「いや、私はそういうのは・・・」


 少し困ったような表情になる。こういうのは苦手だ。

 

「そう言わずに、お願いしますよ。ね?」


 若者達はしつこく頼んでくる。

 

「しょうがないな」


 霞はしぶしぶ、色紙やら服やらにサインをした。

 

「あ、ありがとうございます!一生の宝物にします!」


 若者達はそう言うと、「やった!もらっちゃったよ」とか言いながら嬉しそうに去っていった。霞は、は〜とため息をつくとまた歩き出した。しかしそこで、ある事実に気づく。

 

「あれ、ここって・・・どこ・・・?」

 

 考えてみれば、この町を散策するのは初めてである。それに加え祭りの人の多さによって余計に方向感覚が狂ってしまったようだ。つまり、迷子になったのである。まあ、良いか。昼まで時間有るし。いざとなったらその辺の人に聞けばいい。そう思うと、また祭りの雑踏の中に入っていった。



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