後編
「わりぃ、レクスバルト。やらかした」
ココに支えられながら戻ったリシャスが、血塗れの腕をきつく押さえているのを見て、レクスバルトは眉を顰めた。すぐに立ち上がると、手を退けさせて、傷の具合を確認する。そしてリシャスに、焚き火近くの地面に座るよう指示して、鞘から剣を抜き放った。ココが小さく息を呑む。
「脱がせそうにない。騎士服を切るぞ。動くなよ、リシャス――何があった?」
「違法罠。だいぶ古そうだったけど、まだ魔力が生きてやがった。発動1。他設置2」
「全部完全に壊したな?」
「もちろん。ただ厄介なことに、毒罠だったみてえだわ。怪我はともかく、毒魔法食らったのがやべーな」
「わ、私が踏んじゃったんです!ちゃんと足元見てなくて。リシャスさんが、庇ってくれて――」
泣かないように必死なココを少し下がらせて、レクスバルトが、シャツ姿になったリシャスの袖をまくる。すると腕の広範囲が、ドス黒く変色していた。通常の紫ではない。それを見て、護符の収納ケースに伸ばしかけた手を止め、レクスバルトは鋭く舌打ちをした。
あーやっぱ、この毒は無理か。なんとなく、そんな気はしてたけど。リシャスは腕の痛みをどうにか逃そうと、深く大きく息を吐く。
「あの、私!浄化魔法と治癒魔法、使います!」
「ココ嬢。これは瘴気毒ではなく、呪毒だ。浄化魔法では足りない。まず解呪をしてからでないと、治癒魔法も無意味だが――帰還は、間に合わないだろうな。このままだと死ぬ」
「そんなっ」
「わざわざ言うんじゃねえよ。あー、ココちゃん?変な責任とか、感じなくていいからね?解呪って、ベテランの神官が複数人でやるやつだし」
「それと、真の聖女なら可能なはずだ」
思わずつきそうになった悪態を、リシャスはなんとか飲み下した。神官以外に解呪はできない。だから間違っても、聖女の魔法を試そうとするな――そうココを誘導したかったのに。レクスバルトの奴、余計な補足を加えやがって。
違法罠仕掛けた犯人より、性格悪くねぇか?この野郎。いや、ココが本物の聖女だなんて知ってるはずないから、ただ事実を言っただけなんだろうが。
それにしても、レクスバルトも聖女選抜が出来レースだってことは、ちゃんと認識してるんだな。興味関心、とんでもなく薄そうだったけど。
痛みで飛びそうな意識を繋ぎ止めるために、リシャスはとにかく思考を続ける。
「リシャスさん!私――」
ああ、マズい。ココが決意を固めてしまう。リシャスのために魔法を使って、全部バレて。王都に連れ戻された後は、本物の聖女として国のために、生涯にわたって奉仕する。そんなクソみたいな未来が、確定する決意を。
利き腕がなくなるのは、確かに痛い。だが、やりたくもない騎士を、実家の駒として生きる人生を、ようやく辞められると思えば、まぁいいだろう。
それになにより、初めて会った日に、りんごのキャンディを祈るように握りしめていた、ココの姿が忘れられないから。
腕の一本くらい、くれてやるか――。そう心に決めて、リシャスは負傷した方の腕を、剣を握ったままの相方に突きつけた。
「レクスバルト、切り落とせ」
「――承知した」
やめて!というココの悲痛な叫びが、夜の森に響き渡った。
「解呪と浄化と治癒。三種魔法の多重展開か。真の聖女の力とは、凄まじいものだな」
「――お前、反応薄すぎだろ」
「そうか」
淡々と、肯定でも否定でもない返事をするレクスバルト。リシャスは一つため息をついて、縋りつくココに視線を戻す。
あの瞬間。必死に叫びながら飛び出してきた彼女は、振り下ろされるレクスバルトの剣から庇おうと、リシャスを強く抱きしめた。
するとその体から、真っ白に輝く、強い光が放たれて――夜の森が一瞬だけ、昼間のように明るくなった。
そして、元の静けさが戻った今。リシャスの腕の怪我は、傷跡すらなく完治している。
ココはまだ、リシャスの胸から顔を上げない。剣の下に身を投げ出した恐怖を、遅れて実感しているのか。あるいはリシャスが助かって、どうしようもなく安心しているのか。
あちこちに血が飛んだリシャスのシャツを、一生懸命握りしめたまま、ココは小さく震えている。
そんな彼女の背中を優しく撫でながら、リシャスはあえて、明るい口調で語りかけた。
「いやーやっちゃったなあ!ココちゃん。これ誤魔化すのは、さすがに無理だわ。どーしよっか!――でも、ありがとね」
「リシャスさんの、腕が。なくなっちゃう方が、無理なので」
「うんうん、そっかー。ココちゃんって、マジで優しくて良い子だよなあ。さっすが本物の聖女様!だからさぁ、レクスバルト」
「なんだ」
「頼むから――このまま、見逃してくんない?」
そう言う以外、もう何も思いつかなくて。リシャスはココをそっと離すと、レクスバルトに頭を下げた。
リシャスに抱きつくココを見て、瞬時に判断し、剣の軌道をずらしたレクスバルト。どういう反射神経してんだよ、本当に人間か?と笑うしかない自分は、どう足掻いても、この男にだけは勝てないだろう。
だから情けなくても、こうして頼み込むしかない。聖女だとバレたココが、王都に連れ戻されるのを阻止する方法なんて――他にはなかった。
それでも、彼女が怪我一つなく、無事に故郷に帰れるのなら。片腕を切り落とされようが、男としての尊厳が失われようが、リシャスは何も文句などない。
「他の子でいーじゃん?聖女になりたいって夢見てる子は、いっくらでもいるんだからさ。わざわざ、嫌がってるココちゃんじゃなくても。聖女なんて、やりたい誰かが勝手にやるだろ」
「あの、レクスバルトさん。私からもお願いします!私、村に帰りたいんです。帰って、りんごを作るんです!」
「ココちゃんいたら、毎年大豊作間違いなしだもんなあ。そのうち林檎酒とかも作れそう。あーなんか、無性に酒飲みたくなってきたわ。でも本物の聖女が現れたら、豊穣魔法の奪い合いだろ?各地まで帯同する騎士団も忙しくなって、オレなんか、酒飲む暇すらないんだろうなー」
「そんな、リシャスさん可哀想。レクスバルトさん、お願いしますっ!」
そんな説得にもならない説得を重ねてみるが、レクスバルトの無の表情は変わらなかった。厳しいか。そりゃそうだ。数百年ぶりに見つかったガチの聖女を、護衛もなしで野放しにできるわけがない。それでも、リシャスは諦めたくなかった。
「オレもさぁ、騎士らしくないこと言ってる自覚はあるよ?でもオレ、別に騎士になりたかったわけじゃないし」
「そうなのか」
レクスバルトが、思わぬところで反応を見せる。え、そこ?それそんな重要か?聖女どうこうの話より?と、困惑しきりでココと顔を見合わせていると――レクスバルトが何故か、再び鞘から剣を抜いた。
「騎士でいたくないのなら、騎士ではない生き方をすればいいだろう」
「いやまあ、それはそうなんだけど。オレの場合、クソな実家がすげーうるさくて」
「だから死ね」
「は?」
リシャスの言葉を最後まで聞かずに、髪を鷲掴んだレクスバルトは、容赦なく剣を振り下ろした――ザックリと、肩まで伸びていたリシャスの髪が、切り落とされて地面に落ちる。
「レクスバルトさん、なにしてるんですか!?」
ココが悲鳴を上げるが、レクスバルトはお構いなしに、二度、三度と剣を振るう。ようやく我に返ったリシャスは、慌てて制止しながら距離をとった。
「ストップ!やめろレクスバルト、もういい!もういいって、自分でやるって!」
「右に比べて左が少し」
「どこで凝り性発揮してんだよ!?……うーわ、意外とちゃんと散髪できてんじゃん。それはそれで腹立つなあ」
剣で切ったとは思えないような整え具合に、リシャスは正直、ちょっと引いた。レクスバルトの剣の扱いが、騎士団でも頭一つ抜けているのはわかっていたが、ここまでの腕だったとは。ん?まさかこいつ、自分の散髪、普段からこれでやってない?
レクスバルトは、切り裂かれた上に血だらけの、リシャスの騎士服だったものを拾う。リシャスは、土で汚れた自分の髪を集めて、レクスバルトが広げたその布の上に、まとめて雑に放り込んだ。
「これが貴様の遺髪になるが」
「いいよ、こんなん適当で。大差ねえだろ、どうせ燃やすし」
「そうか」
「え?え?あの、リシャスさん。二人して今、なにをやってるんですか?」
戸惑うココに、あーそっか、とリシャスは苦笑する。騎士が剣で、仲間の髪を切る。それが意味するところを、彼女は知らない。だからレクスバルトが何故こんな真似をしたのかも、説明しなければわからないだろう。
「良かったね、ココちゃん。レクスバルト、オレらのこと見逃してくれるってさ」
「ほ、本当ですか!?やったあ!でも、どうして」
「――騎士リシャスは、聖女選抜を終えた候補を故郷に送り届けた帰路で、迷い込んだ魔の森にて殉職した」
リシャスの遺髪を包んだ、血に塗れた騎士服。小さくたたんだそれを、レクスバルトは自分の荷物へと突っ込んだ。ついでに焚き火にも、残りの枝をすべて豪快に投げ込みながら、淡々とした口調で続ける。
「死因は、イノシシに突進され牙で突かれたことによる、大量出血だ」
「えー?死に方ダッサくね?さすがにイノシシ相手には負けねえわ。これでも一応、騎士なんだから。そこはせめて魔獣だろ」
「実家の伯爵家は、さぞ侮られるだろうな。ただの獣に殺される騎士を輩出した家と、社交界でも後ろ指を指されて、実にいい笑いものだ。どんな名声だろうと、地に落ちる」
「あ、イノシ死でお願いしまーす。せっかくだから、ビビって逃げて追い回されて死んだ、クソ雑魚騎士って盛っといて」
「承知した」
真顔で頷くレクスバルトと、あー清々するわ!伯爵家ざまあ!と笑うリシャスを交互に見て、ココはおずおずと口を開いた。
「えっと。つまりリシャスさんは、騎士を辞めるために、亡くなったことになったんですか?」
「そうそう。おお、リシャスよ!死んでしまうとは情けない!ってやつだねー」
「リシャスさんは、情けなくなんかないです!すごく素敵な人ですっ!」
「ん、ありがと。ココちゃんにそう言ってもらえると、すげえ嬉しいわ。――これからも毎日、言ってくれる?」
わかりまし、えっ!と目を見開く姿すら、ココは可愛い。リシャスは上機嫌だった。これで後腐れなく、騎士を辞められる。その上、ようやく選べた騎士以外の人生を、一生一緒に過ごしたい人が目の前にいる。なんだよ、最高のハッピーエンドじゃん。
「まあ、今オレ絶賛、住所不定無職なんだけどね」
「じゃ、じゃあうちに来てください!私と一緒に、美味しいりんご作りましょう!!」
「ふふ、喜んで。すげー熱烈なプロポーズしてくれるねえ。良かった、レクスバルトが王都帰った後で。こういうのはやっぱ、二人きりじゃないと締まらないしね」
「――あれ、本当だ!レクスバルトさんがいない!?」
一体いつの間に?と周囲を見回すココ。リシャスさんは素敵です!って言ってくれてたあたりだから、もうそこら辺にはいないと思うよ。とは言わず、リシャスは代わりに小さく笑った。
レクスバルトは、無言でリシャスに片手を挙げて、ぬるっと夜の闇に消えていった。最後までマイペース極まれり。というかそれは、騎士団の飲み会で、盛り上がってる連中の後ろを抜けて、二次会行かずに帰る奴の行動だろうが。
「どうしよう。レクスバルトさん、せっかく黙って見逃してくれたのに。私、お礼を言いそびれちゃいました。お別れの挨拶も」
「いいっていいって。あのレクスバルトだよ?マジで要らねえって思ってるわ。これは絶対」
「そうでしょうか。――それにしてもレクスバルトさんは、どうして私を見逃したり、リシャスさんを殉職扱いにしてくれたんでしょう?後で問題とか、起きないといいんですけど」
「んー?まあ、ぶっちゃけ興味なかったんじゃない?どうでもいいっつーか。そうした方が、面倒がないって判断したとかね」
リシャスはあえて軽く流したが、ココが本物の聖女だった件はともかく、部下である自分が死んだ件は、レクスバルトに何らかの処分が下ると予測していた。
さすがに、降格はないはずだ。短期間の左遷、くらいが妥当なところか。つまりは前線送りなわけだが、レクスバルトの奴ならきっと、喜んで行くことだろう。ただし、あくまで無表情で。あの温度のない、真顔のままで。
今回の護衛任務で偶然組まなかったら、リシャスはずっと、気がつかなかったかもしれない。冷ややかな美貌と、いかにも完璧な騎士といった雰囲気を持つ、レクスバルトだが。
「――どれだけ真面目に見えたところで、真面な奴とは限らないんだな」
人は見かけによらぬもの。いやー勉強になったわ。とリシャスが呟くと、ココも苦笑しながら頷いた。
左の肩に愛しい重みを感じながら、リシャスは白み始めた空を見上げる。獣や魔獣たちが眠りから覚めて、本格的に動き出す前に、この森を抜け出した方がいいだろう。
本当は、もっと寝かせておいてあげたかったけどね。と隣を見ると、自分にもたれかかったココが、座ったまま静かな寝息を立てていた。昨日は怒涛の一日だったから、体力のある彼女でも、さすがに疲れてしまったようだ。
剣はいつでも抜けるようにしてある。焚き火の横に魔獣避けランタンを置いてはいるが、魔の森で油断は禁物だ。
この紙ランタンは、レクスバルトが唯一、ここに残していったもの――あ、いや。氷漬けにしたイノシシの肉塊もあったわ。リシャスは思わず笑ってしまった。
ちょうどいいから、これはココの実家への手土産にしよう。第一印象が、ものすげえことになりそうだけど。
「むにゃむにゃ……う〜ん、もう食べられない……」
「えっマジで?この寝言、本当に言う奴いるんだ?やっべー。昨日の今日なのに、既に人生がだいぶ面白い」
「リシャスさん、助かります……え、わかりました……はい、あーん……」
「代わりに食べるからって抜け目ねえな、夢のオレ。そのうち、現実のオレにもやってもらおうっと」
ココが夢の中で、お腹いっぱいになるまで、一体なにを食べているかはわからない。ただ、その寝顔はなんとも幸せそうで、大変結構なことだった。
幸せをお裾分けされているような気持ちのまま、眠る彼女をしばらく眺めていたリシャスだったが――やがてスッと、あるものを取り出して見る。
それは、魔獣避けの護符。昨日レクスバルトに、たぶん半分くらいはふざけて、顔に貼りつけられた一枚だった。
殉職を偽装するために、掴んだ髪を切り落とされる直前。レクスバルトは、リシャスだけに聞こえる声量で告げた。
『これが最後の命令だ。騎士リシャス。その命が続く限り、聖女ココを護衛しろ。生涯かけて守り抜け』
言われなくても、とリシャスは思う。腕一本捧げたって、惜しくないような女性なのだから。騎士を辞めて別の生き方を選んでも、騎士の精神まで辞めたりはしない。
リシャスはこの護符を、効果が切れても取っておくことに決めた。もう二度と会う機会はないだろうレクスバルトの代わりに、これに顔向けできない真似はしない。そんな、自分自身への誓いのために。
「――拝命しました。上官殿」
リシャスは隣で眠るココを、起こさないよう、そっと撫でた。
「よっしゃあ、魔の森脱出!いやーいろいろあったねぇ。なんか、すっげえ濃かったわ」
「本当ですねっ!レクスバルトさんの方は、大丈夫でしょうか?魔獣避けの護符は、まだあったみたいですけど」
「平気平気。あいつ本当、嘘みたいに強いから。ギリ人間ってレベルだからさー。たぶん護符は、一人なら使ってないんじゃないかな?敵は倒せば問題ないだろう、とか言うタイプだし」
「ひええ、規格外。でも言いそうだなあって、なんとなくわかります」
レクスバルトの頭のネジの外れ具合を、リシャスはつい、ココと二人で再確認してしまった。なんとも嫌すぎる、愛の共同作業だ――そういえばレクスバルトの奴は、あんなんで結婚とかできるんだろうか。婚約者がいるとは聞かないが。
あーやめやめ!と頭の中からレクスバルトを追い出して、リシャスはその場に荷物を置く。そして適当な木の枝を拾って、ガリガリと地面に図を描いた。
「現状確認ね。このでっかい丸が、今オレらが出てきた魔の森として。あいつはこう行ったから、そうだなあ。西側の男爵領にでも抜けるかな?はい、次ココちゃん」
「えっと。じゃあ、私たちの現在地点がここで。コソラット子爵領の領都がこの辺り。私の村は、川沿いをこう行って――」
ここには、形の良い山が。こっちには、綺麗な湖が。受け取った枝を使って、嬉しそうに説明するココを見て、あー頑張って良かったな、とリシャスは思う。
惚れた女のこんな笑顔を、これから毎日見られるのなら。決断した新しい生き方を、後悔なんて絶対しない――そう確信して、リシャスは笑った。
「ココちゃんってさ。本当に、コソラット子爵領の子!って感じだよね」
「はい?ええと、そうですね。これからはリシャスさんも、同じコソラット子爵領の人ですよ」
「そうでしたー。いいね!オレ、めっちゃ楽しくなってきたわ」
「わあ、良かった!――あの、リシャスさん。実は私、ちょっと聞きたいことがあって」
木の枝をサッと地面に置いたココが、もじもじしながらリシャスを見る。何度か口を開きかけて、けれどなかなか言葉にはせず。ただ、その頬だけが、じんわりと赤くなっていく。
そんな初々しい様子に、リシャスは優しく微笑んで、ゆっくり首を傾げて見せた。
「んー?なあに、ココちゃん」
「そ、そのっ――これから一緒に、私の村に行くと思うんですけど」
「うん」
「お父さんとか、お母さんとか。親戚の人たちとか、友だちとか。村のみんなに、リシャスさんのこと、なんて紹介すればいいのかなあって。元騎士ってことは、言わない方がいいんですよね?」
「そうだねー。それは一応、内緒にしときたいんだよね。たぶん、バレても問題ないとは思うんだけどさ。レクスバルトが途中で帰ったのも、自分がいたら騎士団の同僚だって一目瞭然だから、その辺考慮したんだろうし。――まあ、そこで魔の森の中で普通に解散する辺りが、まさにレクスバルト!って感じなんだけど」
北の領地は、確かに王都から遠い。とはいえ、あくまでリシャスは、殉職を偽装した身だ。少なくとも数年間は、大人しくしておきたい。説明を聞いて、ココはしっかりと頷いた。そしてまた恥ずかしそうに、もじもじし始める。
「じゃあ、じゃあ、リシャスさんを紹介する時はっ!王都で知り合って、村までついてきてくれた、私の――」
「私の、なーに?」
「な、なんかリシャスさん、笑ってません!?」
「だーって、ココちゃんすげえ可愛いからさぁ。ただ打ち合わせしてるだけなのに、もう耳まで真っ赤だよ」
リシャスの指摘を受けて、慌てて手で耳を隠すココ。両手が塞がった彼女に、リシャスは「隙あり」と言って、すかさず触れるだけのキスをした。チュッと軽いリップ音を出したのは、もちろんわざとだ。
「リリリリリリリ、リシャスさん!?」
「あれ?近くで虫が鳴いてる?」
「んもう!んもう!ずるすけこのっ!」
「お、今のはわかった。ズルくてごめんねー?ココちゃん、お願い。機嫌直して?」
そう言って笑いながら、リシャスはココを正面から抱きしめる。一瞬固まったココは、けれどすぐに、精一杯ギュッと抱きしめ返してきた。
あたたかくて、やわらかい。あー幸せって、こういう感触だったんだな。
そんなことを考えながら、リシャスはココの耳元に、そっと囁きを落とした。
「それじゃ、答え合わせしよっか。オレのことは、こう紹介してよ。――この人は、リシャスさん。王都から連れてきた、私の旦那さんです。ってさ」
「――はいっ!」
一生かけて守ると決めた、リシャスだけの聖女は――まるで花が咲いたような、とても幸せそうな顔で笑った。
レクスバルトとは五年後くらいにぬるっと再会します




