春は、知らないふりをして始まる。
この物語は、恋愛だけを描いた作品ではありません。
夢を抱いて新しい土地へ来たこと。
思うようにいかない大学生活。
生活のために働く夜の世界。
心が壊れそうになった日々。
誰かを愛したこと。
そして、大切なものを失ったあとも、生きていかなければならないこと。
そんな「人生の一部」を、一人の女性の視点から描いていきます。
派手な展開は少ないかもしれません。
けれど、何気ない日常や言葉の中にある感情を大切に、一話一話紡いでいきたいと思っています。
この作品が、誰かの過去や現在、あるいは未来にそっと寄り添える物語になれば嬉しいです。
どうぞ最後までお付き合いください。
春は、いつも希望の季節だと言われる。
新しい制服。
新しい教室。
新しい街。
新しい夢。
だけど、私にとって春は「失う準備を始める季節」だった。
地元を離れ、引っ越して来た日。
母は最後まで笑っていた。
「困ったらいつでも帰っておいで。」
その言葉に私は笑って頷いた。
帰るつもりなんてなかった。
先生になる。
その夢だけを抱えて電車に乗った。
教育学部。
教員免許。
子どもたちの前で教える自分を想像していた。
未来はちゃんと続いていくものだと思っていた。
でも人生は、教科書みたいにページをめくれば次へ進めるものじゃない。
ある日、ほんの少し歯車がずれた。
朝、起きられなくなった。
学校へ行く支度をしても玄関で動けなくなった。
理由なんて分からない。
涙だけが勝手に出てくる。
「頑張らなきゃ。」
その言葉だけが頭の中で何度も響いた。
頑張れない自分が、一番嫌いだった。
⸻
夜になると、別の私が始まる。
明るい照明。
派手なドレス。
作り笑い。
「こんばんは。」
そう言った瞬間だけ、自分じゃない誰かになれた。
お客さんは笑う。
私も笑う。
本当は笑ってなんかいない。
でも笑えば生活できる。
家賃を払える。
大学へ行ける。
借金を返せる。
だから笑う。
笑顔にも時給があることを、この街で初めて知った。
⸻
そして、その頃だった。
一人の男の人と出会った。
恋は突然始まるものじゃない。
気づいたら隣にいる。
それだけだった。
何時間も話したわけじゃない。
豪華なデートもない。
コンビニへ行って。
スーパーでご飯を選んで。
ソファで動画を見て。
眠くなったら昼寝をする。
その時間だけ、私は「普通の二十一歳」になれた。
借金も。
大学も。
うつも。
夜の仕事も。
全部忘れられた。
だから好きになった。
彼自身よりも。
彼といる時の「何も背負わなくていい私」が




