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刺激臭は瞬く間に濃くなり、乗員たちはブリッジの出口へ殺到した。
一斉に押し寄せ、互いに肩や背中を押し合い、身動きが取れなくなる。
刺激臭は瞬く間に濃くなり、乗員たちは本能的に出口へと雪崩れ込んだ。
狭い出口へ押し寄せた群れは、狭いドアにせき止められ、倒れた体が折り重なって通路を塞ぐ。
ガスマスクを求め、壁際のラックに群がった乗員たちも、伸ばした腕をが毛髪の
ように絡め合い、脱力しながら床へ沈んでいった。
ヴァルターは手錠のまま、袖を口元に押し当てて必死に呼吸を抑えた。
肺が焼けるように痛む。
目も開けていられない。
(……限界だ)
膝が揺れ、床が近づいてくる。
そのとき――
背後から何かが口元に押し当てられた。
布とゴムの感触。
空気が変わる。
刺激臭が薄れ、呼吸がわずかに楽になる。
ヴァルターは振り返った。
そこには、防毒マスクをつけた若い兵士が立っていた。
「間に合ったな、伍長」
低く抑えた声。
その背後には、同じくマスクをつけた数名の兵士が立っている。
「振動罠だ」
若い兵士は、ヴァルターの肩を支えながら静かに言った。
「外れた配管から、海水がバッテリーに流れ込むと、電圧で分解された海水から、塩素ガスが発生する。それで、配管を支えるクランプを細いワイヤーへ交換した。潜航時、ディーゼルから電気推進に切り替わる振動で、破断するようにな」
兵士は続ける。
「賛同者が多数にならない場合の最後の手段だ。
細かい段取りまで伝えきれなかったが、上出来だったな」
背筋に冷たいものを感じながら、呼吸の落ち着いたヴァルターは、周囲を
見渡した。ブリッジには、マスクをつけた者たちを除き、倒れて動かない
乗員ばかりだった。副長も、通路の入口付近で崩れ落ちている。
だが――
フリンツの姿は、どこにもなかった。
若い兵士は周囲を一瞥し、静かに言った。
「出入口はふさがれている。
逃げ場所があるとしたら……」
彼はゆっくりと視線を上げた。
艦橋へと続く梯子の先――
暗い天井のハッチを見つめながら。
梯子を上りきると、艦橋へ通じる丸いハッチが現れた。
若い兵士がハンドルを回そうとしたが――
ガチリ。
重い金属音が返ってきた。
「……ロックされてる。内側からだ」
兵士が顔をしかめる。
ヴァルターはハッチに近づき、拳で軽く叩いた。
「フリンツ! そこにいるんだろう!」
返事はない。
ヴァルターは続けた。
「もう終わりだ! ガスで皆やられた!
お前一人でどうするつもりだ!
ハッチを開けろ、投降しろ!」
しばらく沈黙が続いたあと、若い兵士がヴァルターに目を向けた。
-艦橋に海水を引き込む→P.116
-ハッチを爆破する→P.117
-艦橋付近の配管にタンクブロー(圧縮空気の放出)する→P.118




