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嵐の目前にて(下)

「……そのルドガー様は、何がしたくて、何をしているんでしょうか。今はブラスエガが内戦状態で、教団も南部の対応に追われているから良いですが、どちらかに本腰入れられれば壊滅でしょう。となれば、今のうちに少しでも勢力を拡大させておく必要があるのでは?」


 逆賊に様などつけるなと睨まれたので、神妙に詫びる。教育係はため息をついた。


「あながち間違ってはいない。実際、周辺諸都市に呼びかけはしているようだ。まずは足場を固めねばどうにもならん……それに、楽団に攻め込むというわけにもいかんだろう。考えうるとすれば、ブラスエガの兄弟どちらかと協力する線だが……楽団だからな。そういうことは失敗しやすいだろう」


「…………ところでそのルドガーさんって、あのリゼルド様の腹違いなんですよね」

「それを言うな、頭痛が増す」


 嫌な予感しかしないのは、考えすぎだろうか。そうであってくれれば良いのだが。


「続けて、楽団南部だ。この中央部のグランバルドから話すか。ここは現在、ガルディアという男が支配している。このガルディアに対して、総帥が南部に討伐命令を出した。南部各州はそれに向けて動いている状態だ」


 歪な台形状のワリアンドとナーガル、そしてその間の、三角状のグランバルド。三つの州を教育係はすっとなぞる。


「グランバルドの西側の州が、ギルベルトの率いるナーガル。総帥の令さえなければ、ワリアンドへの牽制にここを利用できたかもしれないがな……そして、グランバルドを挟んだ東側にあるのが、ベルガルムが治めるワリアンドだ。二州は現在、挟み撃ちのような形でグランバルドを攻め落とそうとしている」


 同時進行で、ワリアンドは教団へ侵攻しているのだが……まあ十中八九、教団の方が片手間であろう。総帥の命令の優先度は非常に高い。


「ワリアンド内部の中々混迷しているが、今は危うい均衡で静まっている状態だ。一時休戦は総帥の命令だからな」

「ベルガルムとヴィラーゼルと、あとヴェスピウスとかバルタザールでしたっけ」


「……まあ重要な名前はその辺だな。知っての通りベルガルムは州都に陣取っているし、ヴィラーゼルは北側のルゾア山脈で籠城。そしてグランバルドへの対処に当たっているのがヴェスピウスとバルタザール……だったのだが……」


 段々と眉間に皺が寄る。教育係はそれを指で解しつつ、ため息を吐き出した。


「先日届いた報告によると、どうにもバルタザールはガルディアと何か取引したようでな。彼としては、この件の早期終結は望んでいないのだろう」

「そうですか……」

「ワリアンドが割れてくれれば、我らにとっても都合がいい。ただ……肝心の、ヴィラーゼルとベルガルムの間で休戦が成立してしまったからな。総帥の指示である以上、暫くは衝突せんだろう」


 更に話は騎士団領へと移行する。南にある大きな領土を、ぐるりと囲うように指を動かした。騎士団には、特に内乱や戦争の兆しはない。唯一戦闘状態にあるのは、楽団や教団ともほど近い二都市である。


「——そしてサフォリアとロスフィーク。こちらも相変わらず膠着状態だ。いつまでだらだらと戦闘を続けるつもりなのか……同じ騎士団に属する者同士、矛先が鈍るのは分からんでもないが。このままではなあなあになりそうだな」


「そうですね。……あの、師範」

「何だ」

「大丈夫なんでしょうか。これ」


 地図を眺めて、ぼんやりと思ったことだった。すかさず睨まれ、「要点を明確にしろ」と言われたので、少し考えて言葉をまとめた。


「……だってほら、今の戦力は多くが南西部に集中しているでしょう。各個撃破、優先順位をつけて現実的な脅威に対応するというのは分かりますけれど。例えばこの辺りから騎士団が攻めてきたら、ここまで一直線に来られてしまうのでは?」


 地図の南から、なぞるように指を動かした。それにジレスは「滅多なことを言うな!」と叱りつける。


 人の耳目を警戒したのだろう。軽く辺りを確認してから、声を落として、

「オルシーラ姫がおられるのだから、裏切ろうにも裏切れまい。それに…………言っては何だが、今の騎士団にそれほどの力はない」

「…………?」


 シノレは首を傾げた。やはり腑に落ちない。その言葉の、後半は良いとしても――


「どうしてオルシーラ姫がいると、裏切られない保証になるんですか?」

「……これ以上ない保証だろう。騎士団の姫が、言葉を選ばず言えば人質になっているのだぞ。そこに攻め込み危険に晒すなど、まずできないだろう」

「そうでしょうか……」


 ……騎士団や教団では、そういうこともあるのかもしれない。あまり自信はないが。シノレは釈然としない思いで、首を傾げた。




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