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空気読め…!!

「エルク様……シノレも。奇遇ですね」


 やって来たのは、何と聖者だったのだ。エルクはすぐに立ち上がり、「もうお加減はよろしいのですか」と尋ねた。


(え、何これ……何、本当に……この……)


 聖者がやってきた。それはただ、たまたま通りがかったのだろう。単なる偶然の産物だ。そう思うのに、何故だか冷や汗が出てきた。


「今日は気分が良くて……ずっと部屋にいるのも、息がつまりますから」

「そ、そうですか。それなら良かったです……あの、聖者様には本当に、城中の誰もが感謝していて……勿論僕も、一日も早いご回復を願っておりました」

「ありがとうございます」


 聖者が微笑むと、エルクも比例して嬉しそうにした。シノレはぱくぱくと口を開閉させたが、何だか割り込めないものを感じて一歩下がってしまう。


「引き換え、僕ときたら全く不甲斐なくて……迷い苦しむ教徒たちを前に、何の力にもなれず、心苦しい限りです。僕以外のワーレン一族であったら、もっと何かできたのではないかと……」

「…………そんなことはありませんよ」


 わずかに微笑を曇らせつつも、聖者はエルクの手を取った。


「少なくとも私は、エルク様から力を頂いております。ですからどうか——そのように仰らないで下さい」


 ——ああ分かってる。聖者に全く他意はないのだ。いつも通り、大勢の教徒たちを励ます時と同じ感覚でやっているのだ。

 だからこそ見ていられない。シノレは顔を覆いたくなった。


「私だけでなく皆、エルク様がシアレットに寄り添い、御心を砕いて下さっていることに感謝しております。ですから、どうかご無理はなさらないで下さいね」


 そうして、普段よりも温かい、親しげな笑みを見せる。エルクはそれにやや俯きながらも、感謝の言葉を返した。


 その声は、耳がおかしくなっていなければ、少し震えているように聞こえた。シノレはその流れを、声もなく見守るしか無かったのだ。


「…………………………」


 シノレは特別心の機微に聡いわけではないし、気が回る性質でもない。今までにも教育係から、常識なしとか愛想がないとか気が利かないとか文脈が読めないとか社交下手とか散々言われてきたものだが、そんな自分が言えたことではないかもしれないが、それでも胸中で叫ばずにはいられなかった。


 ——――空気読め!!!!!と。



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