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手に汗握る恋愛相談

「あの、君は……その、いつも聖者様と一緒ですよね」

「いや、いつもってわけでも……」

「でも、聖者様に一番近しいでしょう?何と言っても、聖者様御自らが望まれた方なのだから」

「……いや……」


 何だろう、妙な悪寒が背筋を這い上がってくる。エルクは落ち着かなさそうに、そわそわした素振りで、ぎこちなく言葉を探しているようだった。


「最近、何だかおかしくて……聖者様をお見かけすると、目で追ってしまうし、お声を聞くと落ち着くし……お会いすると、その、鼓動が早まると言うか……」

「……体調不良ではないでしょうか。最近お忙しそうですし、お疲れが溜まっておいでなのでは」


 そう答えながらも、シノレの悪寒は酷くなる一方だった。おかしい、まだ冷え込むような時期でもないのに。対してエルクの頬は、僅かに赤く染まっている。


「……聖者様には感謝しています。あの時、醜態を晒しそうだった僕を助け、教徒たちの心をも救ってくれた。ああ、この方は本当に天の恩寵なのだと――そう、心から尊く思い、感じ入ったのです」

「……はあ。つまり、感謝と敬愛の念が高じてそうなってしまったのでしょうか」

「そうなんでしょうか……。近頃は、何でもない時も聖者様の笑顔を思い出してしまって、こう、胸が締め付けられるような感じで……暇があれば聖者様の絵を描いてしまうんですけれど、全然上手くいかなくて……」

「……………そ、そうですか……」


 シノレは、聞いてて何故か冷や汗が止まらなかった。


 案の定というか、エルクの異常の発端は、先日の、聖者がエルクを助けた件にあるらしい。あの時エルクが限界に近かったことに、シノレは気づいていた。何しろ、前に倒れかけたエルクを支えたのはシノレなのだ。それから何だかんだ交流してきたのだし、追い込まれていたことくらい分かる。


 そこにあれだ。聖者の劇的な声がけと、熱狂的反応を思い出す。あれを前に、まあ何か、特別な帰依的感情が沸き起こってしまったのだろう。本質的には、数多の教徒たちが聖者を偶像的に崇めるのと大差はないはずだ。そうであってくれ。


「とにかく、一度きちんと休養を取った方が良いのではないかと……この状況では、難しいと思いますが」


 ただでさえ聖者は特殊な立場で、教主と軋轢があるらしいのに――ここに来て、よりにもよって、教主の異母弟が聖者に惹かれる?以前向けられた教主の視線の冷徹さを思い出して、ぞっとした。


 どう考えても不味い、面倒事の予感しかしない。頼むからもうやめてくれ。そんな特大の爆弾のような情報を知らせないで欲しい。


 短い、一時的な熱病のようなものならいい。けれど長引いたなら、各方面にどんな影響を及ぼすか知れたものではない。


 これ以上聞いてはならない、その先は引き返せない蟻地獄だと、けたたましい警鐘が頭の中で鳴り響く。しかしエルクは、微妙に顔を青くしたシノレの様子に気づかない。


「……そうでしょうか。でも……」


 幸い――と言って良いのかは分からないが、それ以上は聞かずに済んだ。けれど、シノレはすぐに頭を抱える思いをすることになる。



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