当然の帰結
「もう良いよ、出てって。サウスロイ、話そっか」
人払いを命じ、サウスロイと二人になってから、リゼルドは笑い出した。
「本当、僕のことが分かってないね。普段あれだけまとわりついておいて」
「仕方がないでしょう。凡人には御主人様の深淵は計り知れぬのです」
「……怒る理由なんてどこにもない。裏切りでも何でもない、当然の帰結だ。理由なんて、数えるのも馬鹿馬鹿しい。幾らでもある、話し尽くせないくらい。この夏だけでも色々あったしねえ」
「ええ、ええ、昨日のことのように思い出せますとも!」
サウスロイは華やいだ声で相槌を打つ。それが望まれていると分かっていた。
「お母君が刺客を送り込んだこと、この夏だけで九回もございましたからねえ。ですがそれ以上に、ご主人様の仕打ちがねえ……」
言いながら彼は、まだ記憶も生々しい、先月のある一日を思い出す。
「手枷足枷首枷嵌めて炎天下で一日晒し者は、流石にやり過ぎだったのでは?」
「え、やりすぎ?どこが?」
心底不思議そうにリゼルドは聞き返す。干からびる前に許してやったのだし、本人的には普通に情をかけているつもりだったのだが、第三者からはそうはいかない。
真夏の昼中に拘束して、日差しの下に放り出すだけでも充分酷い。しかもその傍に鞭が、どうぞご自由にお使い下さいと言わんばかりに置いてあった。あれを見た時は、流石のサウスロイも引いた。
「いやあれくらい、楽団だったらよくあるやつじゃん。下の鬱憤晴らしにもなるし、規律維持のための必要経費だって」
「いやいや!流石に血の繋がった身内相手にあのようになさる方は、楽団でも少数派ですよ!」
「ああ、そうだろうね。……血の繋がった相手なら尚更、迅速に、確実に、逆転の余地なく殺さないといけないだろうし。楽団はあんな半端はしないか」
リゼルドは頷く。サウスロイは困り果てた様子で天を仰いだ。
「……北部は大混乱でしょう。どなたかが収拾にかかるのでしょうね?」
「シュデースの当主と、ソリスだろうね。あいつらの領地は北に集中してる。僕はまあ、南にいなきゃいけないみたいだけど?」
「……もしやまだ、楽団で巡行をなさるおつもりでしょうか?」
「悩ましいね。やりたいことが多過ぎるんだよ」
リゼルドはくすくすと笑った。サウスロイは少し考えて、話題を変えることにした。
「……時に、ソリス様という方はどのような人なのでしょう?確かファラードの当主様ですよね?お名前だけは伺ったことがありますが、人となりなどは存じ上げませんで……」
「ソリス?腰抜け、泣き虫、猫好き、以上」
「嗚呼成程つまりつまり、御主人様に無いものを持っている御方だと!!」
「あ、分かる~?まああれはあれで、得難い珍獣だと思うんだよ」
リゼルドはまた、声を立てて笑う。だが、その声は先ほどのものとはやや違った。リゼルドは首を巡らして南の方を向き、
「…………でもさあ、これはあいつの手に負えないだろうね」
口の中で呟いた。




