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奇妙な少女と剣

「……何だったの、今の」

「さあ……」


 室内に残されたシノレと聖者は目を見合わせる。聖者は小さく咳払いして、もう一度人払いを指示し、また静寂が戻った。


「……中断されてしまいましたが、先程までの話を、もう一度改めてお願いできますか」

「それは良いけど……」


 そしてシノレは、改めて報告した。眠り続けているような剣のこと、そして先月の襲撃で城が騒ぎになった中、訪ねてきた奇妙な少女のことも。


「そうですか。その方が、あれに関心を示したと……具体的に、何を聞かれたのですか?」

「これは何だとか、どこで手に入れたとか、お前が管理してるのかとか、そういうことだね。あと……なんか、凄く胸元を気にしているような感じだった」

「胸元を気にしていた……具体的に、どんな風に?」

「胸……というか、鳩尾の辺りを、時々手で抑えてたんだよね。何の意味があるのか知らないけど」

「…………」


 聖者は小さく眉を顰めた。


「……それで、その後は何かありましたか?」

「分からない」


 シノレの答えに、虚をつかれたように首を傾げる。少し気まずくなって、肘の辺りに視線を反らした。


「色々質問攻めにされたのは覚えてるんだけど……気づいたら床に倒れて寝てて、朝になってた。勿論、相手もいなくなってた。最後に覚えていることは、何だっけ。……確か、痺れを切らされて、何かされた気がするんだけど」

「……大丈夫だったのですか!?」

「いや、全然問題はないよ。あれからも特に異変はないし、ただ…………あの時、何かあったような気がするけど。どうも思い出せなくて」


 気づけば朝だったので、夢かとも思ったが、あんな妙な夢を見るような心当たりはない。シノレには、事の原因が剣にあるとしか思えなかった。


「……やっぱり、危険だよね。あの長櫃にあるもの。長櫃ごと隠しておいた方が良くない?」

「勿論危険ですけど……誰かに剣の力を悪用されることは、考えなくて良いと思います。白竜の時のあれは、私と貴方が揃っていたからこそのものです。これから先剣が目覚め、貴方の力が高められれば、貴方一人で行使することも可能でしょうが……」

「いやいやいやいや」


 シノレはぶんぶんと首を振った。あんな力、到底手に負えないし、振るいたくもない。できることなら再び海にでも沈めて忘れたいというのが本音だったが、そうもいかなさそうだった。


「実際、あれをどうしたら良いと思う?」

「……この先巡礼に出るとしたら、必ず必要になります。貴方が持ち続けていれば、目覚めも訪れることでしょう。それが大きな災厄として、人々に降りかからないことを願うばかりです」

「……門を閉ざす鍵、なんだっけ」

「はい。そうなれば旧時代の罪と、世界にかけられた呪いは解けるはずです。……それが私にできる贖罪であり……ここに来た意味なのだと、そう思っています」


 そう口にする聖者は、酷く苦しげだった。何かとても大切なものを断ち切ろうとして、懸命に自分を説き伏せているかのような。


 聖者が何か、途方もなく重いものを抱えているのは分かっている。けれどその底にあるものは見えてこない。それを問い質しても答えないだろうことにも気づいている。


「剣のことは、自然の流れに任せましょう。いづれ覚醒は訪れる。その時まで待つのが結局は近道でしょうし……駄目になったなら、その時また考えます」


 そこまで言って、聖者は疲れた顔で脱力した。まだ傷の痛みが残っているし、体力も戻っていないのだろう。


「でも……これからまた、こういうことが起きたら。その時はどうか、私を顧みないで下さい。私を信じないで下さい。私のために、貴方が何かをしないといけない義務はありません」

「……好きにしろってこと?聖者様が死にかけてる時に、見捨てて逃げても良いんだ。勇者ってその程度のもの?」

「そういうことではありません。これ以上貴方から何かを奪いたくないということです。……私は好きにしますので、貴方もそうして下さいという話です」

「無責任」

「……すみません」


 吐き捨てるような言葉に、聖者は弱く、悲しげに、たとえようもなく美しく微笑した。

 シノレは追及したい気持ちもあったが、それを見て止めた。そのまま出ていこうかとも思ったが、聖者がまだ話したそうだったので世間話をすることにした。


 特に使徒家の者たちのことは、共通の話題だけに話しやすかった。シアレットでのここ最近の入れ替わりを知って、聖者は口元を抑えた。


「ユミル様とご一緒に、シオン様も発ってしまったと……少々、ジレス様がお気の毒ですね。互いに多忙な日々が続き、まだゆっくりとお話もできていなかったでしょうに……」

「……え、なんで?あの二人実は仲良いの?」


 聖者はごく淡い金髪を揺らし、意外そうに首を傾げた。


「……もしかして、言っていませんでしたか?ジレス様とシオン様は、婚約者同士ですよ」

「…………はあっ!?」


 それがシノレの、その日一番の驚きだった。



多分シオンはジレスをお姫様抱っこできます


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