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聖者の復活

 その朝、シノレは早くからそこに呼ばれた。


「……聖者様」

「シノレ。来てくれてありがとうございます」


 シアレットの城の最上階で、寝台に身を起こした聖者と向き合う。来た時には既に人払いがされていたので、部屋に二人きりだ。聖者を見つめるシノレの顔に浮かぶのは何とも言えない表情だった。


「えっと……何と言うか、まあ、治って良かったね……?」

「はい。貴方にも迷惑をかけました」

「…………」


(えーーと……どうすれば、というか、どういう気持ちでいれば良いんだ、これ……?)


 死んだ者と割り切った相手が復活したことなど今まで無かったし、シノレはさっさと切り替えて逃げ出すつもりでいたわけで…………正直、非常に対応に困っている。何を言えば良いのか分からない。


「あ、あのさー……えっと、この部屋もしかして、先客いた?」

「……先ほど、レイグ様がいらっしゃいました。ですが大丈夫ですよ、もうお話は終わりましたので」


 そしてまた沈黙が流れた。シノレは観念して、本題に入る。


「それで……もう大丈夫なわけ?」

「ええ。お騒がせしました」


 それでもシノレは、訝るような、胡乱げな眼差しを外さなかった。そんなシノレの視線に気づいてか、聖者は微苦笑して、


「このことについては、まだ話していませんでしたからね。貴方にも何かと迷惑をかけたと思います。でも、本当に大丈夫なのですよ。……つまり、こういうことです」


 聖者の手元には、見舞いの果実と一緒に小刀も置かれていた。それを取り指先に滑らせると、小さく血が滲む。


「……っ」


 ぎょっとするシノレをよそに、一滴の血を指から落とす。血がぽたりと落ち、寝具に小さな染みを広げた。そして――


「私は、傷の治りが人と比べて大変早い。そういう性質を持っています。どうやっているかは、今ので分かりましたか?」


 その間に傷は塞がり、何もなかったように治っていた。するりと編まれ、傷口を塞いだ魔力の流れが、シノレにもはっきりと感じ取れた。


「……例の力で、その……治癒力を強化したってこと?」

「まあ、そのようなものです。私は元々、人よりずっと頑丈なのです。……私は、この力のことは秘匿してきましたが……治癒力の高さについては、使徒家の方々もご存知です」


 それで色々腑に落ちた。聖者が妙に自分を顧みないのも、その体質故だったのだろう。前にも一度、自分が頑丈だと言っていた気がするし、何より――


「……前に、聖都から脱走した時。リゼルド様に取引を持ちかけていたのも、そのことがあるから?」

「……私は元々、リゼルド様とは殆ど面識がなかったのです。あの方のことを知りませんでした。ただ、聞き知った情報から……痛めつけても死なない人間というものに、それなりに興を見出して頂けるのではないかと。あの時は、それしか思いつきませんでした」

「どうかと思うよ、そういうの」


 聖者は困惑した様子だった。それにますます、曰く言い難い感情が込み上げる。


「シノレ……怒っているのですか?」


 そう聞かれて、やっと自覚した。胸の奥から沸々と湧き上がる、これは苛立ちだ。

 何だか、ずっと、無性に苛々する。これは一体何なのだろう。


「治癒力が高いから、死ににくいから何?自分が率先して犠牲になれば良いっていうのがあんたの考え?」

「……そうですか。……そうですね」


 微妙な声の荒さに、シノレの感情を感じ取ったらしく。聖者は弱く目を伏せた。シノレは耳に掛かった髪をどけて息をつく。確認しておきたいことがあった。


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