狂気と紙一重の崇拝
シノレも、階下から呆然とそれを見ていた。
(何……何だ、あれ)
聖者の全身から膨大な魔力が溢れ出し、空間に満ちる。その流れがはっきりと感じ取れた。眩いほどの奔流が流れこみ、人々の魂が焼かれていく――そんな感覚すらした。
生きていたのか、と思った。それと同時に何か、今まで感じたことのない感情の渦がこみ上げてくる。しかしそれについて考えている暇はなかった。
聖者の魔力が、シノレにも押し寄せてくる。咄嗟に魔力を展開させて壁にしたが、それを溶かすような強烈さだ。急造したものでは間に合わず、魔晶銀の護符に溜まっていた魔力まで使うことになった。
その甲斐あって、圧は和らいだ。それでも頭がくらくらとした。過去も思考も人格も押し流すような光の奔流に、意識が流されそうになる。聖者様万歳、全てを捧げるだなんて、馬鹿げた言葉を口走りそうになる。
シノレですらそうなのだ。対策をせず無防備にそれを浴びた教徒たちは、即座に聖者を讃える叫びを上げた。声が響き合って増幅し、狂気と紙一重の崇拝が加熱していく。
聖者様、と誰かが感極まった声で呟く。泣き出す者もいた。空間に満ちていた焦燥や不安が、瞬く間に薄れていく。強い光が差して、影が隅に追いやられるように。
聖者の光に、教徒たちが歓喜の叫びで応える。地面を揺るがすような熱が噴き上がり、連鎖しながら広がっていった。




