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ヴィラーゼル

 水没しかけたヴィラーゼルを助けるため、エヴァンジルとニアは水面に飛び込んだ。体格に見合う重量のそれを引き上げるのに、エヴァンジルはずぶ濡れになって重労働する羽目になった。ニアが連れてきた動物たちもなぜか手伝ってくれた。ニア自体は特に役に立たなかった。


 脱力したヴィラーゼルを引き上げたら、全身に染み付いた水気をふき取る。服は絞って、布を当てる。それを終えたら髪だ。うららかな天気とはいえ、このままでは風邪をひきかねない。


「ほら!次は髪乾かすわよ、こっち向きなさい!」

「んー……」

「……象の兄さん、こっち」


 反応が薄いヴィラーゼルに、ニアが声をかけて注意を引いた。それでも反応が乏しいので、袖を軽く引っ張って向きを変えさせる。ニアにしては珍しい挙動だった。長い前髪の隙間から僅かに見える緑の片目は、光を受けて明るく光っていた。


 ヴィラーゼルの髪は長い。淡く黄を帯びた象牙のような色をしている。加えて、大柄な背中を覆い尽くすほどの長さと量があった。


「ちょっと何なのよこの髪!?どんな扱いしたらここまで絡まるわけ!?何日、いえ何か月櫛入れてないのよもーーーー!!」


 半狂乱気味に叫びながら、エヴァンジルは手持ちのもので丁寧に兄の髪を乾かして整えた。発狂寸前の叫び声だった。そこには葉っぱに小枝に糸屑に紙切れと、色んなものが絡まっていたり、謎のリボンが結ばれていたりした。


「象の兄さん、なんでこんなに氷玉だらけなの?」

「…………暑かったのだ。ほんとうに。夏中何度か死ぬかと思った……」

「そんな暑いなら、まずこの髪切ったら!?ちょっとは風通しが良くなるでしょうよ!!」

「いやあこれを切るとちょっと調子悪くなるのよなあー……ああ、暑い暑い……」


 ヴィラーゼルは一度立ち上がって伸びをする。その動きに、弟二人は呆れ顔で引いた。ヴィラーゼルはゆっくりと頭を巡らし、勢いよく服を叩く。そして絞り上げる。


「ちょっ、この大馬鹿何やってんのよ!!アンタの馬鹿力でそんなことやったら布が引きちぎれるわよ!!!」

「んー、へいきへいき」


 呑気に返事をするヴィラーゼルは、見上げるほど巨大な男だった。小柄なニアは勿論、長身と言えるエヴァンジルでも、頭頂部が胸辺りまでしか届かない。ニアに至っては腹部がやっとだ。並の平屋よりも巨大な体格は、立っているだけで威圧感を醸し出すものだった。


 だが、全体の雰囲気はそこまで威圧的ではない。寧ろ気の抜けた緩い雰囲気である。金色を帯びた淡い灰色の長髪に、それを更に薄めたような色味の肌。長い前髪が紗幕のように顔半分を覆っており、その目元は見えない。


 腰まで伸びるゆるっとした癖毛も相まって、それは人間というより雪男か何かの妖精を思わせる。全体的に人外のような、謎めいた空気があった。


「っていうかまだ髪が整ってないのよ!!座りなさい、とにかく座りなさーい!!」

「…………象の兄さん、座ってあげて。ね」


 青灰色の長衣がおおむね渇き、髪が梳られ、どうにかやっと身なりが整った時には、エヴァンジルは疲労困憊していた。ニアはぼんやり空を見ている。それをヴィラーゼルはじっと見つめた。長い前髪の下で、整った口元がふわりと緩む。


「ああ、誰かと思えば………よくきたなあ、弟たち」




メカクレ兄弟。メカクレが好きです。

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